第十二話:地殻ちかくの底からの残響ざんきょう(ザ・プリモーディアル・アンウィーヴィング)
#第12話: 太古の覚醒。島そのものが、捕食者のように呼吸を始めた。
校舎の床に積もったコンクリートの粉が、リズムを刻むように震え始めた。地震ではない。階下の「何か」が呼吸をしているのだ。その振動はアカリの脊髄に直接響き、彼女はエドの腕の中へ崩れ落ちた。
「エド……何かが目覚めたわ……お腹を空かせている」アカリが囁いた。彼女の瞳孔は激しく震え、人ならざる紫紅色の光を放っていた。
エドは警戒を強めながらも、執着に満ちた手つきでアカリの頬を撫でた。「さっき流れた君の血だよ、アカリ……。水島家の純潔と、僕の一族の闇が混ざり合い、『鍵』となったんだ。君は呼び覚ましてしまった。すべての運命の糸の始祖――『大いなる織り手』を」
【ホラー&ゴア描写】
突如、廊下中央のコンクリート床が激しく割れた。その亀裂から噴き出したのはマグマではなく、濡れた人間の髪の毛に似た何万もの黒い糸だった。糸は電光石火の速さで這い回り、アカリが仕留めた侵入者たちの死体を包み込んでいく。
数秒後、アカリとエドは吐き気を催す光景を目にした。死体たちが「織り直されて」いたのだ。骨は砕かれ、再構築され、おぞましい形へと変貌していく――それは坑道の深淵から這い出し始めた巨大な存在の「足」として機能する、肉の彫像だった。
「奴は約束を取り立てに来たんだ、アカリ」エドの声が昂ぶる。恐怖と、崇拝に近い狂気が入り混じっていた。
混乱の中、エドはアカリの肩を掴み、迫りくる暗闇を凝視した。静まり返った廊下に、広がり続けるコンクリートの破砕音だけが響く。
「もし運命がここで終わる定めなら、一人で立ち向かわせはしない」エドは冷徹ながらも強い決意を込めて呻いた。彼は残された糸の力を振り絞り、自分たちの周囲に結界を張った。二人の存在を固く繋ぎ止め、その化け物に立ち向かうために。「見てごらん、アカリ……これこそが真の終焉、あるいは僕たちの新たな始まりだ」
正気の瀬戸際に立つアカリは、目の前の巨大な影を、虚ろながらも恐ろしいほどの感嘆を込めて見つめた。足元の振動は、自分自身の脈動と溶け合う巨人の鼓動のように感じられた。
「永遠が……あの中に……」部屋の光がその影に飲み込まれていく中、アカリは微かに囁いた。
その存在――神経の糸とコンクリートの破片が巨大な顔のない蜘蛛を形成した異形の塊――が、高くそそり立った。死を呼ぶ冷気が部屋を包み込み、崩れかけた壁からは、かつての端島の叫び声がこだました。
エドはウォークマンのスイッチを入れた。絶対的な恐怖の中、荒い呼吸音と古の怪物の咆哮ほうこうが、静かにテープへと刻まれていった。




