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見えざる獲物

アリスは目覚めると武器防具を洗った。

洗ったというよりも固まった血を剥がしたと言った方がよいだろうか。

食事をとり身支度を整え冒険者ギルドへと向かった。

ドアを開けると冒険者達からの視線が刺さる。

2週間も経てば噂も広まる。

「あっ!アリスちゃん!ちょっと来てもらってもいいかしら?」

ミモザさんから声をかけられる。

カウンターへ向かう間も冒険者達からの奇異な眼差しは向けられていた。

「冒険者証見せてもらっていいかしら?」

ミモザさんのおっとりした笑顔は変わらない。

「はい。」

バックパックから取り出し提示する。

「ほらここ見て、HとEの所Eの経験値の色は変わってないけれど

オナーのHの所色が変わっているでしょう?

施設のシステムと連動しているから、こちらからわかるのよ。

アーチャーの名誉の上限値に達してるの。

何故かしら選択項目にヴァルキリーとシーフが出ているわ。

取り合えず弓経験値を溜めればハンターになれるわよ。」

アリスはすぐに分かった。初心者狩りの2人をダマスカスナイフで

屠ったので名誉値がキャップ上限に。

難易度の高い事への短剣使用により短剣レベルが上がった事で

シーフの選択肢が出たのだ。

「ヴァルキリーへの転職お願いできますか?」

アリスは言った。

「はい分かりました。手続きが終わるまで10分ほど待ってくださいね♪」

『ミモザさんは、あの一件を知らないのだろうか?

知っていたならプロなんだろうな。』

依頼掲示板へ向かうとモーゼの海割りの様に

人が左右へザザーッと避ける

掲示板に釘付けになっていた2人も私を見ると

「ヒィッ」

と左右へ飛び退いた。

『見やすいのは良いけどね』

『……。』

討伐依頼を見ていると敵の名前は分かっても

姿や生体が一切わからない。

報酬が高いのを選んでみようか。

出来ると思うし、依頼途中で倒れるなら

それまでの人生だったという事だろう。そう考えた。

少し前までは生を繋ぐために薬草を摘んでいた少女が

今や生に頓着が無くなっていた。

それは暗く冷たく光の届かない深い海に沈むような覚悟だった。


影歩きの黒豹シャドウウォークパンサー討伐

絶対条件:毛皮を剝いで持ち帰る事。

素材 インビジブルレザー

報酬金貨20枚


「これにしよう。」

報酬が危険を物語っているが構わない。

ピンを外し依頼書を手に持つ。

アリスが掲示板から離れると、また掲示板の周りには人だかりができていた。

「アリスさーん冒険者証できましたよー。」

ミモザさんの元へ向かい依頼書を提示する。

瞬間ミモザさんは険しい表情をするも

「分かりました。今回は収集品が必須条件ですから

バッジは無しです。気を付けてね。」

優しく声をかけてくれた。

「すみません生息地は分かりますか?」

アリスが聞くとミモザさんは検索を始める。

「えーと、この辺りですとクリーピングケイヴですね。」

ミモザさんは教えてくれた。

「ありがとうございます。行ってきます。」

「お気をつけて、いってらっしゃい。」

早速クリーピングケイヴ行きの乗合馬車にアリスは乗った。

車軸が悪いのか道が悪いのかガタゴトガタゴト馬車は揺れる。

馬車には御者だけアリス以外は誰も乗っていなかった。

それは幸いだった。あの視線に悩まされなくて済むからだ。

馬車賃料を支払い下車する。

ダンジョンの入り口付近は岩石で出来ているがその奥に山がない。

地下型ダンジョンらしい。

中に入ると早々に暗闇で視界はゼロになる。

アリスは目を瞑った。視覚を潰せば他の感覚がより研ぎ澄まされる。

知っていてやったのではなく、反射的だった。

手にはダマスカスナイフが握られている。

視界はゼロだが他の感覚器が瞼の裏にサーモグラフィーの様な

映像を映し出す。

寄らば斬る。道中モンスターはいたが、ただ斬って捨てた。

緩い下りのワインディングスロープを見えているかのように自然に歩いて行く。

超感覚により無機物のダンジョンの壁の気配を感じ安全地帯を歩く。

それはまるで潜水艦がソナーで道筋を見ているように。

路が無くなった。そこには薄い気配がある。

普通の冒険者なら小動物と勘違いしただろう。

けれどアリスにはわかっていた。それが気配を消した獣である事を。

獣の動きは割と早い。アリスの感覚をもってしても、その獣はある程度の速度で

飛びかかってくる。しかし避けられないほどではない。

切りつけるのは簡単だ。しかし毛皮を持ち帰らなければならず

獲物の体躯に傷をつけるわけにはいかない。首を削ぎ落すと決める。

が、獣は気配を断っている為首の位置を把握しきれない。

幾度かの攻撃を避けつつアリスは思い至った。

音もなく獣が飛び掛かる。アリスは左手を、わざと噛みつかせた。

位置を知るためだ。

『食いちぎられる前に…』

ヒュンッ!!ダマスカスが獣の首を綺麗に刎ねる。

「ガァッ!!」

獣は僅かな断末魔をあげ息絶えた。

「クッ…」

痛む左手を我慢し床に短剣を置き右手を左手に添える

「父なる神よ、哀れなるこの者の痛みを取り去りたまえ!ヒール!」

緑の柔らかい光が左手を包み込む

傷が癒えるのと共に痛みも引いて行く。

「ふぅ。」

左手を握っては広げを数回繰り返した後

右手でダマスカスナイフを持ちなおす。

スイッチを入れ直し

まだ暖かいシャドウウォークパンサーの毛皮と皮の間にナイフを入れる。

暗闇での解体だというのに余計な血をつけずススッとナイフを捌き

剥ぎ取った。毛皮をバックパックにしまうと出口へと戻る。

帰還の途も再び寄らば斬る。そしてダンジョンを出ると毛皮を確認する。

毛皮の首周りは血が付いてしまっている。

表は光学迷彩の様に透過して地面が見える。

裏側にするとしっかりと皮が目視できる。

乗合馬車までは時間がある。近くの小川で毛皮の血を洗い落とす

幸い首周りだけだったのですぐに終わった。

毛皮をバックパックに入れて小川で水を手に掬い顔の返り血を洗い流す。

アリスは小川に映る顔をじっと見つめる。

そのまま1時間程度が経過すると遠くから馬車の音が聞こえてきた。

乗合馬車に乗るとパーティーがいた。3人で楽しそうに話していて

アリスの存在には気が付いていないようだ。

馬車の窓から遠くを眺める。

馬車が揺れる度に視界も揺れるが焦点は遥か向こう。

夕方には町についた。馬車から降り冒険者ギルドの扉を開ける。

夕方の冒険者ギルドは張りつめた空気はなくいつも通り賑やかに

皆、戦利品の分配などをしている。

アリスはミモザの元へ行きバックパックからごそごそと毛皮を出す。

「お疲れさまでした。確認しますねー。」

そういうとミモザさんは毛皮面の透過を確認し

裏返して皮を目視した。

「はい。確かに。」

そういうと金貨20枚をテーブルに置いた。

アリスはバックパックにしまい込む。

「またお願いしますねー。」

ミモザさんは笑顔で手を振ってくれた。

緑の息吹亭へ戻り、汚れを洗い流した後

食事をとる。ランプに火をつける。

『一人でやるなら知識もないと。モンスター辞典でも買ってこよう。』

そしてボーっとランタンの、たまに揺れる炎を飽きる事なくじっと見つめた。

そして夜は更けて行った。

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