「陰謀の王都 前編」
投稿遅くなりました。次回は通常通りに投稿します。
ソマリア王国中央都市。略称を王都と呼ぶ。
王都は中央の王族が住まう王城を中心にして街が四分割されれいる。
北に社会的特権を有する上流階級民が住む貴族街。南に商人賑わう繁華街。東に一般階級民が生活を営む町民街。西に夜に栄え酒店や性的風俗店が立ち並ぶ歓楽街。
その周囲を二重の防御施設で囲んだ堅固な守りが建設されている。
歴史上、此の国は異民族の襲撃、他国の侵略・進攻などが多く、外敵が攻め込む危険性から身を守る為に城壁で外敵を遮断し近寄らせなかった。
そのあまりに固過ぎる鉄壁さに敵は賞賛を送り"城塞都市"と称えられている。
その鉄壁の守りにはそれぞれ門が一つずつ存在する。
北の方角に外側の門があり、南の方角に内側の門があった。
ベアトリス一行は現在北門を抜けて、南門を潜るため長蛇の列に並んでいる。
列は二列あり、身分に寄って別けられている。
彼女等は大貴族であるからあまり待たされずに済む貴族専用の門を通り抜けようとしていたのだが、珍しい事に貴族専用の関所まで長蛇の列が出来ているのだ。
初めて訪れた宗次郎にはそういうものだと思っており、横で不満を漏らすベアトリスや王族に仕え頻繁に王都を出入りする王宮近衛騎士の役割も担う騎士達も初めてだと言う。
物珍しさはあるがそれは最初の内だけで次第に彼等の機嫌は悪くなり、温厚な気性のドミニクですらアルベルトと
「平時だからいいが戦時だったら危険だ」
と愚痴を言い合ってきた。
気が付いた時にはすっかり三人から仲間外れにされて手持ち無沙汰になってしまった宗次郎は人混みに塗れている所為か耳を伏せて機嫌が悪くなってしまった馬から降りて横に立ち、体をゆっくり察すって愛撫しながら機嫌をとって時間を潰す。
だが、それも我慢の限界を迎えつつある。
生来男性である三騎士の二人は気にしていないが、ベアトリスは勿論の事、男子と偽っている宗次郎も直ぐに服装を着替えたいと考えていた。
城から出立する際に貸し付けられた外套を着物の上から纏っていたが長時間雨曝しにされていたので着物が肌に張り付き、何とも言えぬ不快感を与えられている。
時が経つにつれ薄く乾きつつあるのだから余計に張る付き不快になる。
我慢は苛立ちを抱え、武芸者として精神修行を重ね強靭な精神力を持つ宗次郎さえも飲み込む。
その所為か不思議と神経が普段よりも鋭敏になっている。
列に並ぶ貴族達が喋る多数の言葉を宗次郎はその耳に聞き取った。
多くは下らない貴族特有の自慢話で暇潰し程度に聞いていたのだが、ぽつぽつと不穏な会話が混じっているのに気が付く。
声の主はどうやら後方の少しばかり遠い位置に並んでおり十全に耳元まで情報を聞き取る事は出来ないが単語だけ抜き取れた。
(革命派が積極的に動いているらしいとは言え、王の暗殺とは穏やかな話ではないな……)
暫く様子を窺うとその言葉は決して彼等が企てる為に口にしたものではなかった。
ソマリア貴族社会に流れている噂話に過ぎないようだ。
どうやら現在の王都は巨大な陰謀が張り巡らされているらしい。
何の因果かは知らぬが宗次郎の誂え向きな方向へと事態が進んでいる気がする。
フェイトの言葉が如何しても耳に残るのだ。
胸騒ぎが起こる感じではないが、誰かの描いた策略へと導かれる様な薄ら寒い感覚が体を支配した。
「……まるで御伽噺の様な展開だな」
宗次郎は馬を愛撫しながら人知れず笑みを浮かべる。
何時の間にか着物が張り付く不快さを感じなくなっていた。
□
茜色に染まる夕日が徐々にその色を燃やし尽くすと漆黒の帳が辺りを包み込む。
前方の列でつるりと禿げ上がった頭した男のドミニクが門番に通行証と身分証である家紋を確認させている。
普段なら家紋など見せずとも大貴族である御令嬢引き入る王宮騎士団員は通る筈なのだが、今は身分関係無く厳重に警戒されており確認だけでも暫しの時間を取られた。
結局、着替える時間も場所も無く不快に乾いてしまった布地を気にしながら四人は馬に騎乗して門を越える。
時刻は既に夕餉時を越えていた。
「済まないな。ソウジロウ殿。初日なら案内序に賑わいだ我が国自慢の繁華街を是非とも観光してもらいたかったのだが」
困った風に禿げ上がった後頭部をドミニクが手綱を握る方とは別の手で撫でる。
何となくその仕草を宗次郎は愛嬌があり可愛らしいと感じた。
「いえ、御気に為さらず。此処に来た目的は別に有るゆえ」
「確かにそうだが遠慮する事は無いのだぞ。私達は客人である貴公に祖国をよく知って貰いたいのだ」
「ならば後日また御願いします。シンカ殿。それよりも是非とも御聞きしたい事があります」
「何でしょう?」
分り辛いが宗次郎の表情が普段よりも幾分か真剣さを帯びる。
セロに次ぐ分析・把握能力を誇るドミニクはすぐさま察す。
「少々聞き捨てならない単語を耳にしましてね。現在の王都は危険なのでしょうか?」
目が驚きに見開かれ直ぐに細められる。
その反応だけで答えを語った様なものだった。
「質問に質問を返すようで申し訳無いが、何処でその話を?」
「壁に耳あり。これは故郷の言葉なのですが誰が何処で何を聞いているのか分ったものでない、という意味です。密談は漏れ易く他者に知れ渡り易いもの。これより我等は大事における一蓮托生の身であり些細な隠し事により命を落としていては洒落になりませんぬ」
これまで客分として唯々諾々と従って来た宗次郎にしては珍しく威圧の篭った言葉であった。
ある種の決意を含んだ言葉と分れば到底流せるものではない。
「……さようですか。それは金言でありますな。大変勉強になりました。ならば、この話の続きは宿に戻ってからで御願いします。学んだのなら先程の言葉に倣わなければならない」
宗次郎は頷き、無言で先導するドミニクに続いた。
■
中央の王城を突き進む訳には行かないので繁華街を抜け、東に位置する町民街へと大回りをして北の貴族街まで移動する。
それぞれの町に設けられた関所で身分を証明しながら来たので貴族街に建つクリフ家が所持する屋敷に辿り着いた頃には夜闇は益々深くなっていた。
貴族街の一角を占拠した公爵家に相応しいと思われる広大な土地に建つ見事な屋敷だ。
正直、宗次郎の実家であった東堂家の方が修練場や庵があった為に敷地は広大で立派な屋敷であったのだが、本拠地が白亜の城でこれが一時的な別宅だと考えるとあまりの壮大さに一驚を喫するばかり。
東堂桜もそれなりの御嬢様だったのだが桁が違う。
クリフ家の規模は日ノ本に換算すると一国一城の主所ではなく、同じ条件である将軍家縁の筆頭家臣ですら及ばない。
異文化の違いに異世界へと迷い込んで来たかのような気分になりかけたが、宗次郎は今は関係無いとさっさと気持ちを入れ替えた。
■
夕餉の時間が過ぎた為に軽食を頂き、自分に宛がわれた部屋へと案内して貰うと宗次郎は一瞬部屋の内部を検める様に見詰る。
照明器具に火が灯され煌々と隅々まで照らされていた。
余計な物は一切無く綺麗に整理整頓された作り。
何かしらの確認が済むと中へと踏み入った。
そのまま扉を閉めて再度確認をする
特に異常は無い。
雰囲気、空間、気配、意識。五感で感じ得る全てを動員して宗次郎はそう結論付けた。
その上で部屋の中に居る誰かに問い掛ける。
「好い加減出て来たら如何だ?」
当然、その部屋には誰も居る筈がないのだから返答などくる訳がない。ないのだが不思議な事に宗次郎の鼓膜が揺れ音がその耳に届けられた。
「――あぁ御見事で御座います。わたくしの御主人様」
宗次郎の視線の先。
扉の対面側にある窓際周辺が陽炎の様に不自然に揺れたと思えば、きらきらと光り輝く銀糸が振り乱された。
赤い両の眼が妖しい光を湛えながら此方を覗いている。
"魔術師"フェイト。
宗次郎は知らないがソマリアとは別の異国言葉で運命の名を冠する少女。
彼女はまたしても唐突に宗次郎の元へと現れたのだった。
「御主人様。愚かなわたくしに一つ御聞きかせ願います」
右手の人差し指を立て疑問を呈するフェイト。
宗次郎は軽く頷き言葉を促す。
「わたくしの"隠密の法"を如何して御分かりになられましたか?」
可愛らしげに小首を傾げている。
如何やら本気で聞いているらしい。
宗次郎ははっきりと答える。
「勘です」
「かん? ……まさかと思いますが直感的判断能力という意味ですか?」
素直に首を縦に振る。
部屋の空気が静まり返った。
超常的な力を自在に操り人を脅かす側にいるフェイトも流石に自らの英知を勘で破られた事に唖然としたらしい。
「フェイト。勘を侮ってはいけませぬ。特に私の様な武芸者の勘は」
そもそも勘は武芸にとって最上位に極意である。
相手を知る"見"に始まり、全体を知る"観"、眼だけではなく体の全身を駆使した"感"。
そして刹那の行動を見切り相手を制する"勘"に終わる。
勝負は一瞬で決着がつく。
過酷な修練を積み重ね力を付ければ更に勝負は速くなる。
高水準の闘いでは刹那の時が重要となり、反応は人間の限界をとっくに越えてしまう。
その為、予測は全て勘頼りになるのだ。
武芸を極めた者を達人と言うのだが、彼等は"魔術師"と同じく超常的能力を巧みに操り、少し先に未来を知って剣戟を避け、決して回避出来ない位置に誘導し剣線を斬り結ぶ。
更に極意の先へと踏み出せば遠い先の未来を覗き見て神が如き予感を得るのも不可能じゃないらしい。
流石に宗次郎は極意の先に踏み入れている段階ではないが高確率で勘を駆使し先の出来事を予測出来るのだ。
「"感じ得ぬならば勘を頼りにせよ"詳しくは言えませんが私達武芸者の勘は一概に馬鹿にしてはいけないのです。前回は酒精に酔い潰れ酔態を晒し出来ませんでしたが」
仮に裏切り暗殺しようとしても自分には通用しない、とばかりに語意を強く注意する。
くすっ。
フェイトは微かに笑い声を上げて反応した。
「あぁ本当に素晴らしいです。御主人様。貴方様を主人として間違いなかった事をわたくしは益々確信しました。御主人様に仕えまして至上の幸せ」
フェイトは緩やかな足取りで宗次郎の目の前まで寄ると自ら跪き胸の前で両手を組む。
「この部屋に鋼の騎士が来てしまいます。ですので一言だけ忠告に来ました」
何故にそれを知っているのか。
宗次郎は色々と浮かんだ疑問を静かに消化し首肯する。
「王城に行けば貴方様は必ず試しを受けます。それに決して合格してはなりません。いいですか決して合格してはいけないのです。御主人様。貴方様は冥界迷宮へ行ってはなりません。あの場所には害を与える怪物など存在していないのです」
突然の言葉に困惑が奔る。
確かに怪物、神の試練は多聞でしか知らないし、自身の眼で直接確認した訳ではない。
だとしても怪物の存在まで嘘だとは思えない。
存在していない化け物に人が動く訳がないのだから。
「それは如何言う意味――」
疑問を呈する途中で扉を叩く音が鳴る。
『ソウジロウ殿。入りますぞ』
扉越しに男の太い声が響いた。
「御主人様。それでは御機嫌よう」
止める間もなく先程まで跪いていた少女が掻き消え、代わりに頭が禿げ上がった体格のいい男が部屋に入って来る。
「御待たせしましたな」
「いえ。話を聞かせて頂くのは私ですので御気に為さらず」
フェイトの存在を感ずかれる訳にはいかないので先程まで感じていた困惑を見事に隠し、宗次郎はドミニクに対応する。
ドミニクは片隅に置かれた椅子を二脚出して並べて座った。
宗次郎もそれに倣って対面に座る。
「先に断っておきますが、この話は騎士アルベルトやベアトリス様も知ってはいない。二人には内密に願おう」
「承諾しました」
下手を打ってしまいました。
日曜日に予約で次話投稿しようとしたら確認を押さず何所か別の場所を押してしまい内容が全て消し飛びました。
日報で内容覚えているから直ぐに書けるだろうと考え月曜日に投稿すると意気込んでいましたが、書き直せない。
また一から考えて書きました。普通なら何時もより速い速度です。こんな僕を哀れんでくれるのなら勘弁してください。




