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君が忘れた名前  作者: オニたん


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11/25

十一話 まだ泣いているんだね

白い花びらが舞っていた。

灰ではない。

雪でもない。

まるで。

この街だけが、死ぬことを拒んでいるみたいだった。


ライネは塔の上から動かない。

黒い外套だけが静かに揺れている。

その目は。

どこまでも空っぽだった。


男「ライネ」

再び呼ぶ。

今度は少しだけ強く。

父親みたいな声だった。

ライネ「……近づかないで」

男が立ち止まる。

その一瞬だけ。

すごく苦しそうな顔をした。


エメが小さく呟く。

エメ「テゾーロ……」

グロウはその名前を見るみたいに聞いた。

テゾーロ。

この街で初めて。

まともな温度を持った名前に聞こえた。


テゾーロ「エメ、こっちへ来なさい」

エメは動かない。

俯いたまま。

裸足の指先だけが震えている。

ライネが静かに笑った。

乾いた笑い。

諦めた人間の笑い方だった。


ライネ「まだ父親の真似事するんだ」

テゾーロ「……」

ライネ「もう遅いよ」

その言葉。

やけに静かだった。

だから余計に重い。


グロウは刀を握る。

この空気。

知っている気がした。

壊れた家族。

言えなかった言葉。

取り返せなかった時間。

どこか。

自分の中にもある。

その時。

???がふらついた。


グロウ「おい」

咄嗟に支える。

身体が冷たい。

呼吸も浅い。

ライネの目が揺れる。

初めてだった。

感情が動いた。

ライネ「……なんで」

その声は小さく震えていた。


ライネ「なんで、まだ生きてる」

空気が止まる。

テゾーロの顔色が変わる。

女も息を呑んだ。

グロウ「何言って……」


ライネが塔の縁へ立つ。

黒い霧が周囲へ滲み始める。

街が軋む。

白花が枯れていく。

ライネ「俺は見た」

その声は静かだった。

でも。

壊れていた。

ライネ「お前が消えるところを」



???の瞳が揺れる。

苦しそうに胸を押さえる。

断片。

白い部屋。

血。

崩れるガラス。

泣いている少年。

『逃げろ!!』

誰かの絶叫。

???「……ぁ……」

頭痛。

彼女が膝をつく。

グロウが支える。

その瞬間。

また記憶が流れ込む。


花畑。

白い光。

笑っている少女。

『忘れないでね』

グロウ「っ……」

胸が痛い。

知らない記憶。

なのに。

失いたくないと思った。

エメが突然叫ぶ。

エメ「ライネ兄さま!!」

今までで一番大きな声だった。

ライネの動きが止まる。


エメ「もうやめて!!」

黒霧が揺れる。

街全体が悲鳴みたいな音を立てる。

エメは泣いていた。

赤い瞳から涙が零れる。

エメ「もう誰も苦しまなくていいって言ったじゃん!!」

ライネは答えない。

ただ。

静かにエメを見る。

その目だけは優しかった。

ライネ「……ごめんな」


エメの呼吸が止まる。

テゾーロが顔を上げる。

女が銃を構える。

グロウの本能が叫ぶ。

まずい。

次の瞬間。

ライネの身体から、黒い霧が噴き出した。

いや。

霧じゃない。

“何か”だった。


塔が鳴く。

白い街が震える。

空間そのものが歪み始める。

グロウの刀が、震えていた。

まるで。

“敵”を思い出したみたいに。


つづく

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