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過労死コンサルの悪知恵転生~土下座女神にスキル没収され実家追放。非正規の四大精霊とヤバい仲間達を導きホワイトに成り上がる~  作者: 月神世一


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EP 9

【道中】極貧アイドルの異常なサバイバルと、ヤンデレ村長の重い蹴り

 ロックバイソンを討伐した俺たちは、その日の夕暮れ、街道から少し外れた森の開けた場所で野営キャンプの準備を始めていた。

「うおおおっ! すっげぇいい匂い! トーマ、お前料理もできるのかよ!」

「前世……いや、昔、独り暮らしが長かったからな。自炊スキルはコスト削減の基本だ」

 俺は防刃ジャージの袖を捲り上げ、携帯用の魔導コンロで手際よく肉を焼いていた。

 食材は、昼間に討伐したロックバイソンの分厚い赤身肉。それを、道中でリーザが摘んできた『醤油草』の搾り汁と、これまた自生していた『ハニーかぼちゃ』のペーストを合わせた特製ソースで煮詰めていく。

 ガーリックの香ばしい匂いと、肉の焼ける暴力的な香りが、静かな森に立ち込めていた。

「ほら、ユート。お前の分だ。明日の行軍に備えてタンパク質を補給しておけ」

「やったぁぁ! いただきまーす!! ……うんめぇぇぇッ!! なんだこれ、肉が口の中でとろけるぞ!?」

 馬鹿勇者のユートが、尻尾を振る犬のようにガツガツと肉を貪り食う。

 一方、たき火を挟んだ向こう側では、異様な光景が広がっていた。

「……クチャ、クチャ……うぅ、今日のパンの耳は少し乾燥していますわね。でも、この茹で卵の殻を一緒に食べれば、カルシウムも摂取できて完璧な完全栄養食ですの……!」

 極貧地下アイドルのリーザが、芋ジャージの膝を抱えながら、ボロボロのパンの耳と殻付きの茹で卵を涙目で咀嚼していた。

 俺の作ったバイソン肉のステーキから漂う匂いに、彼女の腹の虫は先ほどからオーケストラのように鳴り響いている。だが、彼女は肉の皿に手を伸ばそうとしない。

「リーザ。お前の分もあるぞ。冷めないうちに食え」

「い、いりませんわ! アイドルたるもの、ファン以外の殿方から安易な施し(プレゼント)は受けないのが鉄則ですの! 私はこの雑草サラダとパンの耳で十分生きていけますわぁぁ!」

 強欲なくせに、変なところで無駄なプライド(やせ我慢)を発揮している。

 これだからマネジメントの行き届いていないタレントは面倒くさい。

 俺は深くため息をつき、コンサルタント特有の『詭弁』を使うことにした。

「勘違いするな、リーザ。これは施しじゃない。『ロケケータリング』だ」

「……ろけ、べん?」

「そうだ。お前は俺たちのパーティー(番組)に出演している専属タレントだ。タレントのパフォーマンスを維持するための食費は、パーティーの必要経費オーバーヘッドとして計上される。つまり、これはお前の労働に対する正当な対価ギャラの一部だ」

 俺は肉の乗った皿を、スッとリーザの前に差し出した。

「資本主義において、正当な対価を受け取らないことは『市場の破壊』を意味する。お前、経済を回さない気か?」

「そ、それは……! 経済が回らないと、私へのスパチャも減ってしまいますわ……!」

「そうだ。だから食え」

「……っ! Love & Money!! いただきますわぁぁぁッ!!」

 見事な言いロジックを手に入れたリーザは、一瞬でプライドをドブに捨て、パンの耳を放り投げてバイソン肉に食らいついた。

 涙を流しながら肉を頬張る姿は、完全に飢えた小動物である。

「トーマって、本当に人の扱いが上手いわよね。変な説得力があるっていうか」

 クスクスと笑いながら、村長のキャルルが俺の隣に腰を下ろした。

 彼女は上品に肉を切り分けながら、もう片方の手で分厚い本を読んでいる。

「何を読んでいるんだ?」

「これ? 最近、ルナミス帝国で大流行してる恋愛小説よ。『聖獣機神ガオガオンの社内恋愛事情は辛いよ。』っていうんだけど……作者のルチアナ先生のドロドロした心理描写がたまらなくて」

 ――ブッ。

 俺は飲んでいた陽薬草茶を吹き出しそうになった。

(あのクソ駄女神……! 世界神の仕事もせずに、天界の聖獣たちをモデルにした泥沼の同人小説を執筆して小銭を稼いでやがるのか!?)

 クレカ破産の理由は、絶対にその計画性のなさと現実逃避のせいだ。後で絶対に問い詰めてやる。

「ねえ、トーマ」

 本を閉じたキャルルが、揺れるたき火の光の中で、じっと俺を見つめてきた。

「あなたは、どうして私たちを助けてくれるの? ユートの借金も、リーザちゃんのアイドル活動も、あなたには関係ないはずなのに」

 その瞳には、昼間見せたような「おっとりした村長」の顔ではなく、他者の嘘を絶対に見抜く月兎族の鋭い光が宿っていた。

 俺は嘘をつかず、極めて現実的ドライに答えることにした。

「助けているつもりはない。俺はただ、自分の『平穏な生活』を守るために、お前たちというアセット(資産)が必要だっただけだ」

「アセット?」

「ああ。俺は前世で……いや、昔、理不尽にこき使われて倒れた経験がある。だからもう、自分一人で全てを背負って戦うようなマネは絶対にしないと決めているんだ。お前たちは手はかかるが、能力は極上だ。俺がお前たちの利益(目的)を叶えてやる代わりに、お前たちは俺の盾となり剣となれ。……ただのビジネス(契約)さ」

 俺の冷徹な、しかし裏表のない合理的な言葉を聞いて、キャルルはふわりと微笑んだ。

「……そっか。うん、あなたの心音、全然ブレてない。すごく冷たい言葉なのに、不思議と安心するわ」

 キャルルは自身の持つダブルトンファーを軽く撫でた。

 そして、ふと、その瞳からスッとハイライト(光)が消え失せた。

「私もね、ポポロ村という自分の居場所を守るためなら、何だってするわ。村の平和を脅かす害虫は、敵だろうが味方だろうが、私の安全靴で全員『お星様』にしてあげる。……トーマ。あなたが私から離れず、村を助けてくれるなら、私はずっとあなたの剣になってあげるわ♡」

 ゾクッ、と。

 背筋に冷たいものが走った。

 こいつ、仲間意識と執着心が異常に強い『ヤンデレ』だ。敵に回せば最悪だが、身内クライアントとしてマネジメント下にあるうちは、これほど頼もしい防衛力もない。

「……ああ、頼りにしているよ。さあ、明日に備えて寝ろ。最初の見張りは俺がやる」

 深夜。

 たき火の火も小さくなり、ユートもリーザもキャルルも、寝袋の中で深い眠りについていた。

『……おい、ボス』

(分かっている。ネズミが数匹、紛れ込んできたな)

 脳内で警告を発するシルフの言葉に、俺は闇夜の森へ視線を向けた。

 足音を殺して近づいてくる、五つの気配。手には粗末な刃物を持ち、身なりは薄汚い。十中八九、街道を根城にする野盗の類だろう。

 彼らの狙いは、無防備に眠っている少女たち――特に、荷物を抱え込むようにして寝ているリーザだった。

「(ヒヒッ……あのアホそうな小娘のポーチ、硬貨の擦れる音がしやがった。銀貨でも入ってりゃ大儲けだぜ)」

 野盗の一人が、舌舐めずりをしながらリーザの枕元に忍び寄る。

 俺は世界樹の杖を手に取り、魔法のトリガーを引こうとした。

『ボス! やらせてくだせェ! 深夜の割増料金マナで、あいつら全員黒焦げにしてやりまさァ!』

(馬鹿野郎、待機しろ。深夜帯の残業代(魔力消費)はコストが高すぎる。それに……どうやら、俺の出番すらないらしいぞ)

 野盗の汚い手が、リーザのポーチ(中身はピカピカに磨いた五円玉が数枚)に触れた、その瞬間だった。

「……むにゃ。ファンのみんなの心と……お金は、全部私のものですの……」

 寝言と共に、リーザのユニークスキル【貧乏神】が、無意識下で発動した。

 ボフンッ!

 リーザの頭上に、巨大な『お賽銭箱の形をした概念掃除機』が幻影として浮かび上がったのだ。

「な、なんだこりゃ!?」

 驚く野盗。次の瞬間、お賽銭箱から凄まじい吸引力が発生した。

 ただし、吸い込んでいるのは空気ではない。

「ぎゃあああっ!? 俺の財布が!? 隠し持ってたヘソクリの金貨が!? それに、なんか身体の力まで抜けていくゥゥゥッ!?」

 野盗の所持金、運気、そして身体能力のステータスまでもが、強制的に『全没収』され、虚空の彼方(お賽銭箱の中)へと吸い込まれていく。

 リーザ自身の懐には一円も入らないという欠陥スキルだが、対象を完全弱体化させるデバフとしては凶悪すぎる。

「ひぃぃっ! 化け物だ! ずらかるぞ!」

 ステータスを吸い尽くされ、生まれたての小鹿のようにガクガクと震える野盗たちが、パニックを起こして逃げ出そうとした。

 ――しかし。

 逃げようとした野盗の足が、たき火のそばで眠っていたキャルルの『人参の抱き枕』を、うっかり蹴り飛ばしてしまった。

 ピタリ、と。

 森の空気が、絶対零度に凍りついたような錯覚。

「…………私の大切な睡眠時間と、可愛いお友達を、傷つけたのは誰?」

 寝袋から音もなく立ち上がったキャルル。

 その瞳からは、完全にハイライトが消え失せていた。

 タローマン製の特注安全靴が、月明かりを反射して鈍く光る。

「ヒッ……!? ご、ごめッ――」

「月影流――流星脚メテオ・ストライク

 ダァァァァァァンッッッ!!!

 クラウチングスタートからの、マッハの踏み込み。

 空中で一回転したキャルルの飛び蹴りが、野盗のリーダーの顎にクリーンヒットした。

 約33,750ジュールという、小型ミサイルに匹敵する物理エネルギー。野盗の身体は文字通り『お星様』となり、夜空の彼方へと美しい放物線を描いて消え去っていった。

「あ……あわわわわわ……ッ!!」

「……まだ、いるのね?♡」

 残された四人の野盗に、ヤンデレ村長の乱れ回し蹴り(乱れ鐘打ち)が炸裂する。

 森の中に、野盗たちの断末魔と、骨の砕けるリズミカルな音が木霊した。

 その間、勇者ユートは「むにゃ……魔王、待てぇ……」と、幸せそうに爆睡し続けていた。

「…………」

 俺は、無言で陽薬草茶をすすった。

(魔法を使う手間も、精霊に払う深夜残業代も浮いた。……本当に、なんてコストパフォーマンスの良い(ヤバい)パーティーだ)

 理不尽な世界を生き抜くための、最狂の手駒たち。

 彼らを完璧にマネジメントしきった時、俺はアナスタシア世界で最強の『裏ボス』になれると確信した。

 いざ行かん、最強の要塞農村『ポポロ村』へ。

 コンサルタントの胃痛と躍進の旅は、まだ始まったばかりだ。

読んでいただきありがとうございます。

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