EP 12
【開戦】理不尽には屈しない。炎と風のシナジー(相乗効果)で退路を断て
三体のキマイラによる同時攻撃。
それは、並のベテラン冒険者パーティーであれば一瞬で陣形を崩され、全滅の憂き目に遭うほどの破壊力を持っていた。
獅子の牙が唸りを上げ、山羊の角が突き出され、毒蛇の尻尾が死角から襲い掛かる。
「うおおおおッ!! ここは、絶対に一歩も通さねぇぇぇッ!!」
だが、馬鹿勇者ユートは、たった一万円のタローマン製鉄盾と、己の身体ひとつで、その暴虐のすべてを受け止めていた。
通常ならあり得ない。いくら【ブレイブ】のスキルがあるとはいえ、物理的な装甲の限界を超えている。
彼が倒れない理由は、後方で展開されている『完璧なマネジメント』にあった。
『五円! 五円! 御縁! 御縁! ハイッ!!』
『絶対無敵のスパチャアイドル! 五円が積もれば山となる~ッ!!』
給水塔の上から響き渡る、リーザ(芋ジャージ)の強欲な歌声。
人魚姫の魔法が乗った『Love & Money』の極大バフが、ユートの筋力と耐久力を常人の数十倍に引き上げている。
それだけではない。
俺は後方から戦場を俯瞰し、キマイラたちの攻撃の『予備動作』を【分析】スキルで完全に読み切っていた。
「ユート、右下段から蛇の尻尾が来る。盾を下げろ!」
「応ッ!」
ガキンッ! と甲高い音を立てて、毒牙が鉄盾に弾かれる。
「次は左の獅子が噛み付いてくる。避けずに『前へ』出ろ! 半歩踏み込んで、奴の鼻面に剣の柄を叩きつけろ!」
「うぉりゃあッ!」
ユートが指示通りに前進し、獅子の顔面に強烈な打撃を叩き込む。キマイラが怯み、攻撃のテンポが完全に崩れた。
(よし。フロントライン(前衛)の耐久テストはクリアだ。ユートの『打算なき勇気』とリーザの『バフ』、そして俺の『戦術指示』。この三つが連動している限り、あのキマイラどもはユートを突破できない)
これこそが、俺の求めるチームワーク(組織力)だ。
前世のファンタジー小説にありがちな『主人公が一人で突っ込んで無双する』戦い方は、俺に言わせれば最悪のビジネスモデルである。
もし主人公がたった一度のミスで怪我をすれば、パーティー全体が即座に壊滅する。つまり『単一障害点』なのだ。
リスクを分散し、各人のアセット(強み)を最大化して適材適所で運用する。それこそが、超一流のコンサルタントが導き出す『絶対に負けない(倒産しない)スキーム』である。
「ネギオ! キマイラのヘイト(敵視)は完全にユートに固定された! 残りの雑魚どもを面制圧で一掃するぞ。魔導対空砲の仰角を水平に下げろ!」
「へへッ! 無茶苦茶なオーダーしやがるぜ、この若造は! だが……最高に合理的だ!」
村の防衛システムを俺の魔力とリンクさせているネギオが、ニヤリと笑ってポポロシガーを噛み締めた。
空を飛ぶワイバーンなどを撃ち落とすための『魔導対空砲』。それを水平に向け、密集している地上部隊に水平射撃するという悪魔の戦術。
「ポポロ村の過剰防衛設備、とくと味わいな! 一斉掃射ァッ!!」
ズドドドドドドォォォォンッッッ!!!
偽装ビニールハウスから放たれた極太の魔力光線が、魔獣の群れの中央を薙ぎ払った。
地雷原を抜けて村に侵入しようとしていたゴブリンやオークたちが、悲鳴を上げる間もなく光に飲み込まれ、次々と塵(消し炭)に変わっていく。
「ギ、ギィィィッ!?」
「ブモォォォォッ!!」
圧倒的な火力の前に、ついに魔獣の群れがパニックを起こし始めた。
統率が崩れ、後ろにいる魔獣たちが踵を返し、来た道(北西の森)へと逃げ出そうとする。
「ああっ! トーマ様! 魔獣どもが逃げていきますわ!」
給水塔の上からリーザが叫ぶ。
「チッ、数が多すぎる。いくら俺たちでも、森に散らばられちゃ追いつけねぇぞ!」
ネギオが悔しそうに舌打ちをした。
普通なら、ここで「村を守れたから良しとしよう」と撤退を許すところだろう。
だが、経営コンサルタントである俺の辞書に『敵の逃亡を許す』という甘い言葉はない。
「逃がすか。中途半端に逃がした不良債権(魔獣)は、いずれ必ず形を変えて村を脅かすリスク(負債)になる。ここで一匹残らず『清算』するぞ」
俺は世界樹の杖を高く掲げ、冷酷な目で森の入り口を見据えた。
『おいおいボスゥ! 逃げる奴らの背中を撃つのか!? えげつねぇな!』
『でも、あの散らばった数を一つ一つ魔法で撃ち抜くのは、さすがにコスト(魔力)の無駄ですわよ?』
脳内でイフリートとウンディーネが指摘する。
確かに、逃げる三百の群れを単体魔法で処理するのは非効率の極みだ。
(だから、シナジー(相乗効果)を起こすんだよ。シルフ、イフリート。お前たちの力を掛け合わせるぞ。群れの最後尾、森と街道の境界線に『壁』を作る)
『おおっ!? 合体魔法か!』
『風と炎! 面白そうじゃん!』
俺は体内の魔力回路を全開にし、風と炎の精霊に膨大な魔力を注ぎ込んだ。
(この一撃で戦況を決定づける。……お前ら、この仕事が完璧に決まったら、今月の給料(魔力)に『深夜残業代』と『特別インセンティブ』を上乗せしてやる!)
『『マジかァァァッ!! やったぜボーナスゥゥゥッ!!』』
現金な(魔力にがめつい)非正規労働者たちのモチベーションが、限界を突破した。
俺は世界樹の杖を、逃げ惑う魔獣たちの先、森の入り口へと振り下ろした。
「――理不尽な暴力には、圧倒的な実力(火力)で報いてやる」
まずは風の精霊シルフの力。
森の入り口に、局地的な巨大竜巻が発生する。強烈な吸引力が、逃げようとする魔獣たちを一箇所に吸い寄せていく。
「な、なんだ!? 風が……!」
ネギオが目を丸くする。
「次だ。イフリート、その風の渦に極大の『種火』を放り込め!」
『オラァァァッ!! 燃え尽きろォォォッ!!』
荒れ狂う竜巻の中心に、イフリートの放った超高熱の炎が叩き込まれる。
瞬間。
酸素を巻き込みながら急激に膨張した炎は、竜巻と完全に融合し、天を焦がすほどの巨大な『火災旋風』へと変貌した。
「複合魔法――『バーニング・トルネード(火炎竜巻)』!!」
ゴォォォォォォォォォォッッッ!!!
凄まじい轟音と共に、森の入り口に巨大な炎の壁(竜巻)がそびえ立った。
逃げ道(退路)を完全に断たれ、炎の渦に吸い込まれたオークやゴブリンたちが、次々と灰に変わっていく。
あまりの熱量と迫力に、戦場全体が一瞬、水を打ったように静まり返った。
「す、すげぇ……なんだよ、あの魔法……」
ユートが鉄盾の陰から、あんぐりと口を開けている。
「うふふっ。トーマ、最高よ♡ やっぱり私の見込んだ通り、アナスタシアで一番頼りになる男ね」
前線で遊撃していたキャルルが、うっとりとした(少しヤバい)目を向けてくる。
「皆様! あの大火炎竜巻を作ったのは、うちのリーダーですの! 拍手! そしてスパチャを! 五円! 御縁! ハイッ!!」
給水塔の上のリーザは、なぜか観客(誰もいない)に向かって煽りを入れていた。
これで、三百いた群れの雑兵は完全に全滅(清算)した。
残るは、逃げ道を失い、村の広場の中央に取り残された三体のキマイラだけである。
「グルルルルル……ッ!!」
手下をすべて失い、退路も炎に塞がれたキマイラたち。
窮地に陥った野生の勘か、彼らは俺たちの『迎撃スキーム』の核――ユートという盾を突破しなければ生き残れないことを悟ったらしい。
三体のキマイラの身体が、不気味な赤黒い魔力で覆われ始める。追い詰められたボスの、捨て身の最終形態(フェーズ移行)だ。
「……来たな。ここからが本当の勝負だ」
俺は世界樹の杖を構え直し、静かに息を吐いた。
「ユート! 奴ら、死に物狂いで来るぞ! 絶対に気を抜くな!」
「おうっ! 任せとけ、トーマ! ……俺の【ブレイブ】の力、全部出し切ってやる!」
盾を構え直す馬鹿勇者の背中は、出会った時よりもずっと頼もしく見えた。
(さて。炎と風は使った。次は氷と土の出番だ。……手のかかる部下たちだが、最高の成果を出してやるさ)
防刃ジャージを翻し、元・外資系コンサルの俺は、キマイラたちの『絶対防御』を剥がすための次なる一手を脳内で展開し始めた。
読んでいただきありがとうございます。
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