EP 10
【到着】最強の要塞農村ポポロ村と、コンサルの完璧な防衛(迎撃)スキーム
ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国の三大勢力の国境が交わる緩衝地帯。
そこに、俺たちの目的地である『ポポロ村』は存在した。
「わぁーっ! 見てくださいましトーマ様! 畑に美味しそうなお野菜がいっぱいですの!」
村の入り口をくぐるなり、芋ジャージ姿のリーザが歓声を上げて駆け出した。
確かに、視界に広がるのはのどかな田園風景だ。丸々と太った『月見大根』や、黄金色に輝く『サンライス(米麦草)』が風に揺れている。
「隊長が昨日、キャバクラでぼったくられてましたよぉ! だから私を食べないで!」
「たまんねーなオイ! ゲヘヘヘッ!」
……まあ、収穫されそうになるとゴシップを暴露して命乞いをする『ネタキャベツ』や、ルナミス新聞社のエロ本を読みながら下品に笑う『たまんネギ』など、生態系が色々とバグっている作物も多いが。
だが、この豊かな土壌と「聖なる泉」の恩恵は本物だ。
「すっげぇ……! 空気も美味いし、なんか温泉の匂いもするぞ! いい村じゃねぇか!」
借金持ちの馬鹿勇者・ユートも、タローマン製の鉄鎧を鳴らしながら目を輝かせている。
「ふふっ、いらっしゃい。ここが私の大切にしているポポロ村よ。みんな、歓迎するわ」
うさぎ耳の村長・キャルルが、誇らしげに微笑んだ。
だが、俺の目はごまかせない。
(……おいおい。のどかな農村だぁ? 冗談キツいぜ。ここは完全に『最前線の軍事要塞』じゃないか)
俺は漆黒の防刃ジャージのポケットに手を突っ込んだまま、【分析】スキルで村全体を密かにスキャニングしていた。
農家のおっちゃんが乗っている軽トラの荷台には、迷彩布で隠された『魔導誘導バズーカ』。
カラス除けの案山子の目には、侵入者を感知して音速で突撃する『魔導長距離自爆ドローン』。
ビニールハウスの中には、どう見ても農機具ではない『魔導戦車』と『魔導対空砲』が偽装格納されている。
さらに極めつけは、村の地下。ドンガン地下帝国のドワーフ技術によって作られた、核シェルター級の巨大防空壕が村の全域に張り巡らされていた。
(三国緩衝地帯という絶妙な立地を利用して、各国から密輸と最新技術を吸い上げているのか。この村の自警団、下手な正規軍より圧倒的に火力が高いぞ。軍事予算の掛け方が異常だ)
コンサルタントとしての俺の胃袋が、村の過剰なアセット(防衛資産)を前に軽くキリキリと痛み始めた。
「よう、あんたらか。キャルルの嬢ちゃんがギルドから連れてきた『地域応援隊』ってのは」
村の広場に差し掛かった時、ひときわ異彩を放つ人物(?)が声をかけてきた。
植物の蔓と木材で構成された人型に、鋭い眼光。口には高級なポポロシガーをくわえ、右手には鋼鉄すら両断するという伝説のネギ『ネギカリバー』を肩に担いでいる。
突然変異体の植物人であり、この村の教師でもある『ネギオ』だ。
「おい若造。嬢ちゃんの後ろに隠れてるってこたぁ、テメェが指揮官か? 俺は馬鹿が嫌いでね。俺の論破ゲームをクリアできなきゃ、この村の防衛システムはいじらせねぇぜ」
ネギオが、ポポロシガーの煙をふかしながら俺を挑発してきた。
ユートが「ろ、ろんぱ?」と首を傾げ、リーザが「参加費(五円)はいただきますの!」と謎の要求をしている。
俺は静かに前へ出た。
「いいだろう。お前の言う『村の防衛』だが、現状の配置は非効率的だ」
「ああん?」
「西側の魔導地雷の敷設ピッチが広すぎる。あれでは群れ(スウォーム)で押し込まれた際、面制圧ができずに突破されるリスクが五%上昇する。さらに、対空砲のカバー領域にビニールハウスの死角が被っている。ドワーフ製の魔導レーダーと連動させて、自動迎撃の射角を十度修正しろ。防衛とは『気合』ではなく『確率の排除』だ」
「…………」
俺の淀みない、極めてロジカルな防衛網の脆弱性の指摘に、ネギオはくわえていたポポロシガーをポロリと落とした。
「……テ、テメェ、何者だ? ただのジャージの兄ちゃんじゃねぇな。ルナミス帝国の経済講座一級とドンガン鍛冶師通信講座一級を持つ俺の布陣を、一瞬で見抜きやがった……!」
「ただのコンサルタントだ。お前が賢い教師なら、俺の言うことの合理性が理解できるはずだ」
「……ッ、ハハハッ! 傑作だ! 気に入ったぜ、お前ら! ほらよ、俺のネギカリバーのお裾分けだ! 鍋に入れると最高に美味いぜ!」
ネギオは自身のネギカリバーをブチッと千切り(無限に生えてくるらしい)、俺に渡してきた。どうやら、論破ゲームには合格したようだ。
「……トーマ様って、本当に口から生まれてきたようなお方ですわね」
「俺には何言ってるか全然わかんなかったぞ……。でもネギ美味そう!」
リーザとユートが呆れたような、感心したような声を上げる。
だが、のどかな(?)村の歓迎ムードは、突如として鳴り響いたけたたましい『警報音』によって切り裂かれた。
『ウゥゥゥゥゥゥッ――――!!』
村の広場に設置された魔導スピーカーが、赤色のランプを点滅させながらサイレンを鳴らす。
同時に、ネギオが腰に下げていた魔導通信石から、切羽詰まった自警団の声が響いた。
『緊急事態! 北西の森から、大規模な魔獣の群れ(スタンピード)が接近中! 数は……およそ三百!! オーク、ゴブリンに加え、凶悪な『キマイラ』の個体が複数確認されました!』
「三百だと!? チッ、ドンガン帝国の地下レーダーでもギリギリまで探知できねぇとは、誰かが裏で統率してやがるな!」
ネギオが舌打ちし、ポポロシガーを足でもみ消す。
三百の魔獣。通常の冒険者パーティーなら、聞いた瞬間に逃げ出すか遺書を書く絶望的な数字だ。
馬鹿勇者のユートが、顔を青ざめさせながらも、ガチャリと鉄の剣を抜いた。
「さ、三百……! でも、村の人たちを守らなきゃ! 俺が一番に突っ込んで、少しでも敵を減らす!」
「待て、ユート」
俺は世界樹の杖で、ユートの胸の鎧を軽く叩いて制止した。
「勇気と無謀は違うと言ったはずだ。三百の群れに一人で突っ込めば、十分持たずに圧死する。俺たちは『地域応援隊』だ。英雄気取りのワンマンアーミーは禁止だ」
「で、でも! このままだと畑も家もメチャクチャに……ッ!」
「…………そうね」
ユートの言葉を遮るように、低く、冷たい声が響いた。
振り返ると、そこには村長のキャルルが立っていた。
彼女の愛らしいウサギ耳はピンと張り詰め、その瞳からは完全に光が消え失せ、真っ黒な闇が渦巻いている。
「私の……私たちが大切に育てたポポロ村の畑を、踏み荒らそうとする悪い子たちが、三百匹もいるのね?」
「ひぃっ!? そ、村長! 目がヤバいですの!」
リーザが怯えて俺の背後に隠れる。
キャルルは特注の安全靴で地面をトンッ、と叩き、腰のダブルトンファーをクルリと回した。
「トーマ。あなた、私たちを上手く使ってくれるって約束したわよね。……村を傷つける奴ら、全員『お星様』にしたいの。手伝ってくれるわよね?♡」
極大の殺意とヤンデレ特有の重い執着を向けられ、俺は思わず苦笑した。
こういう『手のかかるクライアント』の要望に、百二十%の成果で応えるのが超一流のコンサルタントだ。
「……もちろんだ、キャルル。村の畑一本、家の屋根一枚たりとも傷つけさせない。俺が完璧な防衛(迎撃)スキームを構築してやる」
俺は振り返り、ネギオと自警団の面々、そして俺のヤバい仲間たち(債務者ども)を見渡した。
「いいか、これよりポポロ村全域を『キルゾーン(殲滅地帯)』に設定する。ネギオ、魔導対空砲と戦車の起動権限を俺に寄越せ。俺の魔法と連動させて火器管制を一元化する。自警団は前線に出るな、地下シェルターの防壁ラインで残敵掃討のバックアップに回れ」
淀みない指示。
俺の脳内ではすでに、三百の魔獣を一匹残らず消し炭にするための、冷酷な計算式が組み上がっていた。
「ユート。お前は俺の指示通りに動き、一番硬い敵のヘイト(狙い)を集める盾になれ。リーザ、お前の歌は戦局を左右する。一番安全な後方から、喉から血が出るまで『Love & Money』を叫び続けろ」
「は、はいですわっ! スパチャの回収はお任せを!」
「キャルル。お前の機動力で、群れの側面をかき回せ。陣形を崩し、敵を一箇所に『集める』んだ。……できるな?」
「ええ。任せて、トーマ♡」
『おいボス! 俺たちの出番だろうな!? まさかまた待機なんて言わねぇだろうな!?』
『残業代は弾んでいただきますわよ!』
脳内で騒ぎ立てる非正規雇用の四大精霊たちにも、俺は冷徹な命令を下した。
(安心しろ、イフリート、ウンディーネ、ノーム、シルフ。今日はお前ら全員をフル稼働(ブラック労働)させてやる。俺の魔力の底が尽きるまで、暴れ回れ)
『『『『ヒャッハー!! ブラック最高ゥゥゥッ!!』』』』
……本当に神の眷属かこいつら。
まあいい。
「――作戦開始だ。理不尽な魔獣どもに、現代コンサルの悪知恵と圧倒的な火力の違いを教えてやる」
漆黒の防刃ジャージを風に翻し、俺は世界樹の杖を高く掲げた。
理不尽には屈しない。実力と段取りでねじ伏せる。
最強の要塞農村を舞台にした、俺たち『地域応援隊』の防衛戦が、今幕を開けた。
読んでいただきありがとうございます。
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