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図星


 一面に広がる死屍累々の地獄絵図。

 魔物の屍の山と血の河で造られた、屍山血河。

 大量の死体を目の前にして、今日も捕食能力が唸りを上げる。


「さて、と。やりますか」


 魔物の死体処理のバイトは、まだ継続していた。

 正直、最近は組織の仕事にサンの特訓とで、時間もあまり取れないけれど。

 生命力の調達には、このバイトが打って付けだからだ。

 この身に宿った剣技は凄絶だが、その分、肉体にも負担が掛かる。

 つい最近まで素人に毛が生えたような体造りしかして来なかったのだ。

 その肉体で達人の動きをしようものなら、あっという間に節々から悲鳴が上がる。

 心も身体も、剣技に追いつけていない。

 それでも俺が剣技を振るえているのは、偏に変換した生命力のお陰だ。

 刀を振るうたびに蓄積するダメージを、すぐに生命力が治癒させる。

 だから、戦うたびに怪我を負わなくても生命力はどんどん消費されてしまう。

 こうして定期的に生命力を調達しなければならないほどに。

 大きな力を使うには、それなりの代償が必要だということらしい。


「――これで最後っと」


 最後の魔物の死体を平らげる。

 変換された生命力は蓄えられて、それなりの量になった。

 これでまたしばらくは持つだろう。

 道路はこれで元通りに綺麗になった。

 もう汚さないでほしいものだが、こちらの事情などお構いなしにゲートは開く。

 ゲートが開けば魔物が出るし、魔物が出れば治安維持部隊が動く。

 戦闘になれば死体が出来て、街が汚れる。

 そして、俺たちのような清掃員に仕事が回ってくる。

 この街にいる限り、捕食能力をもつ俺は、食いっぱぐれることがないだろうな。


「さて、いま何時だ? ……十一時か。まだもうちょっと時間があるな」


 午後からまたサンと特訓をすることになっている。

 場所はいつもの学園の屋上。

 まだすこし時間があるから、暇つぶしにその辺をぶらつこうか。

 そんな風に考え事しながら、来た道を戻ろうと踵を返す。

 そうして振り向いたところ、妙な人物を見た。

 綺麗にした道路の先で、立ち塞がるように立つローブを纏う誰か。

 見た目からは人間か、異世界人か、異形種か、男か、女かもわからない。

 ただ人型であることには違いなさそうだ。

 フードの奥から覗かせる仮面の位置は、普遍的な人間の構造に一致する。


「俺になにか用か?」


 こちらに視線を寄越して話さない、その誰か――彼に問う。

 視線と言っても、仮面でどこを見ているかなんてわかりはしないけれど。

 けれど、彼が俺に用があることだけははっきりとわかった。

 彼の意識が、俺を捕らえているのを肌で感じているからだ。


「……」


 彼は言葉を話さない。

 だが代わりにとばかりに、彼は剣を鞘から抜き払う。

 それは敵対行動と受け取るには十分すぎる行為だった。

 すくなくとも知り合いではなさそうだ。


「あぁ、そう」


 返事としては上出来だ。


「どこの誰だか知らないけど、やろうって言うなら叩き潰す」


 この後にも用事があるんだ。

 逃げ回るより、ここで潰しておいたほうが面倒がなくていい。

 約束を破りたくないんだ。

 悪いがさっさと終わらせてもらおう。


「……」


 相変わらず無口のまま、ローブの彼は戦闘に入る。

 肉薄し、間合いに入り、携えた剣を振るう。

 その鋭い一撃を、魔力で構築した刀で捌く。

 二度、三度と打ち合い、相手の力量を測る。

 そして、隙をみてその胴体に蹴りを入れた。


「――っ」


 余程、それが予想外だったのか。

 蹴りに対応できなかった彼は、その場から大きく後退する。

 苦しそうに、体勢を歪めながら。


「……このくらいか」


 今まで殺し合ってきた、どの相手よりも彼は弱い。

 ほかと比べれば格下と言ってもいい。

 まだ数回しか打ち合っていないが、それだけでも充分わかる。

 彼には他の者たちにはあったものが、決定的に欠けている。


「――ッ」


 声は出さず、けれどその動作からは怒りが滲んでいた。

 俺の態度が気にくわなかったらしい。

 剣閃がいっそう速くなり、剣圧も増す。

 しかし、代償に剣の精彩を欠き、冴えが死ぬ。

 これではただの棒振りと変わらない。

 刀と棒なら、どちらが勝つかは明白だ。


「あんたが誰だか知らないけど」


 振り下ろされた剣に向かって一閃を描く。

 薙いだ刀身は、彼の手元から剣を大きく弾き飛ばした。

 彼の手から離れた剣は宙を舞い、遥か後ろでからんと音を鳴らす。

 得物を失った彼に、対抗手段はもうない。


「もうこれ以上はやめたほうがいい」


 足の爪先で弧を描き、その無防備な横腹を蹴りつける。

 勢いよく蹴り飛ばすことで、彼をその場から吹き飛ばした。

 これで勝ち目がないと悟ってくれるといいが。

 まだ諦めないなら、次ぎは命を取る。


「――ぐ、うぅぅ」


 そうして、ようやく彼の声らしい声をきく。

 恨めしい、憎たらしい、そんな怨嗟のものだったけれど。

 この耳に、はっきりと届いた。


「あんた……ひょっとして同い年くらいか?」


 声が若く、それは少年のような声だった。

 恐らく、そう歳が違わない。

 一つか二つくらいの差しかないだろう。

 そして、それらの予想は、答えからそう遠くない。


「――」


 俺の問いかけに、彼は答えない。

 しかし、彼の様子は激変し、俺に背を向けて一目散に逃げ出した。

 途中で地面に転がった剣を拾い上げ、街の景色に消えていく。


「図星……だったのか?」


 その姿を見送りながら、そう呟く。

 いまの行動を見るに、そうとしか思えない。

 だとしたら、いったい誰だろう。

 俺の知り合いか? それとも知らない誰かか。

 知らぬ間に恨みを買ったのか、場当たり的な犯行か、誰かに依頼でもされたのか。

 可能性を考え出したら切りがない。

 ここは一つ、待ち構えてみるか。

 一度、襲ってきたんだ。

 たぶん、俺をどうにかするまで狙ってくるだろう。

 そうなると尾行に気をつけないとな。

 下手につけられて、サンにまで被害が及ぶことは避けないと。


「しばらくは頻度を落とすかな。サンには悪いけど」


 この件が解決するまで、警戒するに越したことはない。

 まぁ、流石に学園内にまで、彼が襲いに来るとも思えないけれど。


「とりあえず、このまま学園にいくか」


 街をぶらついて暇つぶし、なんて気分にはもうなれそうにない。

 彼も逃げて早々に戻ってくるなんてことはしないだろう。

 でも、一応、尾行には気をつけて学園に向かうとしよう。

 面倒なことに、なってきたな。

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