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賞金稼ぎ


 サンと別れ、薄紅の情報を探してさまよい歩くことしばらく。


「この辺りにしてみるか」


 この足はあまり人通りのない区域へと行き着いた。

 人目をなるべく避けるように移動した甲斐はあって、ここは目立たない。

 日当たりの悪さか、建物の雰囲気か、住人の意思が原因か。

 この辺りは、人を寄せ付けない独特の空気が流れている。

 普段、街を歩いている異世界人や異形種も、好んでここには来たがらないだろう。

 人間も、その例に漏れない。

 俺だって薄紅の情報を求めていなければ、ここには来なかっただろう。

 姿を隠すには打って付けだ。


「とはいえ……」


 根本的な問題として、人気がなさ過ぎる。

 情報を集めようにも、本末転倒なことに人をまったく見かけない。

 人が生活している形跡はあるものの、外には出てこないみたいだ。

 物音や話し声も、耳を澄ませて集中すれば辛うじて聞こえる程度。

 実に不気味で、それらしい。


「うーん……」


 とりあえず、ぐるりとこの区域を一周してみよう。

 そう思い立って、行動を開始する。

 石畳の地面を踏みしめ、じっとりとした風を肩で切る。

 かつかつと足音を鳴らして進めど進めど、人には出会わない。

 この区域全体が俺を避けているのではないか?

 そう意味不明な錯覚に陥りそうになり、一度この足を止めた。


「……相当、焦ってるな。俺」


 やることなすこと、行き当たりばったりだ。

 考えなしに行動して、そのくせ上手くいかないと焦り出す。

 子供か、俺は。

 とにかく、一度、気分を入れ替えよう。

 それからまた別の手を考えて。


「――」


 視界に映り込んだのは、影だった。

 地面に映した自身の影を、呑み込むような大きな影が覆い被さった。

 瞬間、反転しながら魔力で得物を構築し、振り向きざまの一刀を薙ぐ。

 振るった一撃は、ちょうど振り下ろされていた大剣を打つ。


「――チッ」


 大質量の武器を相手に、真っ向からやり合うのは御免だ。

 即座に柄を高く持ち上げて踏み込み、刀身の側面を滑らせる。

 大剣は火花を散らして斜めに逸れ、そのまま地に落ちて地面を砕く。

 これで不意打ちはしのいだ。

 けれど、すぐに第二撃が飛ぶ。

 その丸太のように逞しい腕が、この身を掴もうと迫る。

 こうも畳み掛けられては分が悪い。

 反撃はせず、その場から飛び退いて攻撃を躱し、同時に距離をおく。

 そうすることで、俺はようやく何者かの全貌をみた。


「また異形種か」


 奇襲を仕掛けた何者かは、黄色い肌をした異形種だった。

 人間ではとても叶いそうにない筋肉量、体格、骨格の頑強さ。

 幸いにも腕と足は二本ずつで頭が一つ、比較的、人型に近い型だ。

 戦う相手としては、やりやすいけれど。

 けれど、なにかと異形種に縁があるな、俺は。

 そんな縁、断ち斬ってしまいたいけれど。

 そればかりはこの剣技を持ってしても、出来そうになかった。


「何者だ? あんた。なんで俺を襲う」


 襲われる理由に心当たりがない。

 けれど、相手にはあるのだろう。

 まったく、何度目だ? こういう状況は。

 そういう星の下に生まれてきたのかと、自分の出自を疑いたくなる。


「なんで襲うか? だと。お前だろう? 薄紅のことを嗅ぎ回っているモグリは」


 どういうことだ?

 どうしてそこで、薄紅の名前が出てくる。


「いいか? あれは俺たちの得物だ。素人丸出しの情報収集しかできないようなモグリに取れるような首じゃあない。だが」


 大剣を地面から引き上げ、肩に担ぐ。


「ビギナーズラックって奴もある。万が一にもお前が薄紅にあって、こっちの計画が台無しになったら洒落にならない。だから、ここで潰しておくんだよ」

「なるほど、そういうことか」


 奴は俺を商売敵だと思い込んでいる。

 だから、手柄を取られないように俺を潰そうとした。

 ほかで情報収集をしていたことを知っている辺り、彼らの情報網はかなり広いようだ。

 少なくとも薄紅を捕らえる計画を、現実的に構築できる程度には。

 これは都合がいいかも知れない。

 確実に奴は薄紅の信憑性の高い情報を握っている。


「いやー、これは幸先がいい」

「なに?」

「薄紅について、有力な手がかりが得られそうだ」

「はっ、ほざけっ」


 強靱な脚力をもって、奴は石畳を蹴る。

 その加速は人間のそれを遥かに超越し、瞬く魔に距離が埋まる。

 振るわれる大剣は、まるでショートソードの一撃のように速い。

 大質量の破壊力はそのままに剣速を高いレベルで維持している。

 奴は相当の手練れなのだろう。

 薄紅を狙う賞金稼ぎなだけはある、ということか。

 けれど、こちらにも引けない理由がある。


「――なっ!?」


 地面と水平に流れた大剣を、深く沈み込んで躱す。

 大剣は頭上を通過し、その重さ故にすぐには軌道を修正できない。

 下方から鋒を奴の顔面に向け、一息に跳躍する。


「こいつっ!」


 最短距離を通り、突き放つ一撃。

 それに対して、奴は辛うじて反応した。

 身体を倒れるほど傾けて刀から逃れ、刃は頬を浅く斬るだけに終わる。

 しかし、今はこれでいい。

 折角の情報源だ。じっくり、行こう。

 相手はタフな異形種なんだ。それも相当な手練れ。

 殺しにかかるくらいが、ちょうどいい。

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