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深夜


 リタと連絡をとった後、その足で俺は喫茶店へと向かった。

 奥の目立たない席に腰掛け、待つことしばらく。

 深夜近くの呼び出しだと言うのに、リタは嫌な顔一つせずに来てくれた。


「悪いな、こんな遅くに」


 本来なら、こんな時間に年頃の若い娘を一人で呼び出していい訳がない。

 ここは平和な日本ではなく、危険に満ちたシークレット・アイランドなのだから。

 例えばこれがサンだったなら、俺は辛抱して日を改めただろう。

 でも、組織の人間であるリタなら恐らく大丈夫だと踏んだ。

 俺自身、迎えにいくつもりでもあったけれど、必要ないと断られたくらいだ。


「構わないわ。ことがことだものね。あなたとしては、居ても立っても居られないでしょうし。今回のことは大目に見てあげる」

「助かる」


 リタにはすでに事のあらましを話してある。

 彼女の剣技が常軌を逸していたこと。

 俺から失われた何かを知っていたこと。

 なんとしてでも、情報を聞き出したいことも。

 それを告げると、リタはすぐにいくと言ってくれた。

 仲間思いのいい同僚を持ったものだ。


「連絡を受けてここに来るまで、色々と考えていたのだけれど」


 俺の対面に腰を下ろしながら、リタは言う。


「話を聞く限り、あなたが出逢ったのは薄紅と呼ばれる人物よ」


 薄紅。

 着物の色と同じであるそれが、彼女の名称。

 本名では、恐らくないだおう。

 彼女はどうみても日本出身だった。

 日本人で名前が薄紅というのは、すこし想像しづらい。


「薄紅色の着物に黒の長髪。それにあなたに勝るとも劣らない剣技というなら、間違いないと思う。ここ最近になって現れた、凄腕の賞金首よ」

「賞金首?」

「そう。とある資産家が彼女に懸賞金を掛けたのよ。なるべく欠損のない状態で生け捕りにすることが条件。難易度が恐ろしく高い分、懸賞金もありえないほど高額よ」


 懸賞金か。

 そんなものを掛けられていたのか、彼女は。


「ちなみに、いくらくらいなんだ?」

「人生を五回くらい大富豪として繰り返せるくらい」

「そいつはまた……」


 一生遊んでくらせる金額の五倍以上か。

 スケールが大きすぎて、漠然とした想像しか出来ないな。

 金持ちの生活っていうのも、実感が湧かないし。

 しかし、それだけ莫大な金額が懸賞金として掛けられている相手か。

 そんな人物が、俺の身に起こった真実を知るたった一人の手がかりになるなんてな。


「いったいその薄紅はなにをやらかしたんだ?」


 人生五回分の金が絡んでいるのだから、それなりのことをしたのだろう。

 すこし想像がつかないが。


「さぁ? 理由は不明よ」

「不明?」

「そう。ただ懸賞金を掛けた時期は、薄紅の出現とほぼ同時期なのよ。だから、なにかしらの因縁があるのではないかってもっぱらの噂になっているわ」


 なにかしらの因縁か。

 それがどんなものであれ、すこし困るな。


「懸賞金に釣られて、多くの賞金稼ぎがすでに動いている。ライバルは多そうね」


 あの時の斬殺死体は、賞金稼ぎのもの。

 だから、彼女は俺を賞金稼ぎの一人として誤認した。

 すでに人間、異世界人、異形種を問わず、何人もの賞金稼ぎが動き出している。

 それは、それだけ競争相手が多いということ。

 もし誰かに先を越されたらと思うと、焦燥感に駆られてしまう。


「まぁ、でも、あなたと打ち合えるほどの剣士が、その辺の賞金稼ぎに負けるとも思えないけれど」

「そう、思うか?」

「仮にあなたが賞金稼ぎになったとしたら、私は迷わず手を引くわ。命を無駄にするようなものだもの」

「……そうか」


 凄絶な剣技の使い手。

 俺の身に宿った剣技と、真っ向から拮抗できるだけの技量を持つ。

 あれを上回れる達人など、世界、異世界広しと言えども、そうはいないはず。

 そう考えてみると、心を焦らしていた焦燥感がすこしだけ薄れた。


「けれど、あなたは薄紅とまともに打ち合えた。話によれば善戦したそうじゃない? なら、捕らえることだって充分、可能でしょ?」

「あぁ、そうだといいな……とにかく、全力で捕らえるつもりだ。自分のためにも」


 薄紅が知っていることを、俺は知らなければならない。

 彼女はなぜか話したがらないが、それでも諦める訳にはいかない。

 やっと掴んだ尻尾なんだ。

 その正体を引きずり出すまで、離すつもりはない。


「なら、出現位置を特定する必要があるわね。なんと言っても、薄紅は神出鬼没だもの。いつどこに現れて消えるのか、調べてみないことには見当もつかない」

「手を貸してくれるか?」


 正直な話、俺一人ではたどり着けない。

 薄紅を捕まえるには、リタの協力が必要不可欠だ。


「そうね……貸し一つってことにしておいてあげる」


 よかった。

 手伝ってくれそうだ。


「世話を掛けるな」

「きちんと返してくれれば、それでいいわよ」


 組織の人間にリタがいてよかった。

 もしいなかったらと思うと、ぞっとする。


「とりあえず、足を使って捜してみましょう」

「あぁ、何事もまずはそれからだな」


 話はまとまり、今日のところは帰路につく。

 そして、その翌日から薄紅捜しのための情報収集ははじまった。

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