第十三話:断たれた糸の上の脱出(ザ・クランブリング・アサイラム)
#第13話: 崩落する軍艦島。エドの足が砕け、血の海が広がる。
端島の土台すべてが激しく震えた。コンクリートが砕ける音は、海底で大砲が連射されているかのように響く。六十五号棟の壁の隙間からは、古の黒い糸が飛び出し、動くものすべてを絡め取ろうとしていた。
「アカリ、走れ! 振り返るな!」エドが叫んだ。天井が崩落する轟音に負じまいと、その声は枯れていた。
エドはアカリを守るように抱き寄せ、傾き始めた廊下を駆け抜けた。化け物の黒い糸が迫るたび、エドは鋭い銀色に輝く自らの神経の糸でそれを切り裂いた。しかし、古の糸を断つたびに、エドは黒い血を吐き出した。始祖に抗った代償として、彼自身の神経が逆流バックラッシュを起こしていたのだ。
【災厄の中の誓い】
埃と瓦礫が降り注ぐ中、エドは一瞬足を止めた。彼はアカリをまだ頑丈な壁の陰へと促し、強い決意を込めて彼女を見つめた。
「もし君を無傷で連れ出せないのなら、僕の全力を尽くしてでも君の道を作ってみせる、アカリ」エドが囁いた。彼の目は極限の緊張で赤く染まっている。「君は大切な存在だ。こんな場所で終わらせはしない」
アカリはボロボロになったエドのシャツを強く掴んだ。「いいえ! あなたがいない世界なんて考えられないわ、エド! 行く時は一緒、生き延びるのも一緒よ!」
【迫る危機と執念】
二人は外階段へと走った。突如、巨大なコンクリートの柱が崩落し、エドの足元を直撃した。鈍い衝撃音が響き、エドは激痛に顔を歪めた。
「エド!」アカリが悲鳴を上げた。
「止まるな!」エドは呻いた。顔面は蒼白だが、その瞳にはまだ鋭い光が宿っていた。彼は震える手で指先から神経の糸を繰り出し、傷ついた箇所を応急的に固定し始めた。再び立ち上がるために、精神力で体を繋ぎ止めたのだ。ただアカリを救い出すことだけを考えながら。
その光景は壮絶だった。銀の糸が意志を持って動き、傷を塞いでいく。
「さあ、行こう……まだ諦めるには早すぎる」
エドは痛みを堪えながら、よろめきつつも力強く告げた。
夜明けが近づく頃、二人は桟橋に辿り着いた。しかし、海面はもはや青くはなかった。海は黒く濁り、「大いなる織り手」の何百万もの糸が島全体を覆い始め、遠目には端島が巨大な繭まゆに変わっていくように見えた。
そこには、先ほどの侵入者たちが残した古いモーターボートが繋がれたまま、異常な高波に激しく揺れていた。
「乗れ、アカリ! 早く!」
アカリがボートに飛び乗った瞬間、桟橋の下の闇から数千の神経糸で編まれた触手が伸び、エドを絡め取った。そして彼を崩落する建物の闇へと引き戻そうとする。
「エド!!!」
アカリは叫び、手を伸ばした。しかし、二人の距離は、繋がれた糸の限界である十メートルに達しようとしていた。
距離が臨界点に達した瞬間、二人の絆を象徴する糸の張力がアカリを襲った。彼女の顔からは血の気が引き、運命を繋ぐ不可視の力に圧迫され、息が詰まる。
エドは悟った。このまま自分が引き摺り込まれれば、アカリを危険にさらしてしまう。彼は残された全力を振り絞り、一時的な障壁を作り出した。古の化け物の力を食い止め、アカリがボートのエンジンを始動させる時間を稼ぐために。
「エンジンをかけろ、アカリ! 今すぐだ!」
エドは叫んだ。闇へと引きずり込む力に抗い、彼の全身の筋が浮き上がった。




