十五話 世界が落ちた日
兵士の銃が両断される。
黒い刃。
火花。
悲鳴。
グロウの身体は、もう迷っていなかった。
踏み込む。
斬る。
流れるみたいに。
まるで。
何百回も戦ってきたみたいに。
兵士2「対象危険度上昇!!」
兵士3「戦闘記録と一致!!」
グロウ「……っ」
その言葉。
頭の奥で何かが弾ける。
断片。
炎。
崩壊した施設。
黒い刀。
血塗れの床。
『止めろ!!』
『被験体Gが暴走してる!!』
『記憶封鎖が追いつかない!!』
グロウ「……誰だ」
自分の声が遠い。
兵士が迫る。
銃口。
刃。
だが。
身体が勝手に動く。
斬撃。
速い。
速すぎる。
兵士の腕が飛ぶ。
悲鳴。
血。
リュミエール「グロウ!!」
その声。
一瞬だけ。
意識が戻る。
グロウの瞳が揺れる。
けれど次の瞬間。
黒い霧が傷口から噴き出した。
ライネが目を見開く。
ライネ「……お前まで」
グロウが頭を押さえる。
呼吸が乱れる。
グロウ「違う……」
頭の中で誰かが喋っている。
知らない声。
怒鳴り声。
笑い声。
『殺せ』
『守れ』
『逃がすな』
『また失うのか?』
グロウ「うるさい……!!」
黒霧が爆発する。
轟音。
空間が歪む。
塔が悲鳴を上げた。
巨大な亀裂。
白い街全体が崩れ始める。
エメ「っ!!」
テゾーロ「ライネ!!」
兵士たちが飲み込まれていく。
巨大な影が暴れる。
街が裂ける。
リュミエールがグロウへ手を伸ばす。
リュミエール「グロウ!!こっちへ!!」
だが。
崩落。
石畳が割れる。
グロウの視界が揺れる。
世界が遠い。
その時。
小さな手が、グロウの腕を掴んだ。
???「こっち!!」
白い花びら。
少女の髪。
泣きそうな横顔。
次の瞬間。
世界が崩れ落ちた。
・・・雨の音がしていた。
暗い部屋。
崩れた地下鉄跡。
水滴。
錆びた線路。
グロウはゆっくり目を開ける。
頭が痛い。
酷く。
知らない天井。
知らない場所。
身体を起こそうとして。
激痛。
包帯。
傷だらけだった。
近くで火が揺れている。
小さな焚き火。
その向こう。
少女が座っていた。
静かな横顔。
グロウ「……ここ」
少女が振り返る。
安心したみたいに息を吐く。
???「三日、寝てた」
グロウ「……三日」
声が掠れている。
頭がうまく回らない。
記憶。
崩壊。
ライネ。
リュミエール。
ルーチェ。
ルーチェ。
その瞬間。
胸が締め付けられる。
グロウ「……帰らないと」
立ち上がろうとして倒れる。
少女が慌てて支える。
???「まだ無理」
グロウ「離せ……ルーチェが」
言葉が止まる。
突然。
頭の中が真っ白になる。
グロウ「……ルーチェ?」
少女が息を呑む。
グロウは混乱していた。
今、自分が何を言ったのか。
分からなくなっている。
グロウ「……誰だ、それ」
少女の顔が青ざめる。
沈黙。
雨音だけ。
グロウは頭を押さえる。
苦しそうに。
グロウ「違う……知ってる……妹だ……いや……」
視線が揺れる。
人格がズレているみたいだった。
少女がそっと手を重ねる。
冷たい手。
優しい手。
???「大丈夫」
その声だけが。
不思議と遠くならなかった。
数日後。
崩壊した地下区画を、二人は歩いていた。
グロウはまだ不安定だった。
普通に話していたと思えば。
突然、記憶が飛ぶ。
別人みたいな目になる。
それでも。
少女は離れなかった。
グロウ「……なんでお前、俺を助ける」
少女は少し黙る。
灰色の空を見る。
???「放っておけなかったから」
グロウ「変な奴」
少女が少しだけ笑う。
本当に少しだけ。
つづく




