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君が忘れた名前  作者: オニたん


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13/25

十三話 リュミエール

黒い刀身が震えていた。

低い音。

泣いているみたいな響き。


巨大な影が街を見下ろしている。

顔のない巨人。

白い街そのものが怯えていた。


花びらが散る。

建物が軋む。

空が歪む。


その時だった。


グロウの視界が、突然白く染まる。

眩しい光。

灰のない空。

暖かい風。

知らない景色。

いや。

“知っている”。

小さな広場だった。

崩れかけた集合住宅。

配管だらけの路地。

それでも。

今よりずっと、生きている街だった。

少年の声。

『おい、グロウ!』

振り向く。

そこにいたのは。

笑っているライネだった。

今とは違う。

普通の少年みたいな顔。

少し不器用で。

でも楽しそうに笑っている。

ライネ『また負けたな』

グロウ『うるせぇ』

二人とも木剣を持っている。

汗だくで。

息を切らして。

笑っていた。


別の声。

少女の笑い声。

振り向く。

路地の奥。

小柄な少女が走ってくる。

泣き虫そうな赤い目。

幼いエメだった。


エメ『リュミエールお姉ちゃん!』

その後ろ。

長い銀灰色の髪の少女が歩いてくる。

片目を隠していない。

柔らかい表情。


古びた拳銃の女?


リュミエール『走ると転ぶわよ、エメ』

エメ『だいじょうぶ!』

ライネ『絶対転ぶ、ほ~ら転ぶぞ』

エメ『転ばないもん!』

次の瞬間。

盛大に転ぶ。

沈黙。

そして。


全員が吹き出した。

笑い声。

暖かい空気。

夕暮れ。

錆びた街。

小さな幸せ。

グロウの胸が痛む。

懐かしい。

失いたくない。

そう思った瞬間。

記憶が軋む。


赤い警報。

怒号。

悲鳴。

白衣の人間たち。

拘束されるライネ。

暴れるエメ。

泣き叫ぶリュミエール。

研究員『適合率急上昇!!』

研究員『器の安定を優先しろ!!』

ライネ『グロウ!!』


黒い霧。

血。

誰かが叫ぶ。

『逃げろ!!!』

グロウ「っ……!!」

現実へ戻される。

息が荒い。

膝をついていた。


リュミエールが目を見開いている。

その瞳が震えていた。

リュミエール「……思い出したの」

グロウは答えられない。


頭が痛い。

胸が苦しい。

けれど。

一つだけ分かった。

グロウ「……リュ、ミエール」

彼女の呼吸が止まる。

まるで。

その名前を呼ばれる日を、 ずっと待っていたみたいに。


エメが俯く。

小さく。

苦しそうに。

エメ「……やっぱり、グロウだった」

グロウはエメを見る。

敵のはずなのに。

なぜか。

泣きそうな顔に見えた。


ライネは黒霧の中で静かに笑う。

寂しい笑い方だった。

ライネ「また思い出し始めたんだな」

グロウ「お前ら……何された」

ライネは答えない。

代わりに。

遠くの巨大な影を見る。


ライネ「全部、あいつらが始めた」

その瞬間。

黒霧が揺れる。

塔が鳴く。

テゾーロが静かに目を閉じた。

苦しそうに。

父親みたいな顔で。

テゾーロ「……だから、止めなきゃならない」


誰を。

何を。

それはまだ分からない。

ただ。

この街の奥には。

もっと巨大な“何か”が眠っている。

そんな気がした。

そして。

グロウの隣で。

名前のない少女だけが。

静かにその光景を見つめていた。

まるで。

全部を知っているみたいに。


つづく

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