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過労死コンサルの悪知恵転生~土下座女神にスキル没収され実家追放。非正規の四大精霊とヤバい仲間達を導きホワイトに成り上がる~  作者: 月神世一


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EP 4

五歳の追放宣告。貴族は剣術が全てらしい(※ただし母の準備は完璧とする)

 三歳のスキル検査で「無能」の烙印を押されてから、さらに二年の月日が流れた。

 五歳になった俺の日常は、前世の外資系コンサル時代とは違った意味で『激務』に追われていた。

『ボスゥ! 魔力供給の賃上げ要求ッス! 今の配給量じゃ、俺の炎が種火になっちまう!』

『そうですわマスター。せめて深夜帯の待機手当マナボーナスをつけていただかないと、労働基準法違反ですわよ?』

 脳内に直接響く、ガラの悪いチンピラのようなイフリートと、やたらプライドの高いお嬢様のようなウンディーネ

 俺はため息をつきながら、ベビーベッドからアップグレードされた自室の机で、手元の紙にペンを走らせた。

(……お前ら、契約書をよく読め。お前たちの現在の雇用形態は『非正規のパートタイム』だ。実働(戦闘や防衛)が発生していない現状で、基本給(基礎魔力)以上のボーナスを出せるわけがないだろう。文句があるなら親会社ルチアナに言え)

『ぐぬぬ……相変わらず隙のないロジック……!』

『ブラックですわ! この五歳児、中身は血も涙もない悪徳経営者ですわ!』

 ルチアナから押し付けられた『四大精霊』たちとの労使交渉(春闘)である。

 強力な精霊とはいえ、使役するには莫大な魔力コストがかかる。俺は母さんのドーピングと独自の循環法で底知れぬ魔力量を誇っていたが、それを垂れ流せば親父ゴートンたちに怪しまれる。

 だからこそ、精霊たちには「餓死しないギリギリのライン」で魔力を供給し、徹底的なコストカットとヘイト管理を行っていた。

「トーマ。また一人で難しい顔をして。計算、疲れたでしょう?」

 コンコン、と控えめなノックと共に部屋に入ってきたのは、母・マリアだった。

 手には温かい陽薬草茶と、少しばかりの焼き菓子が乗ったトレイがある。

「ううん、平気だよ、母さん」

 俺は笑顔を作りながら、机の上に広げていた書類を裏返した。

 五歳児が嗜むにはいささか黒すぎる代物――ルシファン伯爵家の『裏帳簿』の写しである。

 この二年、俺は【算術】と【分析】のスキルをフル活用し、母さんの『監査業務』を手伝っていた。

 元・ゴルド商会の幹部候補だった母さんは、当主である親父の隙を突き、領地の財務状況や、第一夫人エレノアの実家への不自然な資金流入の証拠をコツコツと集めていたのだ。俺はそれを前世の知識とスキルで精査し、完璧な「不正の証拠」としてファイリングする作業を請け負っていた。

「……それにしても、酷い財務状況だね。親父の奴、領民からの税を勝手に着服して、第一夫人の実家への借金返済に回してる。そのせいで領地のインフラ整備はゼロ。完全なタコ足配当(自転車操業)だよ」

「ええ。おまけに、私への日常的な暴言パワハラの記録や、使用人たちに命じて私への嫌がらせを主導したエレノア夫人の証言もしっかり裏が取れたわ。ゴルド商会のツテを使って、帝国の法務局にも根回しは済んでいるの」

 母さんはニコリと、とても美しい、しかし絶対零度の微笑みを浮かべた。

 有能な人間を怒らせるとどうなるか。その最も恐ろしい見本がここにあった。

「今日はいよいよ、五歳の『魔力検査』ね。トーマ、準備はいい?」

「完璧だよ。いつでも、この泥船(ブラック企業)からエグジット(独立)できる」

 俺と母さんは、静かに拳をコツンと合わせた。

 すべては今日のこの日のため。理不尽な実家を合法的に破壊し、最高のホワイト生活を手に入れるための総決算が始まる。

 ルシファン家の広間は、二年前の『スキル検査』の時と全く同じ構図だった。

 上座でふんぞり返るゴートン。扇子で口元を隠し、下劣な笑みを浮かべるエレノア。そして、俺をゴミを見るような目で見下ろすヴィンセントとジュリアンのバカ兄弟。

「五歳になったな、トーマ。今日がお前たち母子にとっての最後の温情だ」

 ゴートンが重々しい、しかし中身のすっからかんな声で告げた。

「我がルシファン家は代々、強大な『闘気』と『魔力』を以て帝国に仕えてきた武門の家柄。三歳のスキル検査で無能を晒したとはいえ、五歳の魔力検査で及第点を出せば、最前線の兵士として使い潰してやる道もあった。さあ、水晶に手を触れろ」

 まるで死地に赴くのが名誉であるかのような言い草だ。

 俺は内心で冷笑しながら、教会の神官が差し出した『魔力測定の水晶』の前に立った。

(……おい、ウンディーネ、ノーム)

『はいはい、分かってますわよ、悪徳社長』

『お安い御用でさァ、ボス』

 水晶に手を触れる瞬間、俺は体内の魔力回路に細工をした。

 俺の指先から放たれる膨大な魔力を、水と土の精霊である二体に『バッファ(緩衝材)』として全て吸収させる。外側に漏れ出る魔力を、極限までゼロに近づける隠蔽工作だ。

 ペタッ。

 水晶に手を置く。

 本来なら部屋中を吹き飛ばすほどの閃光が走るはずの水晶は、まるで電池の切れかけた豆電球のように、チカッ……チカッ……と数回瞬いた後、完全に沈黙した。

「…………」

 神官が目を丸くし、水晶と俺の顔を何度も見比べる。

 そして、信じられないものを見るような目で、震える声を絞り出した。

「ま、魔力……測定不能(未知数)……! いや、これは……ほとんどゼロに等しい……! 生活魔法の火起こしすら不可能なレベルの、完全なる『魔力不全』です……ッ!」

 その報告が響いた瞬間。

 ゴートンの顔が、怒りでどす黒く染まり上がった。

「ッッッこの、出来損ないがァァァァッ!!」

 バンッ!! と肘掛けを殴りつけ、ゴートンが立ち上がる。

「スキル無しのうえに、魔力すらゼロだと!? 貴族として、いや、人間としての最低限の価値すらないではないか! 剣も振れず、魔法も使えぬ穀潰しなど、我がルシファン家の恥だ!!」

「あらあら、まあまあ」

 エレノアがわざとらしく同情するような声を上げる。

「旦那様、血は争えませんわね。卑しい商人の腹から産まれたのですから、闘気も魔力も宿らぬのは自明の理。これ以上、我が家の格式を下げる前に、早急な『処分』が必要ですわ」

「その通りだ!」

 ゴートンは血走った目で、俺と、俺を庇うように前に出た母・マリアを指さした。

「マリア! 貴様ら母子を、今この瞬間をもってルシファン家から永久追放する! 身分も、財産も、何一つ持っていくことは許さん! 今着ている服だけで、この屋敷から立ち去れ! 路地裏で野垂れ死のうが、魔獣の餌になろうが知ったことか!!」

 ――出た。追放宣告。

 この瞬間を、俺たち親子はどれほど待ちわびていたことか。

 兄のヴィンセントたちが「とっとと失せろ、ゴミども!」と罵声を浴びせる中、俺は母さんのドレスの裾を軽く引いた。

 母さんは振り返り、俺と目を合わせる。

(……母さん、準備してた『アレ』、いけるよね?)

(ええ、トーマ。完璧よ。私に任せなさい)

 目と目だけで交わされた、ビジネスパートナーとしての最終確認。

 母さんは静かに立ち上がると、先ほどまでの「怯える第二夫人」の仮面を綺麗に脱ぎ捨てた。

 その背筋はピンと伸び、纏う空気は氷のように冷たく、そして鋭い。

「……追放、確かに承りました。ゴートン様」

 凛とした声が、喧騒に包まれていた広間を一瞬で制圧する。

 ゴートンもエレノアも、そのただならぬ雰囲気に気圧され、一瞬言葉を失った。

「な、なんだその態度は……! 命乞いの一つも――」

「命乞い? 冗談はおやめください。沈みゆく泥船から、合法的に降りる口実を頂けたのです。感謝こそすれ、すがる理由など一ミリもございません」

 母さんは空間収納ポーチ(ゴルド商会の特注品)から、ドサリと、分厚い書類の束を取り出し、ゴートンの足元に放り投げた。

「な、なんだこれは……」

「退職届……いえ、『離縁状』と、財産分与および慰謝料の請求書。ならびに、あなたがこの数年間で行ってきた、帝国の復興支援金の横領記録と、エレノア様の実家が絡む『違法魔石の密輸ルート』の裏帳簿(完全なコピー)ですわ」

 ――ドクン、と。

 ゴートンとエレノアの心臓が跳ね上がる音が、俺の耳にも聞こえた気がした。

「な……ッ!? き、貴様、どこでこれを……ッ!?」

「商人を舐めないで頂きたいわね。この五年、私がただ泣き寝入りして、大人しく虐められていたとでも? トーマの完璧な計算と分析により、あなた方の不正は一同粒の単位まで全て紐付けられています。……ああ、ちなみに原本はすでに、ゴルド商会のオロチ会長経由で、帝国の『特捜部』の手に渡っておりますが」

「――ッ!!!」

 ゴートンの顔面から、一気に血の気が引いた。

 帝国軍の特捜部。それに目をつけられれば、伯爵家のお取り潰しどころか、国家反逆罪で一族郎党処刑される可能性すらある。

「さあ、ゴートン様、エレノア様」

 母・マリアは、極上の微笑みを浮かべながら、一歩前に出た。

「路地裏で野垂れ死ぬのがどちらか……最後の『精算クロージング』と参りましょうか」

 五歳の追放宣告。

 それは、俺たち母子にとっての悲劇などではなく、ブラック企業に対する『地獄のM&A(敵対的買収)』の開始の合図に過ぎなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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