パラレルルート 2話 異変?
大学二年の春。
その日、榊原澄玲は朝からずっと違和感を抱えていた。
理由ははっきりしない。
でも、雨宮透真の「いつも通り」が、どこか少しだけずれている。
笑い方も、歩き方も、声の軽さも全部同じはずなのに――
どこか“作られている”ように見えた。
昼休みの屋上。
三人はいつも通り集まっていた。
九条律希がスマホをいじりながら笑う。
「なあ見ろよ、これバカすぎる動画」
透真はそれを覗き込んで笑う。
「ほんとだ、やば」
その声は自然だった。
自然すぎるくらいに。
だからこそ澄玲は、箸を止めた。
「……透真」
呼ぶと、透真はすぐに顔を上げる。
「ん?」
その反応の速さも、いつも通り。
でも澄玲の目はそこから動かない。
「最近、寝てる?」
「寝てるよ。普通に」
即答。
間。
なさすぎる。
澄玲は小さく息を吸う。
「じゃあ、なんで目の下、少しだけ色が悪いの」
一瞬だけ、空気が止まる。
律希の手も止まった。
透真は、ほんのわずかだけ笑顔を作る。
「光のせいじゃね?」
軽い冗談。
いつもならそれで終わる空気。
でも澄玲は、笑わなかった。
「違う」
短い声。
その一言で、屋上の空気が少し変わる。
律希が視線をそらす。
透真はまだ笑っている。
でも、その笑いがほんの少しだけ薄い。
澄玲は続ける。
「最近、透真だけ“どこか先に行ってる”感じがする」
「先?」
「うん。今じゃなくて、ずっと少し先」
透真の指が、弁当箱の縁で止まる。
風が吹く。
屋上の柵がわずかに鳴る。
律希が小さく口を開くが、言葉にならない。
澄玲は立ち上がる。
ゆっくり。
透真の前に来る。
距離が、近い。
「ねえ」
声が少しだけ震えている。
「何か、隠してる?」
その瞬間、透真の表情がほんの一瞬だけ消えた。
ほんの一瞬。
でも澄玲は、それを見逃さなかった。
確信に変わる。
“何かある”
そしてそれは、たぶん軽いものじゃない。
沈黙が落ちる。
屋上の風だけが、やけにうるさかった。




