思い
迫りくる魔法弾を斬り裂き、背後より振るわれる剣に、反転して対応する。
遠心力を刀身に乗せてぶつけ、剣の軌道を大きく逸らす。
弾かれてあらぬ方向へと向いた剣先は、その者を無防備にさせた。
胴はがら空きとなり、そこへと蹴りを放つことで靴底が鳩尾にめり込んだ。
「――がはっ」
腹部に生じた激痛により、その生徒は意識を失う。
倒れ伏すのは、これで二人目。
取り巻きも残すは四人。
「なんなんだよっ、こいつ!」
またしても魔法弾が飛来し、その対処へと移る。
「撃っても撃っても当たらねぇ! 得物を振っても捌かれちまう!」
「これだけ囲んで袋叩きにしてんのに! こっちはメモリを入れてんだぞ!」
「なんで俺たちが押し巻けてんだよっ!」
魔法弾の弾幕の中を斬り進み、ごちゃごちゃとうるさい生徒に肉薄する。
「――ひっ」
すでに気圧されて及び腰。
そんな対象を無力化するのはたやすい。
すぐに大きな怪我をさせないように意識を奪う。
まぁ、その代わりに小さな怪我くらいは負ってもらうが。
「あと三人」
余計な邪魔者を排除するまで、残り三人。
「冗談じゃねぇ。こんな奴が相手だなんて聞いてねぇぞ!」
「そ、そうだ。お前が言ったんだろ! 囲んで叩けばすぐに終わるって!」
「メモリ入れりゃ、簡単に強くなれるんじゃなかったのかよ!」
残った取り巻きの三人は、首謀者である彼を責め立てた。
見るからに仲間割れ寸前と言ったところだ。
メモリのお陰で大きくなっていた気は、いまや見る影もないくらいしぼんでいる。
自分の立場って奴がわかってきたみだいだ。
「おい」
頃合いを見て、言い争う彼らに向けて言葉を投げる。
びくりと跳ねた取り巻きの三人は、恐る恐ると言ったようにこちらを見た。
「空のメモリを自分に刺して置いてけ。そうすれば見逃してやる」
「な、なにをふざけたことをっ!」
「こいつにどれだけ金が掛かったと思って――」
そのふざけた言い分を遮るように、言葉を紡ぐ。
「七体一でも俺には敵わなかった」
この期に及んでまだ選択の自由があるなどと、勘違いはしないでもらいたい。
「数が半減した今でも、まだ勝てる気でいるのか?」
「くっ……あぁ、あぁ、わかったよ! ちくしょうがっ!」
三人は次々に自分に空のメモリを刺していく。
移された記憶は抜かれ、再びメモリへと納まった。
「これでいいだろ! 俺たちはもう行くからなッ!」
メモリを投げ捨てた三人は、裏庭から駆け足で去って行く。
これで六人いた取り巻きは、すべていなくなった。
ようやく、一対一で話が出来そうだ。
「言っておくけど、あんたは逃がさないからな」
「……元から逃げるつもりなんてない」
一度、負けているというのに。
彼はそれをおくびにも出さず、堂々としている。
なにか策があるのか。
それともメモリの数を増やしたか。
「お前は邪魔なんだ。だから、排除する。もう二度と、この学園に来られないように」
「なにがそこまであんたを駆り立てるんだ」
「言っても納得はしないよ、お前は」
彼は剣を構えて駆ける。
一息に間合いへと踏み込み、鋭い一閃を振るう。
その剣閃は以前よりも、はるかに洗練されていた。
メモリの数は確実に増えている。
「それでも教えてもらいたいもんだな」
怒濤の勢いで打ち込まれる剣撃を捌きながら会話を続ける。
メモリによる達人の記憶が増えても、結局のところ扱うのは素人だ。
その記憶のすべてを活かせる訳じゃあない。
そういう意味では、俺の剣技と同じだけれど。
俺は彼よりすこし、この手の先輩だ。
活かし方は、俺のほうがまだ心得ている。
遅れを取るはずがない。
「人一人を殺そうとするんだ。それなりの理由があるはずだ。あんたが快楽殺人者でもなければな」
かつての斬り裂き魔がそうだったように。
だが、彼からはそのような雰囲気は感じない。
あの戦闘に喜びを感じ、理想の死を追い求めているような異端思想。
その特異な思考回路を持っているようには思えない。
こうして剣を打ち合わせてわかることは、彼もまた普遍的な学生であるということだけ。
だからこそ、理由を知りたい。
なにが彼をそうさせてしまったのかを。
「黙れッ」
剣撃の隙間を縫うように、蹴りが繰り出される。
初戦での意趣返しか。
しかし、だとしても、それはするべきではなかった。
その蹴りはたやすく受け止められる程度のもの。
この手で蹴りを掴みとり、そのまま押し返してやる。
ただそれだけで、彼の体勢は大きく崩れた。
俺はそこへ、容赦なく一刀を見舞う。
「ぐっ――」
彼は辛うじてその一刀を防いだ。
しかし、片足だけで踏ん張っていた彼の身体は、もう持ち直せない。
転がるように地面に身体を打ち付け、彼は地に伏した。
「もう止めにしよう」
これ以上は無意味だ。
不毛だ。
「だま……れっ」
彼は、それでも戦意を失わない。
敵わないと知りながら、敵意をもって立ち上がる。
「たった……一つの救いだったんだ」
零れ落ちるのは、思いの丈。
「彼女のお陰で、俺はまた歩き出せたんだ」
彼女と呼んだ、その人への。
「俺からっ、彼女を奪うなっ!」
叫び、思いを吐露し、彼は駆ける。
その最中に思うのは、彼にも引けない理由があったと言うこと。
「――そうか、あんたは」
サンのことが。
「……くだらない、とは言わない」
それほど思っていたのだろう。
ただ特訓に付き合っているだけの俺が、憎くて堪らないほどに。
自分でも制御が効かないくらい、深く、重く、焦がれていた。
彼の言う通り、その理由は到底、俺が納得できるようなものではない。
けれど、それをくだらないとは言わない。断じない。
他人から見れば冗談のような理由でも、とうの本人は本気なんだ。
そこだけは認めよう。
しかし、だからと言って、そうなのだとしても、俺も引く気はさらさらない。
特訓はまだ終わっていないのだから。
途中で投げ出すのは、性に合わない。
「受けて立つ」
彼の理由は、納得はしないにしろ、はっきりした。
その思いも理解した。
だから、俺は彼を真正面から叩き潰すことにする。
彼は手段を誤った。
今度は正攻法で、それこそ真正面から、サンにぶつかってもらおう。
そのためにも彼はここで一度、沈むべきだ。
また一からやり直すために。
「ほざけッ!」
互いにすでに間合いの中、一刀ですべてが決まる位置。
俺たちは互いに、それぞれの思いを込めた刃を振るう。
しかし、その直後。
「――先輩!」
思わぬ登場人物に、互いの刃が停止した。




