人捜し
喫茶店でリタと話してから一夜が過ぎ、情報収集を開始した。
情報収集と大袈裟に言ってはみたものの、実際に行うのはただの聞き込みだ。
目撃証言を集め、薄紅の居場所や活動域を突き止めること。
まずはそこから始めることになった。
「薄紅色の着物をきた女? 着物ってなに?」
「あー、知ってる気がする。お魚くれたら思い出す気がするなぁ」
「そんなことより、お姉さんといいことしなぁい?」
けれど、そんなに都合良く薄紅を知っている人物には出会えなかった。
それどころか、知りもしないくせに色々と要求してくる奴の多いこと多いこと。
妙な怪しい店に誘われたりもするし、なんというか聞き込みというのも、この街では大変だ。
この分じゃあ、成果は期待できそうにないな。
やはり、ここはリタに頼ることになりそうだ。
リタは別ルートから薄紅の情報を探ってみると言っていた。
どうやら本命はそっちになりそうだ。
俺の行動なんて、暇をもてあますくらいな行動する、くらいの意味合いしかない。
「とはいえ、真面目にやらないとな」
成果が出ないからと言って、諦める訳にはいかない。
限りなく低い確率でも、薄紅の情報に巡り会う可能性だってある。
それが零ではない限り、この聞き込みは無駄じゃあないはずだ。
そう、気を取り直して、情報収集を続けた。
「――あれ、先輩?」
「ん?」
聞き込みを続けていると、不意に声を掛けられ、そちらを見やる。
まず目に入ったのは獣耳、その次ぎに長い尾。
その時点で誰なのかの見当はついた。
俺を先輩と呼ぶ獣人の知り合いは、一人しかいない。
そして、顔を見ることでそれは確信へと変わる。
「サンか、奇遇だな。こんなところで会うなんて」
「本当ですね。私もびっくりしちゃいました」
そういえば、この辺は特訓のあとによく来ていたっけ。
たしか近くに若者に人気の店舗が多数あったはず。
この辺はもともとサンの活動域。
だから、こうしてここで俺と顔を合わせるのも半ば必然か。
「先輩は、ここでなにをしているんですか?」
「えーっと、それはだな」
薄紅の情報を探していると、正直に伝えていいものか。
それでサンの身に危険が及ぶ――なんてことは、考えすぎか。
どうも以前のことで、サンについては神経質になっているな。
要らない心配までしてしまう始末だ。
「実は薄紅色の着物をきた人を捜してるんだ」
まぁ、でも一応。
個人をさす薄紅の名前は出さないでおこう。
出すのは色の名前としてだけだ。
「薄紅色の着物? 着物ってたしか先輩の故郷の衣服、ですよね? 女の人の」
「あぁ、よく知ってるな」
これから着物の説明をしようとしていたけれど。
その必要は、どうやらないみたいだ。
手間が省けてよかった。
「……ふーん」
そう思ったのも束の間、すこし雰囲気が怪しくなる。
なにか機嫌でも悪くするようなことを言ってしまったのか。
サンから視線を逸らされてしまう。
「どうした?」
「いえ、別に。なんでもないです」
なんでもないようには見えないけれど。
「それより、その女の人を見つけてどうするんですか?」
「どうするって……」
見つけ出して俺の情報を聞き出す、とは流石に言えないな。
物騒なことにもなることだし、こればっかりは伝えるべきじゃあないな。
「その女の人に用がある人がいてさ。俺はその手伝いをしているんだ。だから、その人のところに連れて行くかな」
随分と説明口調になってしまったけれど。
まぁ、事情を説明しているのだから、不自然とまでは思われないだろう。
「そう、ですか」
サンは、なぜかそこで、ふー、と息を吐く。
そして、逸らされていた視線が合った。
機嫌は、もう治ったみたいだ。
しかし、なんだったんだ? 今の。
「そういうことなら、協力したいんですけど。生憎、私も見かけたことはありませんね」
「そうか……」
この辺りを活動域にしているサンが見かけていない。
なら、ここは薄紅の活動域から外れているということだろうか。
薄紅色の着物を身に纏っているんだ、嫌でも目立つだろう。
そうと仮定するなら、場所を移したほうが良さそうだな。
「ありがとう。助かった」
「いえいえ、先輩の頼みならいつでも引き受けちゃいますよー」
嬉しいことを言ってくれるな。
この後輩は。
「ところで、サンはどうしてここに?」
「私ですか? 私は――って、あぁ!?」
なにかを思い出したように、サンは慌てて時刻を確認した。
「友達と待ち合わせしてるんだったっ! 先輩、ごめんなさいっ。私、もう行かなくちゃ!」
「あぁ、ありがとな」
「はい! それじゃあっ!」
急ぎ足になって、サンは人混みに紛れていく。
それを見えなくなるまで見届けつつ、俺はこの場をあとにした。
サンのお陰で、薄紅がこの辺で活動している可能性は低くなった。
なら、ここに居続ける理由はもうない。
もっと別の場所を捜してみることにしよう。
薄紅がいそうな場所。
例えば、そう。
追われているのだから、目立たないところか。
考えてもみればそうだ。
人通りの多いところは避けていると考えるべき。
なら、次ぎはあそこに向かってみよう。
脳内に描いた街の地図を頼りに、足を進めていく。
この爪先の先に、薄紅がいることを願って。




