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裏庭にて


 尾行を警戒しながら学園へと向かい、無事に何事もなくたどり着く。

 校舎に入ってゆっくりと階段を上り、屋上の扉に手をかけた。

 約束の時間にはまだ早い。

 すこしばかり待ち時間が出来てしまいそうだった。

 準備体操を済ませたら、特訓についてあれこれと考えるかな。

 そう暇つぶしの思案をしながら、扉をひらいて屋上へと出る。

 日差しの中へと足を踏み入れると、その先には人影があった。


「あっ、先輩」

「サン? 随分と早いな」


 驚いたことにそこにはサンの姿があった。

 約束の時間はまだ先なのに、こんなにはやく来ていたのか。

 思い返せば、特訓のときはいつも先に来ていたっけ。

 ということは、普段からずっと?


「先輩こそ、今日は早いんですね」

「あぁ、ちょっと色々あってさ」


 ここに来るまえに命を狙われた。

 そんなことを言ったら、どんな反応をするだろう。

 試して見たい気もするけれど、流石に止めておこう。

 無用な心配をさせる訳にもいかないしな。


「ちょっと早いけど。ぱぱっと準備体操を済ませて、はじめようか」

「はいっ、今日もよろしくお願いしますね」


 ここに来る途中に立ち寄ったコンビニで買った食料や水を脇におき。

 そうして今回も二人きりの特訓がはじまった。


「――ワンパターンになるな。一度、防がれたら次ぎも通らないぞ」

「はいっ」


 真剣での打ち合いに、サンは慣れ始めていた。

 ぎこちなさはなくなり、剣撃も柔軟になり、太刀筋も引き締まっている。

 やはり自力があるだけ、上達も早い。

 回数を重ねた今では、打ち合いも長く続くようになってきている。

 まだまだ甘い部分はあれど、その数は確実に減ってきていた。


「――ふー……ここまでだな」


 短い休憩を何度か挟み、適度な食事を取る。

 そうして特訓を続け、気がつけば時刻は夕方に差し掛かりはじめていた。


「お疲れ様でしたぁー」


 俺は大きく息を吐いて呼吸を整え、サンはいつものように座り込む。

 実戦に近いこの特訓は、今のところ成果を上げている。

 いまのサンなら小型の魔物を相手にしても怯まずに立ち向かえるだろう。

 いずれはあの時のような中型にも臆すことはなくなるだろう。

 その時が来たら、俺もお役御免だな。


「喉渇いたな……あれ、もう水ないっけ」


 コンビニで買っておいた食料やら水やらが尽きていた。


「あ、じゃあ私が買ってきますね」

「いや、いいよ」


 立ち上がろうとするサンを手で制止する。


「俺が下まで行って自販機で買ってくるから。そこで休んでな」

「そう、ですか? えへへ、じゃあお言葉に甘えて」

「あぁ、ちょっと待っててくれ」


 サンを一人、屋上に残して階段を下る。

 一息に一階まで駆け下り、そこから自販機へと向かう。

 自販機には日本にはない商品が目白押しだ。

 その分、地雷のような不味いものもあるけれど。

 ここの自販機はあまり利用しないので、まだ見たことのないものがある。


「流石に、いまチャレンジする気にはならないな」


 素直に、二本の水を選ぶことにして懐に手をやった。


「――」


 そうして、気がつく。

 誰かに、どこかから見られていることに。


「おいおい、まさか本当にここまで追ってくるとはな」


 心当たりはある。

 バイト終わりに現れた、あのローブの男だ。

 俺たちが特訓をしている間に、体勢を立て直してきたみたいだ。


「……」


 しかし、こうなると気になるのは、彼の正体だ。

 この学園に、無関係の人間がそう簡単に忍び込めるとは思えない。

 なら、必然的に彼はここの生徒ということになる。

 だが、ここの生徒に殺されるほど恨まれる覚えが本当にない。


「それに、増えたな」


 感じとった気配は一つじゃない。

 一人では敵わないとみて、今度は仲間をつれてきたらしい。

 ここからじゃ正確な数は捕らえきれないが、五人以上はいる。

 援軍を呼ぶのはもっともな判断だけれど、こちらとしては面倒な限りだ。


「……とにかく、場所を変えるか」


 サンには悪いが、もうしばらく屋上で待っていてもらおう。

 奴らをサンに近づけさせる訳にはいかないし、どこか人気のないところに誘い込もう。

 懐にやった手はなにも掴まずに下げ、足は自販機をあとにする。

 人気のない場所、校舎裏か、裏庭か。

 戦闘になる可能性を考えると、裏庭のほうが都合がいいか。

 そう考えを巡らせながら、裏庭へと舵を切った。


「――出てこいよ」


 裏庭にて、中央に陣取りながら、そう語りかける。

 すると、隠れるのは無駄と判断したのか、続々と姿を現した。


「ひい、ふう、みい……七人か」


 ローブの男を筆頭に、六人の仲間が俺を囲むように出てきた。

 彼らはみんな制服を纏い、姿を晒している。

 その顔は、しかしいずれも見たことがない。

 学校での活動範囲に被らない生徒ということは、そもそも学年が違うのか。


「あんたは顔を見せてくれないのか?」


 そう問いかけると、彼はおもむろに仮面を外し、ローブも脱ぎ去った。


「やっぱり、見たことない顔だ」


 その下にあった人相には、やはり見覚えがない。

 校舎の廊下ですれ違う程度のことはあったかも知れない。

 だが、きちんと面と向かって会ったことはないはずだ。

 俺はそんな人物に、殺意を抱かれるほど恨まれているのか。


「教えてくれないか? 俺になんの恨みがあるのか」

「……そんなことを気にしている場合か?」


 ようやく帰ってきた返事は、しかし回答ではなかった。


「そーだぜ。いまの状況わかってねーの、せんぱーい」

「これだけの人数差だぜ? 素直に地面に頭つけたほうがいいんじゃないのー。許してくださーいって」

「もしかして、勝てると思ってんじゃね? この状況で」

「えー、マジで? もしかして舐められてんの? 俺ら」

「はっはー、マジならマジでムカつく」

「なぁ、もう面倒臭いから、やっちまおうぜ。わかってねーんだよ、こいつ。自分の立場って奴が」


 口々に、四方八方から言葉が飛んでくる。

 とても聞き心地がいいとは思えない言葉の数々だ。


「せっかくメモリを入れたんだ。はやく誰でもいいから、ぶちのめしたいんだよ」


 そして、聞き捨てならない言葉も聞こえてきた。

 それを聞いてしまっては、もう戦うしか道はなさそうだな。

 穏便に済ませるという選択肢が、いまここで消え失せた。


「――果たしてどっちだろうな」


 魔力で得物を構築し、構えを取る。


「立場って奴がわかっていないのは」


 意識がある奴は一人でいい。

 一人いれば、今回の件について知りたいことは知れる。

 だから、あとの六人には大人しく眠ってもらうことにしよう。


「舐めた口聞いてんじゃねーぞッ」


 一人、血気盛んな生徒が先陣を切る。

 その両の手に武装するのはガントレット。

 鋼鉄を纏う重い拳が、真っ直ぐに迫りくる。

 だからこそ、軌道は読みやすかった。

 俺はその一撃をかるく躱して、その顔面に左手を伸ばし、掴み取る。


「――え?」


 そして、そのまま押し倒すように、後頭部を地面に叩き付けた。

 衝撃で脳が揺れ、彼はすぐに意識を失う。

 まずは一人目。


「さて、次ぎは誰だ?」


 残すは五人。

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