side01 体温の残滓
「……」
俺は無言で自宅に入る。
昔は中が留守であっても、そういった類の言葉は言っていた。しかし、もうそんな相手はずっといない。いなければ言う理由もない。
周りの景色が黒で塗りつぶされるほどの時刻―――そんな時間に帰った来た理由は単純だ。生徒会の仕事の処理をしていたらこんな時間になった。
経理以外の仕事に、物販の運搬があって、それに手間取られた。
教員が来るまで入れてきた荷物が一つ一つ大きくて、3個ほど一気に運ぼうとしたら教員に止められた。何度も大丈夫だと言ったのだが、視界が確保できているようには見えない。そう言われて1個ずつ運ぶしかなかった。
たかだか目がつぶれたくらいじゃ、行動なんて阻害されないけどな。
建物の構造は覚えているし、人は気配でわかる。
今回のように校舎の外側なら、荷物が置かれるイレギュラーも少ない。
視線なんざ確保しなくても目的地には到達できる。俺からすれば簡単なことだ。
だが、それを説明しても相手が納得することもなく、仕方なく俺は荷物を一つずつ移動させた。
そのおかげで、1時間もないうちに終わると思った作業だったが、3時間もかかった。いちいち運んでから中身も展開しなければならなかった。随分と時間がかかった。
まあ、最終下校時刻までに終わらせられたのは光明だったか。
「あ、おかえりー!」
「……はぁ」
またいる……
合い鍵も渡したが、こう毎日いられると困りものだ。
さすがに一度家に帰ってから来ていると主張はしていたが、そこではない。
「ため息しないでよ」
「毎日いるからだろ。できることなら、一人で居たいんだが」
「そうは言っても、いっつも一緒にいてくれるじゃん。そういうところ大好きだよ」
「はぁ……中学時代の面影はどこにあるんだ?」
「調べてるの?まあ、私も昔は暗かったからねえ」
「その打開を大幅に間違えたけどな」
「いいの。ハジメに出会えたから」
そんなことを言いながらエプロンをつけている美晴を放っておいて、俺は自室のパソコンの前に移動する。
また情報がないか調べてみるのだが、掲示板にて上のほうに気になるスレッドのタイトルを見つけた。
タイトルは『高天の高校にて新しい特撮の撮影が行われている』というもの。
調べてみるとこのスレッドはすでにいくつもできており、かなりの激論になっているようだった。
そこに入って、一番最初の投稿を見てみると、とある写真に文章が添えられたものがあった。
『なんか高校を爆破してるけど大丈夫なんか?』
という文章とともに張られた写真には、俺と月野の戦闘時の光景が捉えられていた。
幸か不幸か、写真も次の投稿にあった動画もなぜか明瞭とは言えない画質で、なかなか見にくいものである。だが、そのしばらく後の投稿には、『画像を明瞭化したけど、よくわかんないな』という文言とともに、多少加工されてぼやけが取れた動画添付されていた。
しかしそれを見ても、俺の変身した姿と月野のコアとしての姿はあまりはっきりしていなかった。それでも、動画内の音声にはけたましい爆発音が入っており、なにかのドラマの撮影かと討論されていた。
そこからはなんごともなし―――そのドラマがどんな展開をするのか、どんな設定なのか。そう言った話が白熱しているだけのものだった。
情報としては、当事者であるがゆえに大したものはない。
動画や画像が不鮮明で助かったともいえるだろう。
はっきりなど映っていたら、今頃そこそこの騒ぎになっていたはずだ。まあ、教職のもとにこの話は入っただろうが、すでに証拠もない。奴らとしても調べることはできないはずだ。
まあ過ぎ去ったことに対してとやかく言うのはいただけないか。
「何見てるの?」
「いや、なんでもない。大事かと思ったが、大したことなかった」
「……?」
俺に話しかけてきた美晴は、いつの間にかエプロンを外しており、代わりにお盆を持っていた。
その上には、彼女が作った料理があり、湯気を立てている。
「どう?うどんを作ってみたんだけど」
「まあ、もらうよ」
「んー、でも最近ハジメって外で何か食べてきてない?」
「いや、会長の店でコーヒーとアイスだけもらってる」
「コーヒーとアイス?ていうか、なんで会長の店に頻繁に出入りしてるの?それ以外とかないの?」
なぜか美晴が質問をしてくるが、これに俺が答える意味はないはずだ。
色々と面倒なので、適当に流しておくと彼女も俺が答えるつもりがないことを理解するが、それでも譲らないとばかりに一つだけ質問してくる。
「せめてなんで会長のところに行ってるのかだけ教えてよ。ただでさえ生徒会の仕事の手伝いをするって言っただけでも不安なのに……」
「いやお前、俺のなんだよ。そこまで気にする理由がわからないんだが?」
「でも、私だって、ハジメと一緒にいたいし……」
そう言って彼女は俯く。
しおらしい態度を見せてくるから、俺は気づけば口を開いていた。
「別に仕事の手伝いの見返りにアイスとコーヒーをサービスしてくれるらしいから通っているだけだ」
「アイスとコーヒーなんか、私でも用意できるのに……」
「だが、会長がいいと言ったんだ」
「そうだけど―――でも……」
「なにを疑っているのかは知らないが、なにもない。今期の―――いや、体育祭が終われば俺が関わることもないさ」
「う、うん……そうだよね」
と、俺の言葉で納得したよう様子を見せるものの―――やはりその表情は物憂げだった。
「とりあえず食べないか?食べないのであれば、俺はさっさとサプリを飲んで終わるんだが」
「そ、そうだね。とりあえず、座って―――」
彼女に促されて席に座り、目の前に皿が置かれた。
その瞬間、俺は彼女に唇を奪われる。
時間にしても1秒にも満たない接触―――突然のことで俺はどうすることもできなかった。
「は……?」
「やっぱり、私はこういう大胆なことができるくらいしかアドバンテージ無いから……攻め攻めでいかないと」
「なんの意味が?」
「いいの、私の話だから。あんまり気にしなくてもいいよ。私は私なりの好きを見せていくだけだから」
そう言うと彼女は俺の体面に座る。
粘膜接触―――いや、キスとちゃんと呼ぼう。
それをされるのは何度目だろうか。
こうも何度もされると、俺の中に彼女の体温が残ってしまう。




