アリスの休日
緑の息吹亭の宿の一室でアリスは目を覚ました。
「ふぁ~。」
ベッドで伸びをして起き上がる。
昨日の依頼で疲れていたアリスは熟睡できた。
それでいてエルマとの交流もあって気持ちの良い目覚めとなった。
金銭にも随分と余裕がある。
『今日は休日にしよう。』
クローゼットから質素なピンクのフレアスカートのワンピースを
出して着替える。
背中の紐を締め、体のラインに馴染ませてから
姿見の前で確認する。
くるりと一回転するとフレアスカートが空気を孕んで膨らみ
ふわりと元に戻る。
姿見の向こうのアリスは微笑んでいた。
ウエストポーチを付けバックパックから
マジックストレージを入れる。
重たい金貨も全て、ここに入っている。
階下の食堂で朝食をとり、外へと出かける。
晴天に恵まれ爽やかで穏やかな空気の中
のんびりと町を、あてもなく散策する。
何時もの癖で、つい冒険者ギルドの近くへ来てしまう
『今日もミモザさんは頑張ってるよね。』
顔を見たいけれど忙しい時間帯、邪魔になってはいけないので
通り過ぎて色々見て回る。
町の端の陽だまりに小動物が寝転んでいる。
近づいて上を向いているお腹を手でもふもふする。
「ふふふっ」
触られているのに動じず、あくびをしていて、とてもかわいい。
日も中天に掛かり、小動物に、さよならをして歩き出す。
そのまま近くの椅子に座りウエストポーチのマジックストレージから
緑の息吹亭で作ってもらったサンドイッチを取り出し頬張る。
たぷんとした革袋も取り出し口紐をほどく。
服にこぼさないよう中のハーブティーで喉を潤す。
気が付くと先ほどの小動物が、いつの間にかアリスの足元に来ていた。
「食べたいのかなー?」
サンドイッチの柔らかい部分をちぎって、地面に置くと
もしゃもしゃと食べ始めた。かわいい。
街外れは労働者もおらず小動物は驚かずに、ゆっくりできるのだ。
アリスはサンドイッチを食べつつ下にも気を配る。
食べ終えた小動物が顔を見上げてくると
アリスは、その都度ちぎって分け与えた。
やがてお腹がいっぱいになったのか
一声鳴いて元の陽だまりへと戻ってゆき再び寝転んだ。
昼食を食べ終えたアリスは本屋へ向かった。
店主のおじいさんにマジックブックの使い勝手の良さを話し
感謝を述べ、魔法に関する本を購入した。
初級魔法の本にしか目を通したことがなかったアリスは
冒険の役に立つよう戦闘の幅を広げられるようにと考えての事だった。
冒険の話は長話になったので
本屋を出る頃には微かに夕方の雰囲気となっていた。
街中で一番高い料理店で食事をとる事にした。
1人で入るとウエイターに声をかけられる。
「お嬢ちゃん1人かい?」
「はい。そうです。」
「ここはね高級料理店で高いお店なんですよ。」
溜息をつかれる。
アリスはごそごそと冒険者証を出して提示する。
ウエイターは、それを覗き込むと絶句した。
「ヴァ…ヴァルキリー?!し…失礼しました。
こちらへどうぞと席へ通される。」
こういう時にも冒険者証は役に立つ。
お金を持っているかどうかの指標にもなるのだ。
金貨3枚のコースを頼むと、ウエイターは一礼して厨房へと向かった。
暫くするとウエイターが料理を運んできた。
「こちら前菜の極北産クリスタルサーモンの
カルパッチョ-森の雫ジュレ添え-になります。
クリスタルサーモンは極寒の極北に存在する希少種でして
魔法で生息海の温度に冷やし続け新鮮なまま調理した逸品になります。
そしてこちらの魔法薬草のソースに和えて、お召し上がりください。」
宝石のようなサーモンの身にナイフを入れ一切れをソースに浸して
口に運ぶ。
「おいしい!」
「それは宜しゅうございます。」
そう言うとウエイターはまた厨房に戻っていった。
前菜を食べ終わる頃、次の料理が出てきた。
「こちら太陽鳥のコンソメ仕立てスープになります。
太陽鳥一羽からスプーン数杯分しか取れない黄金の出汁を使った
スープになります。一口で魔力が全回復する効果がある為
魔術師やヒーラーの方が好んで飲まれる一品になります。」
「すごい!」
一口飲むごとに魔力が溢れるのを感じる。
「宜しゅうございました。」
そう言うとウエイターはまた厨房に戻っていった。
スープを飲み終えると皿が運ばれてくる。
「こちら白銀ユルムのソテー -白ワインとトリュフのソース-
でございます。魔力魚ユルムの希少種プラチナユルムのソテーとなります。
その身はナイフを入れずともほぐれ、美味しくお召し上がりいただけます。」
目を丸くして食べる様子を見てウエイターは満足そうに厨房に戻っていった。
食べ終わると、また次の料理が運ばれてくる。
「メインディッシュ、ワイバーンのヒレ肉のロースト
-秘伝の赤果実ソース- になります。
熟練の冒険者しか狩れないワイバーンの最上級部位を
当店創業以来、門外秘の赤果実ソースを和えて、お召し上がりください。」
正直アリスはお腹いっぱいに近かったけれど
香りと味にフォークが止まらなかった。
「ふぅーおなか一杯ー。」
しっかりとメインディッシュを平らげ、もう食べられないと思っていると
次の皿が出てくる。
「デザートになります。天空島産完熟黄金アプロのタルトと
氷晶花実のシャーベットになります。
特定地域の高山でしか成長しない完熟した黄金アプロを使用したタルトと
氷点下の地にしか生息しない氷晶花。年に一つしか実を付けない氷晶花実を
魔法で氷結させたまま当店にて調理したシャーベットになります。」
スイーツは別腹。
「甘くておいしー!」
スプーンが止まらない!
「最後のお飲み物になりますがアルコールが入っており
お客様のご年齢では……何かリクエストはございますか?」
ウエイターが言う。
「星屑の静寂の紅茶はありますか?」
「もちろんですとも。ただいま淹れてお持ち致します。
今しばらくお待ちを。」
そう言うとウエイターは厨房に戻っていった。
暫くすると厨房の方から香りが漂ってくる。
アリスのとても好きな香りだ。
「お待たせいたしました。
星屑の静寂になります。
中のキラキラは金粉でございます。無害ですのでどうぞお飲みください。」
宿で飲む何時もの薄い青色の紅茶、星屑の静寂とは少し違っていた。
透明のグラスに淡い色から濃い色へと上から下へ青いグラデーションが付いている
その中を浮遊するキラキラした金粉は夜空に浮かぶ星を彷彿とさせる。
ひとしきりグラスの景色を眺めた後
少しづつ口に含んでいった。
アリスが椅子をずらして立とうとすると
ウエイターがスッと背後に回り椅子を引いてくれた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
アリスは出口のカウンターで金貨を3枚出す。
「お楽しみいただいたようで何よりです。」
ウエイターが会計を済ませる。
そこでアリスは1枚金貨を取り出す。
「 心遣いありがとうございます。これはチップになります。」
そう小声でウエイターに囁き手渡す。
ウエイターは一瞬驚いた表情をしたが
「ありがとうございました。また当店をご利用くださいませ。」
そう言って扉を開けてくれた。
アリスが扉から出ると、ウエイターが深々と一礼をした。
アリスも軽く一礼して、店を後にする。
辺りは、すっかり暗くなり
仕事を終えた町の人々の賑やかな騒ぎが聞こえてくる。
アリスは冒険者ギルドへ向かった。
その時間は冒険者の手続きピークを終えている時間だ。
冒険者ギルドへ入りカウンターのミモザの所へ行く。
「あの、ちょっといいですか?」
といってミモザの袖を引く。
「ちょっと待ってね。」
そう言うと隣の受付嬢に少し席を外したいと伝え
アリスの元へ来た。
アリスに引っ張られてミモザは外へ出る。
「今日高い食事をしてきました。すごくおいしかったです。
これお土産です。」
そう言って手渡したのは
金粉入りの星屑の静寂の茶葉
「あらあら、ありがとうアリスさん。」
そう言ってアリスの頭を撫でてくれた。
何故アリスは分不相応な店へといったのか?
それは以前ミモザと話している時、町の活気の話になって
どうしても必要ならお金は貯める必要があるけれど
町の皆の事を考えるなら、お金はなるべく使った方がいい。
そう聞いていたからだった。
「お仕事の邪魔をして、ごめんなさい。今日は帰ります。」
「いえいえ、お土産ありがとうね。気を付けてねー。」
そう言い手を振ってアリスの背中を見送ってくれた。
宿屋へ戻り、ナイトルーティーンを済ませ眠りについた。




