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戦乙女は英雄を夢みた  作者: 毎日三拝
迷宮探索前闘の章
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12/24

「英雄の資格を得よ」

 人垣に囲まれたて作られた一筋の花道を金色の戦乙女が先陣を切り、それに鉄と鋼と銀が追従する。

 凱旋の時。

 それは多くのソマリア王国民が望んだ渇望の瞬間。更なる歓声が上がり、けたたましい叫びと変わり地響きに繋がって場を支配した。

 ソマリア王国の国民達は自国の早期迷宮攻略を心から望み、今は亡き隣国の悲劇を繰り返さないようにと必死である。

 彼等は自らの意志で立ち上がってきた勇者達を歓迎す。無論、異国から訪れて来た異邦人もその内の一人に含まれるのだ。

 故に町民は刮目する。

 新たなる英雄の誕生を期待し、未来の迷宮覇者の資格を得たであろう人間を無理矢理にでも記憶に刻み込み、何時か来るその時に同じ時代を歩んだ者として誉れを受ける為に。

 四人の騎士達が目の前を通り過ぎると必然的に次に来るであろう人間を目で追う。

 歩み寄ってくる青年へと視線が集中していく。

 その瞳に映るのは期待だけじゃなく、希望も合さった懇願に近い眼差しだ。

 偉業を達成する器であるのか、と瞬時に不安が押し寄せ、思わず黙して、その姿を見た。

 そして現れたのは見知らぬ不思議さと異国情緒を感じさせる異国の民族衣装を纏った青年。

 自分達と違わぬ肌の白さに少しばかり足りぬ小柄さ。腕も脚も細く締まっており虚弱に視得る。

 まるで創られた人形の様な儚さを感じさせる雰囲気がある。お世辞にも屈強そうである、などとは決して言えぬ。

 むしろ自分達でも勝てそうだと錯覚してしまう程に弱そうであった。


『これが英雄への資格を得た者の姿か?』


 その場に居る誰しもが一寸ばかり考えたが直ぐに考えを改める破目となる。

 瞬間、それは放たれた。



  ■

 


 藤宗次郎は自分に向けられる視線の意味を敏感に感じ取っていた。


(試されている……)


 全ての民衆が武に通じている訳がない。

 宗次郎が幾ら卓越した戦闘技術を有していても初見で分からないのは当然だ。 それに宗次郎の体格がソマリア王国の人間に比べると小柄であり、余分な筋肉が少なく細いのも疑念を深める原因となっている。

 これではいけない。

 宗次郎はソマリア王国民に期待されているのだ。

 神が与えた十二の試練が一つ、死後の世界と呼ばれる巨大な地下空洞、冥界迷宮を攻略する英雄の一人として見ている。

 個人が背負うには重過ぎる期待だが、宗次郎は応えなければならない。

 何時か来るかもしれない彼等にとっての最悪な懸念を払う為に。

 そして何よりも自身の夢にして宿願を果たす為に。

 自らの指針を確かめ覚悟決めれば行動は早かった。

 温厚な雰囲気から一変し、ぴりぴりとする肌を刺激する緊張感の篭った気迫を纏い、変貌す。

 歩を進めると近寄った人垣が気迫にのまれて少しずつ後退る。

 町民達は宗次郎に対して確実に畏れを抱いたであろう事は間違いない。

 後に残ったのは日ノ本の青年、藤宗次郎が盛大な歓声と共にソマリア王国民に受け入れられた、という事実だけだ。




   ■




 ハルトバルズ公爵家の領地に向かう為、ベアトリス一行は歓迎の列を足早に脱出していた。

 用意させて置いた五頭の栗毛を生やした軍用馬に乗り込み、港町を抜けて行く。

 精強な軍用馬なら領地まで一日と掛からずに着くとの話だ。

 そこまでは順調な滑り出しだったのだが、一つ問題が発生した。

 肝心の馬に乗れない人物が居たのだ。

 剣術道場主の長女として生まれた東堂桜改め藤宗次郎はこれまで馬に縁の無い人生を送っていたのだ。当然乗れる筈がない。

 誰が乗せるのか一悶着を経た後にセロの馬に二人乗りする事と相成った。

 乗馬経験の無い宗次郎が鞍に跨り、セロは宗次郎の後ろに回って手綱を握り直接跨ぐ形となった。

 その姿を羨ましげに睨んでいるベアトリスの視線に呆れながらセロは宗次郎に馬の乗り方を講義しながら馬を巧みに誘導し、走らせる。

 途中。

 休憩を挟みつつ進んで行くと宗次郎はドミニクとフレディからも積極的に教えを請い、セロが相乗りしなくとも一人で乗れるまでになった。

 その事実は馬に乗れない事を理由にして相乗りしようと画策していたベアトリスを大いに落胆させ、ベアトリスを想うアルベルトは宗次郎の成長を喜んだ。

 東に出ていた太陽が西に傾き、煌々と赤く大平原を染め上げる。

 もう直ぐに闇色の帳が空を覆い隠さんと広がって来るであろう。

 五頭の軍用馬は騎手に疲れを見せる事も無く、悠然とハルトバルズ公爵領に突き進む。

 偵察を兼ねて一足先に進んでいたドミニクの馬が速度を緩めてベアトリスの方へと近寄って来る。


「領地が見えました。受け入れ準備を整えてきますので、脚の速さを遅くして着いて来て下さい。では」


 報告をするとドミニクは軍用馬を目一杯走らせ、宗次郎の位置でも見えてきた城門に向かって行った。

 見送るとベアトリスが右手を挙げて手信号を出し、それぞれの馬がこれまでの速度を緩めていく。

 宗次郎はこの行動の意図を掴めなかった。


「何故、このまま領地に入らないのですか?」


 手綱を緩めて速度を調節しながらセロは宗次郎に答えた。


「一種の確認よ。昔の話だが此処等一帯は物騒だったんでな。その頃の名残で此方に敵対の意思が無い事を示す為ドミニクが先行し領地へ入る許可を得ているのだ。必要無いように思えてしまうが確認は大事と言う訳よな」


 セロが語ったのは敵国の兵士が盛んに攻めに来ていた頃の話で、山賊に盗賊が溢れ、騎士すらもそれらに身を落とし、領地を荒らし回っていた。

 騎士の甲冑を纏った荒くれ共が騎士を騙り、領地へ堂々と攻め入って来たのも一度や二度では済まない。多くの領民が犠牲となった。

 その対応策として練られたのが現在の通行許可法である。

 大勢で門を通ろうと近付けば強制的に敵対し、一人だけ身分を保証させる交渉役を寄越し十分距離を取って待機させた際は警戒に止め、門番の確認が終われば仲間の所へと戻らせて通行許可を認める由を伝えさせ門を通らせた。

 領主の息女であるベアトリスといえど例外ではない。

 偽装の可能性があるので、確認が取れるまで領地に帰って来ると毎回行なっている。

 見晴らしの良い小高い丘で馬から下り、休憩がてら待機しているとドミニクが戻って来た。

 右手を挙げて合図を此方に送るとそれを確認したベアトリスが軽く頷き


「これより領地へと帰還する! 皆、直ちに騎乗し向かおう!!」


 と、声を張り上げて自分も馬に乗った。

 合わせて宗次郎達も騎乗し、ゆっくりと関所の門まで行進する。

 これも敵意が無い証明に当たる行為だと先程の遣り取りを聞いていたのかベアトリスが宗次郎に近付き、説明した。

 如何やらセロに負けじと自分も何か宗次郎に教えてあげたかったらしい。

 その姿に微笑ましい視線を送る三人と嫉妬混じりの睨みを送る短髪赤髪。

 平和で緩やかな時間が彼等に流れる。

 ベアトリス一行は道中何事も無くハルトバルズ領地へと帰還を果たした。




  ■




 ハルトバルズ領。

 ソマリア王国君主制度の中で五つに別けられる階級位の最上級栄誉称号を受勲し血統により、世襲した最有力貴族クリフ家当主ギルベルト・クリフ公爵が君主から与えられた領地。

 ネメアー谷の悪魔獅子を討伐した英雄が治める此の領地はソマリア国民に人気があり、また広大で豊かな土地を有している事から多くの領民を抱えている  

 簡略な説明だが宗次郎はセロとベアトリスからハルトバルズ領について聞き及んでいた。

 多聞に聞き知ったがどれも自国を褒め称えるものばかりで、その話が少しも嘘も誇張無い話だとは思ってもいなかった。

 他人の言葉とは多少なりとも余分な事実と異なるものが入ってしまうのが普通なのだから。

 関所を潜り、移動速度を速めて進んで行くとちらほら町の明かりが見え始めている。

 和服では馬を走らせていては少しばかり肌寒いかったが、心地良い風が黒髪を撫でて通り過ぎ、沈み切らず微かに残る赤い日の光が幻想的に風景を美しく色艶やかに飾られていた。

 その光景を理想郷の様な場所だと宗次郎は連想した。

 日ノ本で数多の風景をその瞳に収めてきた宗次郎が心の中で絶賛したのだ。

 ベアトリス達が自国を誇るのも無理は無いと思えた。

 美しい土地には人がよく集まる。

 宗次郎はこの短い期間にソマリア王国に対して愛着を抱き始めていた。美しい場所に惹き付けられるのは宗次郎ですら例外ではない。

 日が完全に沈む間に宗次郎はその美しく照らされた情景を心に深き刻み込んだ。

 五頭の軍用馬が大地を駆け抜けていった。




  ■




 ハルトバルズ公爵家に着いたのはそれから程なくして。

 宗次郎の目の前には白城が鎮座していた。

 日ノ本の天守など小さく見えてしまう程の高い城で各所に見事な装飾が施された。

 これには今日一番の驚きが宗次郎を襲う。

 つい失礼だと思いながらもベアトリスの方を城と交互に見てしまった。

 その反応が面白く、くすりと微笑む一行。

 次々に襲い来る驚きに持前の強心臓も段々と疲れを見せてきた様で、普段全く見せない姿を晒してしまっている事に宗次郎は無表情のまま自身を恥じてきた。

 無言まま馬を手綱を引いて自分達に着いて来る宗次郎の姿にくるものがあり、一行は笑いを噛み殺しながら門を潜り、橋を渡って城内へと入って行く。

 其処には簡易的な甲冑を纏った兵士が並列していた。

 列から数人が寄って来て各人の軍用馬の手綱を受け取り、何処かに去っていった。

 多分、馬小屋へと連れて行かれたのだろう。

 そして、いよいよ城の内部へと歩を進める。

 中は宗次郎が想像していたよりも簡素な造りになっており、落ち着きなく絶えず周囲を見回す姿をセロが見て簡単に解説してくれた。

 レンドゴルド城と呼ばれている、この居城は先祖代々使用しているので昔懐かしい造りとなっている。

 一昔前までのソマリア王国の城とは軍事的意味合いの強い砦として造られており、飾りが切り捨てえられた戦闘向きになっていた。

 壁は厚く造られ、当時は窓は一切無かった様だ。

 近代となり多少の改装が施され、外観だけは見栄え良くなったのだが、現在の当主であるギルベルト公爵が無駄を嫌う為に内装は手付かずになっているらしい。


「そのような事情を私などに話してよかったのですか?」

「いい。いい。お主は此方側の人間になるのだからな。何れ分かる事よ」


 あっけらかんとセロは語ったのだった。

 玄関正面の奥にある部屋に進んで行く。

 二人の使用人らしき年老いた女性が佇んでいた。

 ベアトリスが彼女達の横まで来ると腰を曲げて礼をする。


「お嬢様。旦那様がお待ちになっております。お入り下さい」

「分かった。お前達は下がっていいぞ」


 その言葉を聞き、彼女達は後方に移動して行った。

 ベアトリスが扉を四回優しく叩く。


「ハルトバルズ公。ソマリア王国騎士団ベアトリスです」

『入室を許可する』


 扉越しにしゃがれた男の声が帰ってくる。

 許可を得たので部屋の中へとベアトリスに三騎士とセロが続いて進入する。

 部屋の奥側に配置された木製机の向こう側に初老の男が椅子に座っていた。

 白髪混じりの頭髪に緑の瞳。整えられた口髭が特徴で貴族として洗練された印象を受ける。

 男の前にベアトリス以外の騎士達が跪き、頭を垂れた。

 それを確認して男が口を開く。


「まずは長期間の任務ご苦労だった。私への仔細な報告は陛下の後でいいので今日の所はこの城で疲れを癒してくれ。客人も居る様だからな。謁見の許可が取れたので明後日には王都へと向かって貰いたい」

「はっ! 了解しました。騎士の誇りにかけて任務を遂行します」


 先程までベアトリスに対して厳しい眼差しを送っていた男の瞳が急に優しくなり


「さぁ、これより階級を忘れて家族に戻ろう。楽にしていいよ。私の可愛いべス」

「はい、お父様」


 騎士達は立ち上がり、多少張り詰めていた緊張を解く。

 何時の間にかその場には二人の親子と気心の知れた友人達の集まりの様な雰囲気が流れたいた。

 その輪に弾かれている宗次郎は最後尾で一人静かに瞠目した。

 恐らく、今日一番の驚きを感じていたのかもしれない。


(これが此の国の英雄…なのか……?)


 英雄とは常人には持ち得ない凄みと言うものが必ず何所かにある。

 良く知る英雄、かつて自分の父親であった作次郎もそういった不思議な魅力が備わっていた。

 宗次郎の瞳に映るのは英雄など超越した存在などではなく、何処にでも居る様な歳を経た普通の騎士の一人にしか見えなかった。

 その姿は宗次郎が知る英雄とは掛け離れたもので宗次郎が成りたいと心の其処で願う存在ではない。

 団欒の外で一人、宗次郎は静かに動揺し、心を掻き乱された。

気が付いたら夜の九時過ぎ。慌てて二千字の文字群を書き上げて今に至る。致命的過ぎる遅筆。

それ以上に城が如何とか、馬が如何とか調べ物多すぎ。

ファンタジーには少しのリアリティーが必要なんだと思います。そういった要素を組み上げていくのは実にしんどい。あぁ、しんどい。

次回はまたしても戦闘無し。

次々回で連戦に入ると思います。

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