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戦乙女は英雄を夢みた  作者: 毎日三拝
迷宮探索前闘の章
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18/24

「陰謀の王都 後編」

 現在のソマリア王国国王はソマリア王国民にとって自由の象徴だ。

 一国の代表として威風堂々とした王者の風格を纏いながらも民の立場を顧みた良き王としてソマリア王国に君臨す。

 その在り方は歴史を振り返っても前例を見ない破格の英雄でもある。

 そんな彼の王は王座に就く資格など決して有り得ない人物であった。

 十二の試練が一つ。

 始まりにして最悪の試練ネメアー谷の悪魔獅子に滅ぼされたカラシナ王国。当時は敵対国であったカラシナ王国の何処にでも居るであろう青年。その人こそ現国王バレンティンである。

 彼は幼い時から武術の魅力に憑かれて過酷な修行を身に強いる程に武術狂いであった。

 来る日も来る日も修行に明け暮れ強くなる事に執着する毎日。

 ある日。彼はとある噂を耳にした。

 隣国のソマリア王国で王族主催の大規模な武闘大会を近々開くらしい。

 武術狂いの彼は自分の腕前を確かめると同時に確たる名声を得たいと考え、敵国に一人乗り込んで行った。

 停戦中とは言え国同士が啀み合っている為に敵視激しい。下手をすれば殺されても可笑しくはない状況であった。

 そんな中で彼は平然とし、正面から武闘大会に堂々と参加したのである。

 バレンティンが参加するに当たって妨害や拒否は一切無かった。

 ソマリア王国民は揃いも揃って妨害や参加拒否して早々に自国へと帰還させるよりも武闘大会中に憎い敵国民を痛み付け殺す法を選んだのである。

 彼は如何なる強敵にも正面から立ち向かい屈しなかった。

 勝ち進むに従ってソマリア王国民は次第に彼の愚直なまでの真っ直ぐさに惹かれ始め決勝を見事に勝ち抜いた頃には認めるに至る。

 主催者として武闘大会を観覧していた姫君もその一人であった。

 無数の傷を体に刻み血に塗れたまま優勝を飾った瞬間。

 彼女の頭の中でバレンティンは誇り高き真の勇者であり英雄に違いなかった。

 "魔法"が使える資格を得る血が薄れ、弱体化していたソマリア王家にとっても国一番の強者となったバレンティンの血は魅力的に見えたのである。

 王家は当時の継承権を無理矢理破棄して、新たなる体制を構築して彼を王家へと迎え入れた。

 一部の戦争により隣国に恨みがある人間や精霊の力が宿る王家の血を崇める純潔派なる貴族達には未だに敵意を向けられているが、大半が伝説となりつつある武闘大会の活躍を知っているので大規模の反逆を受ける事はなかった。 

 少々宮殿内の小競り合いが発生するがその程度に収まっている。


「と言った次第で」

「なるほど」


 宗次郎は顎を手で摩りながら頷く。

 当代王家の成り立ちはよく分った。

 しかし宗次郎が求めた説明としては些か不足している部分がある。この辺りなら歴史の授業で知って当たり前の知識。

 家臣に当たるベアトリスやアルベルトに秘する必要性は無い。

 更なる説明を求めて視線を送った。


「確かにここまでの話の内容ならベアトリス様もアルベルトも承知しています。貴公に聞いて貰いたいのはここからです。最終忠告となりますがここからは一国家の機密に当たる情報なのです。聞く覚悟は宜しいか?」

「既に決まっております」


 宗次郎は戸惑う事無く間髪容れず答えた。

 ドミニクは静かに瞬きをし一呼吸置いてから口を開く。


「現在、国王バレンティン様は余命幾許かの状態なのです」 


 その情報は間違いなく国家最重要機密であった。




  ■


 


 ソマリア国王バレンティンには使命がある。

 残り少ない命を全て燃やし尽くしても絶対に叶えなければならない王としての務めがある。

 "自国民に安定した幸福と生活を"

 嘗て敵国の平民筋である自分を受け入れ我が王だと認めてくれた者達への細やかなる恩返しでもある。

 これは彼にとって贖罪であり、偽善であり、自己満足でもあるのだが自身の何よりも最優先して必ず成さなければならない願いだ。

 しかし、その為の障害が幾つも目の前に立ちはだかっている。 

 彼に敵意を向けて協力しない革命派と名乗る元純潔派の連中や国王として君臨している最中に現れた神が人類に与えたと神話準え揶揄されている十二の試練。 そして何よりも圧倒的に時間が足りない。

 少しでも不足した時間を補おうと医術に特化した"魔術師"により繊細且つ綿密な治療を施されてきたが、奇跡的に幾許か延命出来ただけだ。元々、国王は平均寿命よりを既に越えており、長く存命している。

 如何も出来ない現実に国王は潔く現状を受け止め思考した。

 何が最善で存命中に何所まで国民に貢献出来るのかを。

 我武者羅に全てに力を入れてしまえば時間が足りなく、中途半端に終わってしまう。

 故に出来る範囲を決めようとした。

 国王は決断する。

 長き因縁となるであろう革命派との付き合いよりも十二の試練攻略を選択した。

 早速、国王は全ての臣下ひいては国民へ大号令を呼び掛ける。


「王国北部に存在する冥界迷宮を全力を以て攻略に注ぐっ!」


 その大規模な計画に常日頃から不安に感じていた国民は国王の計画を讃え、臣下たる貴族達は計画にそれぞれ自分なりの利点を見出していた。

 それは革命派も同じだった。

 順調に国王の計画は進んでいく。

 軍事改革の一部として取り入れていた騎士道により誕生した英雄騎士の勇名から騎士制度を復活させ、盗賊や傭兵崩れにまで落ちぶれていた者達を篩に掛け下級騎士の称号を与えた。

 それにより国内の治安が向上し、実戦慣れした軍隊を容易に構築出来た。

 第二の英雄騎士を目指し名声を欲する貴族に騎士団結成させ、順番に送り出させて迷宮内部を探索させた。利益に目が眩み、噂されていた奥に潜む化け物の討伐失敗による損失が大きかったが、内部事情を奥深くまで探れた。如何いった化け物が潜んでいるのかも。

 後は討伐に力を注ぐのみとなった。

 しかし、この時点で問題が起きた。

 予想される討伐時の戦力が国内に不足していたのだ。

 勿論、国内には英雄や其れに次ぐ実力者達が残存している。

 例えば英雄騎士やその娘である戦乙女、王宮騎士団の上位騎士である三騎士達。最高峰の"魔術"を行使する王宮魔術師の一族。武術の名門を誇る一族の神童など。

 王国防衛に残る戦力や狭い空間で戦い辛い事を考慮して最精鋭で挑む為に戦力が限られてしまい、条件に該当する実力者を考えると如何しても足りないのだ。

 王国は勝てない戦を敢行するほど愚かではない。

 故に悩み苦しみ対策として国王と首脳部が考えに考えた結果、国外の戦力を加えればいいと結論を出した。

 但し、この計画は容易ではない。

 十二の試練に対する戦力が不足しているのは近隣諸国に共通する問題だったのだから。

 国王は更なる対策として遠方に派遣する事を視野に入れる。

 見る目麗しい英雄の娘とその護衛を遣い英雄に成り得て此方側に対して足手纏いに成らない存在を探し出せと計画したのだが、その号令が成される前に異を唱える者達が存在したのだ。

 革命派である。


「自国の誉れは自国民によって成されるべきだ!」


 と、彼等は声高に主張し国外戦力を由とはしなかった。

 この件で元々眼中に無かった国王も本格的に彼等革命派と対立する破目となりる。

 無理矢理に国王権限で計画を実行、臣下に命令して、革命派から売国奴と揶揄されるようになった。


「大体、その頃だと報告を受けましたなぁ。暗殺者による国王暗殺未遂事件や貴族暗殺が相次ぎ発生する様になったのは……」

「港の件も?」

「間違いないでしょうな」


 何とも血生臭い話だ。

 ドミニクは前傾姿勢で俯き悲痛そうな表情を浮かべていた。

 彼は元々王族を守護する一族の出であり、現在でも王宮近衛騎士の役割を担い、王族を守護する立場だ。

 ある意味で王族から主人であるベアトリスよりも信頼されているし、騎士団の主要位置に存在する彼だからこそ知らされている重要な情報なのだろう宗次郎は勝手に推理した。

 どうせ事実は当たらずとも遠からずだろう。


「全ては降伏して来た元隣国の姫君を妾として王宮に受け入れたのが問題だったのでしょう」

「元隣国の姫君?」

「現在は側室で在らせられるエルフィナ様の事です」


 元カラシナ王国第三王女エルフィナ・ロザリザ・カラシナ。

 銀に輝く髪色に燃える様に赤い瞳、横長に変形した耳。

 そして、古来より伝え聞く"魔法"と似た奇跡を起こせたらしい。

 その姿形は文献に残っている精霊の特徴と一致していた。

 "魔術"に崇拝し血脈を重視する純潔派が最も必要としている存在である。

 不満を燻らせていた程度で治まっていた純潔派が降伏する条件で王宮へと嫁ぎに来た彼女の姿を認識した瞬間に不満を爆発させ、派閥を決起する切欠を与えてしまう結果となったのだ。


「正直に言えば純潔派がエルフィナ様に血道を上げてしまった気持ちが私には理解出来るのです……断言する。あの方は我々と同じ唯の人ではない」


 気のせいか僅かに言葉端が震えている。

 微かに感じる感情を察すれば、屈強な体格を有した歴戦の偉丈夫が恐れを抱いていた。上手く隠しているが尋常じゃない程に怯えている。


「……一度だけ」


 喉が乾き詰まったらしくドミニクは咳払いをする。


「過去に一度だけあの方を目にする機会がありました」


 これは彼が王宮騎士団に正式な任命を受ける前の話だ。

 その頃のドミニクは騎士団所属ではなく王族に直接仕えており、先代王の嫡子にして現王の義弟である宰相閣下の息子であるリラード殿下の護衛を兼ねた側仕えであった。

 騎士としての訓練を終え、親族に直ぐに最前線に送り込まれても善戦出来ると太鼓判を押されていたドミニクは王族から一応の信用を得て重要な役目を与えられていたのだ。

 宰相の後継として毎日忙しなく王宮の隅から隅まで移動するリラード殿下に付き従い、ドミニク自身も大変な日々を過していた。

 そんなある日。

 一度だけ元カラシナ王族の為に王宮から離れた位置に建てられた宮殿に近付く機会が訪れた。

 離宮に不審人物が現れたと言う情報が王宮内に流れて騒然なり、丁度人手が足りない時機だった。

 幾人もいるリラード殿下の護衛からドミニクが選ばれ交代で見回りをする事になった。元敵国であったカラシナ王族に怨みある国民は多く存在するので安易に無視出来ない状態である。

 見回り組みは昼夜問わず真剣に不審人物を探した。

 ドミニクもその一人だ。

 リラード殿下の側仕えから選ばれたので不審者を見逃し、カラシナ王族に危害が及べば直属の上司であるリラード殿下にも責任が及んでしまう。

 必死に見逃しが無いか確認し、離宮の外を隅々まで見回した。

 その最中である。

 離宮の一室に設けられた窓が開け放たれた。

 少しばかり遠くから窓に視線を向けると其処には人ならざる者が立っている。

 薄暗い曇り空の中でその空間だけ切り取られた様に綺羅綺羅と銀糸が舞って光り輝き、灼熱の火を想起させる赤い瞳が遠くを見ていた。

 横顔で分り辛かったが凝視すると特徴的なまでに耳が長い。

 その場で暫くドミニクは惚けていた。

 童話や御伽噺の中に出て来る様な存在が突然現れたのだ。無理もなかった。

 その所為でドミニクは致命的な隙を曝け出した。

 見回り組みを警戒して様子を窺っていた不審者が離宮に全速力で離宮へ近付き、人ならざる者に手にしていた短剣を突き立てようと行動する。

 惚けた状態から正気に戻ったドミニクは直ぐに男の不審者を押さえ込もうと走り出したが如何見積もっても既に距離が離れ過ぎていた。

 その場に居合わせた全員が間に合わない。心理に諦めが出る。

 冷静にその光景を眺めていた人ならざる者は中指と親指の腹を擦り合わせてドミニクが居る位置まで聞こえる位の音を生じさせた。

 その瞬間に驚くべき現象が起こった。

 不審者の全身が燃え上がったのだ。

 瞬時に自分の状態を理解出来なかった男の不審者は断末魔の叫び声を上げる余裕もなく燃え尽きた。

 成す術も無く突っ立ったまま燃え尽きる様を見回り組みは見ているしかない。

 その時、彼等は文字通り奇跡を見ていた。

 幾ら"魔術"でも何の準備も無く、火が人に引火する程の奇跡を起こる筈がないからだ。

 ドミニクはその時、人ならざる者の方を偶々見た。 

 笑っていた。

 子供の様に無垢で無邪気に笑みだった。


「思わず全身が総毛立ちましたな。あの方がエルフィナ様だと判明した時は更に恐怖しました。今考えると侵入者を許し御手を煩わせてしまった責任を取り側仕えを辞任し、現在の騎士団に入団したのは王宮に近寄りたくなかったからかもしれません。それ程に恐ろしいかった……」


 語りきった後に当時を思い出し肩を抱いて身震いしている。

 その姿は宗次郎にエルフィナの異常性を言葉以上に感じさせた。


「……私の勝手な考えですが、きっと革命派の裏にはエルフィナ様が居る。あの方は革命派を操り余命少ない国王を除外し国家を乗っ取ろうと画策している…………そんな気がしてならない」


 暗い沈黙が部屋を支配する。

 宗次郎に掛ける言葉が無かった。

 これまで抱えていたものを曝け出したドミニクも言葉など必要ない。

 その沈黙はドミニクが部屋を去るまで続いた。

 窓の外に広がる薄闇の向こう側に誰かが笑みを形作っている気がした。

一章最後

話数的に折り返し地点突破

次から二章。後半部開始

この小説は30話(番外抜いて)150000字。三章構成を目指しています

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