パラレルルート 1話 変わらぬ日常
パラレルルートじゃー!!!
大学二年の春。
桜はもう散りかけていて、校舎の前の並木道には薄いピンクの絨毯ができていた。
雨宮透真は、いつも通り笑っていた。
「おはよ、澄玲。今日も早いね」
カバンを肩にかけたまま、軽く手を振る。
その顔は、昨日と何も変わらない。
榊原澄玲は少しだけ目を伏せてから、小さく頷いた。
「……おはよう」
相変わらず声は小さい。
でも、その視線は透真から一瞬も外れない。
その少し後ろから、九条律希が走ってくる。
「おっす!朝から二人で固まってんの、いつものやつじゃん」
いつもの軽口。
いつもの朝。
誰も、この時間が“特別”になるなんて思っていない。
⸻
授業が終わった昼休み。
屋上。
三人はいつもここで昼飯を食べる。
律希がコンビニのパンをかじりながら言う。
「なあ透真、今週さ、サークルの新歓あるけど来る?」
「行く行く。暇だし」
即答。
その軽さに、律希は笑う。
「お前ほんとフットワーク軽いな」
その横で澄玲は、静かに弁当を食べている。
透真はその様子を見て、少し笑う。
「澄玲も来るだろ?」
「……うん」
それだけ。
でも、その一言はちゃんと“行く”という意味だった。
⸻
その日の夕方。
帰り道。
律希が先に別れ、二人だけになる。
駅までの短い道。
沈黙が少しだけ続く。
そして澄玲が、ぽつりと言う。
「透真」
「ん?」
「最近……元気すぎない?」
透真は一瞬だけ止まる。
それから、いつものように笑う。
「え、なにそれ褒めてる?」
「違う」
即答。
でも、そこに怒りはない。
ただ、不安だけがある声。
「……なんか、怖い」
その言葉に、透真は少しだけ目を細める。
「怖いって何が」
澄玲は言わない。
言えない。
ただ、少しだけ歩幅を合わせる。
距離が、ほんの少しだけ近くなる。
⸻
その夜。
透真の部屋。
窓の外で、風が揺れている。
机の上のスマホが震える。
「九条律希」
着信。
透真は一瞬だけ見てから、出る。
「もしもし?」
律希の声は、少しだけいつもと違った。
「なあ透真」
「ん?」
「お前さ……最近、無理してないよな?」
沈黙。
透真は笑おうとして――やめる。
その代わりに、軽く言う。
「してないって」
でも律希は、それで納得しない。
「ならいいけどさ」
一拍。
「お前、ちゃんと“明日もある前提”で動いてる感じすんだよ」
その言葉に、透真の指が止まる。
窓の外では、風が強くなっていた。
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