side01 家族
煙によって視界がふさがれている中、咆哮をあげるのは愚策だ。
己の立ち位置を相手に教えているようなもの。
お互いに見える立ち位置にいるのなら、タイミングを読まれること以外大した問題もない。まあそれもそれで致命的ではあるが。
視界が奪われた状態でのそれは、悪手だ。
俺はもう一度装甲を剥がし、剣を生成する。
そして間髪入れずに声の下後方に向けて投擲した。
しかし、空を切りながら煙を分けていった先に剣が刺さることはなかった。
―――しまった。もう一人の能力はBoard。立ち位置の入れ替えは簡単にできるんだった。
馬鹿だな。そんなことを簡単に失念するようじゃ―――
その瞬間、俺の背中に衝撃が走る。
ミサイルリアクトからの攻撃を受けたのだ。
奴は前方から一度たりとも足を動かしていなかったというわけだ。
正確には、ボードリアクトの力で後方に回り、咆哮してから前方に戻ってきた。
前方で咆哮してから後方に移動するほうが簡単にも見えるが、容易故に読みやすいのもある。
ある程度理にかなっている。
無様だ。
さすがにその可能性を失念する。相手が二人であることのふりを忘れているようじゃ、勝てる戦いも勝てなくなる。それも相手は戦うことに慣れているような奴らだ。幾度もチャンスを与えれば、必ず勝ちを取りに来る。
そんな時、俺の視界にある人物の姿が入った。
―――荻原だ。
彼女はこちらを見ながら震えていた。
まるで藁にも縋るような―――そんな様子。
「なに背向けてんだ!」
「そうか……」
俺は勢いよく振り向き、その途中で足を振り上げながら回し蹴りを放った。
相手の側頭部を、見事にとらえた結果、相手はなにもできずに側方に吹き飛ぶ。
―――お前も親で苦労した口か
『お願い……助けて』
彼女はそう言った。
なにをどうすればいいかは知らないが、なんとなく答えが見えた。
おそらく生死は問わないだろう。
まあ、どの道、殺すことにはなるだろうが。いや、確定事項か
こいつらは荻原の両親―――その手から助けてほしいということだ。
ついでにやってやるよ。
まずは二人を相手取ることのディスアドバンテージを潰す。でなければ、俺も不利な戦いで体力の消耗が激しくなる。
ならどうするか―――奴らの視界外からどちらか一方を殺す。
俺はそう考えて、走り出した。
その勢いのまま飛び上がり、回し蹴りよって膝をついていたミサイルリアクトの頬に向けて膝蹴りを叩き込もうとした。
「あなた!」
だが、そこに割り込まれた―――いや、入れ替えられた。
今の今までミサイルリアクトがいた場所に、付近にあった一台の車が現れた。
だが、俺のつけてしまった勢いは死なない。
そのまま動じずに車に攻撃を叩きこんだ。
すると、攻撃を受けたボディ部分がへこんだ車は衝撃を殺せないまま爆発した。
熱が俺を襲うものの、そんな程度で俺が止まることはない。
即座に奴らの気配を察知し、そちらに向かって装甲部分を投げつけた。
それは空中で鎌へと変貌し、回転しながらボードリアクトのほうへと飛んでいった。
「恵、あぶねえ!」
だが、攻撃が当たる瞬間ミサイルリアクトが体を地面に伏せさせて鎌を避けた。
「なんだ、後手に回ってきたじゃないか」
「うるせえ、俺たちはこれからだよ」
「随分と余裕だな。二人のくせにいまだに俺を殺せないことが一番証明の気がするが?」
「あなた、お喋りね。とても戦いに向いているとは思えないわ」
「そんなことを言うなら、お前たちは頭足らずだな。今まで剣や槍、基本的に場に適した武器を使い続けた俺が、なぜ鎌を選択したと思う?投げるだけなら、先のように槍で良かったはずなのに」
「あ……?なに言ってんだよ。意味なんて―――」
「あるさ。俺を誰だと思っていやがる」
グサァッ!
「んぐふぅっ!?」
「あなたっ!?」
「01番―――お前たちの力の始祖だぞ」
会話の途中、空中で鎌がUターンして、そのままミサイルリアクトの腹を貫いた。
先ほどの鎌に細工をしておいた。
空気の流れなどを考慮して、ブーメランの要領で戻ってくるように構造を少し工夫しておいた。
そして、奴の腹部にはデバイスがある。それを貫いた。
DeadEndだ。
「次はお前だ。ボードリアクト」
「お前、よくも敦彦さんを!」
「敦彦に、恵―――とりあえず、お前たちの名前はわかった。まあ、覚えておくつもりもないが」
「死んだら痛いのよ……わかってるの!」
「そこか?まあいい。お前もすぐに旦那のいる場所に送ってやるよ」
少々発言に違和感を感じるが、こいつだけならそこまでてこずることもない。
能力自体は非常に厄介だが、こいつ自身の身体能力は問題にもならない。
俺のほうがそれは圧倒的に上だからな。
落ちていた槍を拾い上げ、すぐさまボードリアクトに向かって走り出す。
間合いに入れた瞬間にそれを突き刺したのだが、入れ替えによって避けられる。
だが、それをわかっていないほどの馬鹿ではない。
入れ替えを認知した瞬間、体を反転させて槍を投擲する。
まっすぐ移動後のリアクトに吸い込まれていくが、それも避けられる。だが、行動のパターンは見えている。裏を取るのも難しいことじゃない。
そう思っていたが、考えが甘かった。
幾度かの攻撃を仕掛けて俺も違和感を覚えた。
攻撃が当たらない。
かすったとか当たったかもしれないとかいう疑惑の、といったものもない。
相手は入れ替えを即時繰り返し続けている。これでは予測云々ではない。
距離を考えれば、俺が五手先を読んでそこに投げても、勘づかれる。一手先でも攻撃としては遅い。
だが、ここまでやられればわかる。
奴は意図的に、時間を稼いでいる。
目的はわからないが、なにか時限的なものがあるかもしれない。
そう思っていると、俺の背部に衝撃が走った。
熱を帯びている。
―――まさか……
「ああ……痛かったなあ、痛かったなああ!」
そんな叫び声が聞こえてきて、一瞬で数えるには少々難しいほどのミサイルが射出される。
「あなた、待っていましたよ!」
ボードリアクトがそう言うと、すべてのミサイルをあらゆる指定位置に移動させた。
移動したミサイルは俺を包囲するように撃ち込まれている。
これはまずいな……
「死ね!家族にたてつくものは誰であっても死んでもらう」
「そうよ―――私たち家族は愛し合っているの。菜月も大事な大事な家族なんだから」
家族か……
それを主張する奴にろくな奴はいないな……
そう思うと同時に、すべてのミサイルが同時に俺の全身を打ち抜いた。




