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君が忘れた名前  作者: オニたん


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14/25

十四話 忘却区画

鐘の音が止まらない。

白い街全体が揺れていた。

巨大な影は、ゆっくり呼吸している。

生きているみたいに。


ライネは黒霧の中心で立っていた。

その身体から溢れる霧が、空を汚していく。


エメ「兄さま……」

エメの声が震える。

ライネは振り返らない。

ライネ「エメ」

優しい声。

壊れそうなほど。

ライネ「もう時間がない」


テゾーロが顔を上げる。

苦しそうに。

何かを覚悟した目だった。

テゾーロ「まだ間に合う。戻るんだ」

ライネは笑う。

静かに。

諦めた人間の顔で。

ライネ「父さん」

エメが泣きそうになる。

ライネ「俺、もう人間じゃない」

空気が凍る。

黒霧が脈打つ。

街の奥で、巨大な影が唸る。


ライネ「中にいるんだ」

自分の胸へ手を当てる。

ライネ「ずっと、叫んでる」


その瞬間。

黒霧の中から無数の声が漏れる。

泣き声。

助けを求める声。

笑い声。

全部、人間だった。


グロウの刀が震える。

頭痛。

また断片が流れる。

暗い通路。

小さなライネ。

壁に寄りかかっている。

その隣に、自分がいる。

ライネ『なぁ、グロウ』

グロウ『ん?』

ライネ『もし俺が化け物になったらさ』

グロウ『は?』

ライネ『……殺してくれる?』

記憶が途切れる。

グロウ「っ……」

息が止まりそうになる。

なぜ忘れていた。

こんな大事なことを。

ライネは静かにこちらを見る。

まるで。

全部分かってるみたいに。


ライネ「思い出したか」

グロウは答えられない。

胸の奥が重い。

その時だった。

白い街の奥。

警報が鳴る。

今まで聞いたことのない音。

金属音。

機械音。


リュミエールの顔色が変わる。

リュミエール「……嘘」

テゾーロが振り返る。

街の入口。

装甲列車が入ってくる。

白い蒸気。

黒鉄の車体。

肺楼機構の紋章。

兵士たちが次々降りてくる。

黒い防護服。

長銃。

処刑用の刃。


兵士1「対象確認」

兵士2「侵食核反応あり」

兵士3「回収を開始する」


エメが怯える。

小さく後退る。

エメ「……また来た」

その声。

完全に子供だった。

ライネの目から感情が消える。

黒霧が揺れる。

ライネ「帰れ」

兵士たちは止まらない。

機械みたいに進む。

兵士1「実験体ライネを確保」

兵士2「補助個体エメを回収」

兵士3「不要対象は処分」


グロウの中で、何かが切れた。

グロウ「……ふざけんな」

兵士たちがこちらを見る。

グロウは刀を抜く。

黒い刃が鳴く。

まるで怒っているみたいに。



リュミエールが目を見開く。

グロウの構え。

昔と同じだった。

記憶の中。

夕暮れの路地。

木剣を構える少年。

ライネ『お前、その構え変だぞ』

グロウ『うるせぇ』

リュミエール『でも強い』

エメ『グロウかっこいい!』



現実。

グロウの目が冷える。

グロウ「……こいつらに触るな」

兵士たちが武器を向ける。

次の瞬間。

グロウの身体が消えた。

石畳が砕ける。

黒い斬光。

一閃。

兵士の銃が、音もなく両断された。


つづく

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