EP 11
【迎撃準備】ワンマンアーミーは禁止。アセット(資産)を最大化しろ
ドドドドドドッ……!!
北西の森から、地鳴りのような足音がポポロ村に迫っていた。
オーク、ゴブリン、そして複数の魔獣が混ざり合った異形のキマイラたち。その数、およそ三百。土煙を上げながら、豊かな農地と村人を蹂躙すべく、無秩序な群れ(スタンピード)となって押し寄せてくる。
「ヒィィッ! き、来ましたわ! あんな数、まともにぶつかったら一瞬でペチャンコですの!」
「だ、大丈夫だリーザ! 俺が盾になる! 絶対にみんなを守るから!」
震えるリーザを庇うように、馬鹿勇者のユートがタローマン製の鉄盾を構えて前に出る。
だが、その配置を俺は容赦なく修正した。
「ユート、お前の立ち位置はそこじゃない。もっと右、魔導戦車の偽装ハウスの影だ。リーザ、お前は村の給水塔(監視塔)に登れ。そこが一番安全な特等席だ」
「えっ、でも俺が一番前に出ないと……!」
「俺の指示に従えと言ったはずだ。勇気と自己犠牲は美徳だが、無駄死にはただの『損失』だ」
俺はユートの肩を掴み、指定のポジションへと強引に押し込んだ。
そして、村の教師である植物人のネギオから受け取った『マスターキー(魔導制御石)』を、右手にある世界樹の杖の先端にはめ込む。
「ネギオ。村人の地下シェルターへの避難は完了したな?」
「ああ。ドンガン製の極厚扉はもう閉めた。あとは俺たちが負けねぇ限り、村人に指一本触れさせることはねぇ」
「上等だ。これより、ポポロ村の過剰防衛設備を、俺の魔力とリンク(システム統合)させる」
俺は目を閉じ、体内の魔力回路を全開にした。
母さんのドーピングによって培われた底知れぬ魔力が、世界樹の杖を経由し、ポポロ村の地下に張り巡らされた魔導ケーブルへと一気に流れ込んでいく。
「な、なんだぁ……!? この魔力……!」
横にいたネギオが、ポポロシガーを口から落としそうになるほど目を見開いた。
それもそのはずだ。村全域の防衛兵器を一人で同時制御するなど、通常なら数十人の熟練魔導士が必要な芸当である。だが、前世で複数の巨大プロジェクトを同時進行で回していたコンサルの脳処理能力と、俺の魔力量をもってすれば、決して不可能ではない。
『ヒャッハー! ボスのおごりだァ! 魔力食い放題だぜ!』
『残業代の先払いですわね! キッチリ働かせていただきますわ!』
脳内で、非正規雇用の四大精霊たち(イフリート、ウンディーネ、シルフ、ノーム)が狂喜乱舞している。彼らには、防衛設備の制御の「補助」を担わせている。
「よし。火器管制、俺の指揮下に移行完了」
俺が目を開けた瞬間、村のあちこちに偽装されていた魔導対空砲がギミック音を立てて砲身を現し、魔導地雷の起爆スイッチが俺の思考と直結した。
「作戦第一段階。……リーザ! ライブの開幕だ、歌え!」
「はいですわーッ!!」
給水塔の上に立った極貧アイドル・リーザが、どこからともなく取り出したマイク(タローマン製・九百八十円)を握りしめ、ポポロ村中に響き渡る声で歌い始めた。
『ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ 貴方の全て(人生)を背負って生きていける~!』
『だから……もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?』
『Love & Money!!』
――ピカァァァァッ!!
強欲に満ちた、しかし絶対的な『人魚姫の魔法』を秘めた歌声。
それが黄金色のオーラとなって村全体を包み込んだ。
ユートの身体には尋常ではない闘気が宿り、キャルルの足元の安全靴からは紫電が走り、俺が制御している魔導兵器群の出力すらも、限界を超えて一・五倍に跳ね上がった。
「す、すげぇ! 力が……無限に湧いてくる気がする!」
「ええ。身体が羽根のように軽いわ♡」
バフ(支援効果)の付与は完了した。
俺は村の入り口、迫りくる魔獣の群れを冷徹に見据えた。
「作戦第二段階。……地形操作による、完全なる『キルゾーン』の形成だ。ノーム、シルフ!」
『任せなせェ!』
『風よ吹けー!』
土の精霊ノームと風の精霊シルフが動く。
魔獣の群れの先頭が村の境界線に足を踏み入れようとした瞬間、シルフが強烈な向かい風を発生させて群れの歩調を鈍らせた。
同時に、ノームが村の入り口付近の地面を隆起させ、魔獣たちが進めるルートを『V字型』の狭い一本道へと強制的に絞り込んだのだ。
(マーケティングの基本、『ファネル(漏斗)』構造の構築だ。無秩序な群れも、通り道を絞ればただの『的』になる)
「グオォォォッ!?」
「ブギィィッ!」
両脇を土の壁で塞がれ、狭い道に押し込められた魔獣たちは、互いにぶつかり合いながら前へ進むしかない。
そして、その『V字の底』――最も魔獣が密集するポイントこそが、俺が再配置した魔導地雷の密集地帯だった。
「そこだ。……起爆」
俺が指を鳴らした瞬間。
ズドゴォォォォォォォォンッッッ!!!
連鎖的な大爆発が巻き起こり、先頭集団のオークやゴブリン数十匹が、土煙と共に文字通り消し飛んだ。
「キ、ギィィィッ!」
突然の爆発にパニックを起こした魔獣たちが、土の壁を乗り越えて村の側面へ迂回しようとする。
だが、そこにはすでに『ヤンデレ村長』が待ち構えていた。
「あら。村の畑を踏み荒らす悪い子は、お星様になりなさい?♡」
バチバチと紫電を纏ったキャルルが、マッハの速度で戦場を駆け抜ける。
彼女は自身で敵を倒し切るのではなく、迂回しようとする魔獣の側面に音速の回し蹴りを叩き込み、再び『中央の地雷原』へと強制的に蹴り飛ばしていく。
「月影流――鐘打ち、鐘打ち、鐘打ちぃっ!!」
「ブギモォォォッ!?」
キャルルの恐るべき機動力による撹乱。
これで、魔獣どもは完全に『中央突破』しか選択肢がなくなった。
(よし。群れのコントロールは完璧だ。だが……やはり、地雷だけでは仕留めきれない『規格外』がいるな)
爆煙の中から、咆哮と共に巨大な影が三つ飛び出してきた。
獅子の頭、山羊の胴体、毒蛇の尻尾。魔獣の群れのボス格である『キマイラ』三体だ。
地雷の爆発を強靭な肉体と魔力障壁で耐え抜いたキマイラたちは、怒り狂って村の防衛ライン(中央)へと猛烈な速度で突進してくる。
その直線上。
俺が指定したポジションには、ただ一人、盾を構えた馬鹿勇者が立っていた。
「ユート! 来たぞ、仕事の時間だ!」
「応ッ!! ここは一歩も通さねぇッ!!」
ユートが、キマイラのプレッシャーに一歩も引かず、己の闘気を極限まで高める。
リーザのバフと、【ブレイブ】の『打算なき勇気』が合わさり、安い鉄の鎧が黄金色のオーラに包まれていた。
「グアァァァァッ!!」
先頭のキマイラが、鋭い爪を振り下ろす。
まともに受ければ、鉄盾ごとユートの身体が両断される。
だが、俺がそれを許すはずがない。
後方に陣取る俺は、世界樹の杖をキマイラへと向けた。
「イフリート。火力は三割だ。奴の『目』と『鼻』だけを焼け」
『ケッ! 人使いの荒い悪徳コンサルめ! ほらよッ!』
――『フレイムバレット』。
音速で放たれた数発の炎弾が、キマイラの振り下ろす爪よりも一瞬早く、その獅子の顔面で炸裂した。
「ギャウッ!?」
視界を奪われ、強烈な閃光と熱で怯んだキマイラ。
その攻撃の軌道は大きく逸れ、威力は半減以下に落ちていた。
ガガァァァァンッ!!
威力の落ちた爪の一撃を、ユートは鉄の盾で見事に受け止めた。
激しい火花が散り、ユートの足が地面を数メートル削るが、彼は絶対に膝を突かなかった。
「うおおおおッ! 俺は、俺は勇者だァァッ!」
見事なヘイト(敵視)の固定である。
ユートが壁として三体のキマイラを完全に押し留めたことで、俺の構築した『迎撃スキーム』は完成した。
「……素晴らしい。各人の強み(アセット)が、完璧に噛み合っている」
俺は戦場を俯瞰しながら、冷酷な笑みを浮かべた。
一人で無双などしない。俺はマネージャーだ。味方の長所を最大化し、敵の動きを計算通りに誘導し、最小のコストで最大の利益(殲滅)をもたらす。
「さあ、前菜(雑魚)の処理は終わりだ。ここから一気に、本命のボス(キマイラ)どもを黒字決済(全滅)に追い込むぞ」
世界樹の杖の先端に、ウンディーネの冷気とイフリートの熱源が、同時に恐ろしい密度で圧縮され始めていた。
防刃ジャージの錬金術師による、冷徹無比な殲滅戦が、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。
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