side02 足りなさゆえの失敗
残りの種目は個人で記録することになる。
あとは二限目の体育にて、外で行う。50m走とハンドボール投げ。それが最後の二つの種目。
個人個人でやるうえに、人数がかさむために時間もかかる。
まあ簡単に言うのなら終われば後は自由時間だ。
しかし、順番は出席番号順―――花音のように、『紀里谷』という名字で順番が前半に食い込むことはない。なんせ、僕の苗字は『零陵』。
出席番号順に並べれば、渡辺たちと肩を並べて随分と後ろにいることになる。
つまり、正確な自由時間は僕に与えられていない。
しかし、利点もある。
そこまでの50mの記録が見れる。これは大きい。
他人の記録を見たうえで、僕は記録に臨むことができる。
僕がの求めるのは、選抜リレーのメンバーとなりできるだけの出場種目を削ること。かなり都合がいい。
僕の見立てなら、6秒前半をギリギリ記録できるくらいがこのクラスの最速値だと考えている。
なら僕は6秒後半を出す。後の細かい調整は他を見てやればいい。
とにかく、選抜に選ばれるには上位4位以内に入ることがマスト。万が一にも備えて、3位以内入ることを目指したい。
まあ、ぶっちぎることは可能だが、さすがに世界記録を塗り替えるわけにはいかない。
サバトに影響が出ることはないが、あまり目立ちすぎると彼に小言を言われてしまう。
「紀里谷花音です。お願いしまーす!」
そうこうしていると、花音の順番が回ってくる。
一応体育教師のほうから、名前とお願いの言葉を言えと指示されているので彼女は元気よく声を出した。
位置についてよーいの掛け声からスタート合図器を使用して音が鳴らされた。
勢いよく地面をけった彼女は、普段のぽやぽやした雰囲気とは打って変わってそこそこの速度で走り抜けた。
すぐに彼女の後姿は小さくなり、体育教師の口から記録が言われる。
彼女と一緒に走った生徒は8秒7とまあまあの記録を出した中、花音は7秒6というクラス内では女子の中央値よりも上。かなり速いタイムを出した。
そう言えば姉が云々言っていたな。それの影響か?
そこからは興味のない人が50mを走り抜けていき、次々と記録を終えていく。と、そんな中で、クラスをどよめかせた記録が出る。
「仁藤浩紀、6.2秒!」
先ほどの地味な男子生徒がクラス最速―――しかも、全国の平均からもかなり逸脱した速さの記録を出した。
誰だあいつとなるくらい、彼の印象がクラス内で薄いが、今はものすごく注目されている。
これなら選抜リレーも勝てる。
そんな空気が流れ始め、あっという間に僕の番が回ってきた。
とりあえず指定されたことは行う。一応口調も合わせておくべきだろう。
「零蘭颯二です。お願いします」
50m先に聞こえるように、それだけを意識して声を出した。
現在、50mタイムを速い順に並べると―――
6.2秒、6.5秒、6.8秒、6.9秒と続いており、僕が設定するべきタイムは6.6秒当たりがいいだろう。
まじめにやっている生徒たちにも悪いが、そんなやる気のない僕が選択種目に出るよりよっぽど楽しめるだろう。
だから、選抜は僕が貰うよ。
全員と同じく、スターターとして立つ体育委員が合図を鳴らした。
その瞬間に、僕は駆けだして速度を確保する。目的の速度まで加速したところで、僕は寸分の違いもないままゴールする。
タイムは狙い通り6.6秒。
これでクラス内で3位の成績となった。
「早いね、颯二君―――って言いたいところだけど、加減した?」
「したね。やろうと思えばクラスで一番早いタイムもとれた。なんなら、5秒も切れた。でも、それえは普通じゃないだろう?」
「まあ、そうだよね。5秒は切ったらダメだよ。確か世界記録も切ってないんだから」
「だろう?だからタイムを抑えた。僕は選抜に出れさえすればいいからね」
「うーん、どうだろう……」
どこか不安げな様子を見せる花音だが、この時の僕にはその意味が分からなかった。
なんせ、絶対に選抜に選ばれる自身もあったし、他に事故の要素なんてないのだから。
まあ確かに、この後のハンドボール投げは多少の不安要素はあるが。
「ねえ、颯二君」
「なんだい?」
「ハンドボール投げはどのくらいを目指すの?」
「25mくらいでいいかな。平均もそのくらいらしいし」
「ふーん……」
「そう言えば、花音はずいぶん足が速かったね」
「私は、お姉ちゃんと一緒に遊ぶこと多かったから。あんまり長時間は付いていけなかったけど、短距離で走るだけならそこそこ速いんだ」
「そうか、花音のお姉さん―――会ってみたいものだね」
「いつか会えるよ。私は颯二君の言葉、信じてるから」
そんな言葉を受けながらハンドボール投げの計測場所に移動する。
50m走を行っていた場所との位置関係は、校庭のグラウンドの真ん中に線を入れたときにちょうど反対位置に来るような場所になっている。
すでに何人かが計測していて、「わー!」だとか「すげー」だといった声が上がっている。
そして、この日の一番の声量を浴びたのは、やはり先ほどと同じ人物だった。
記録は50mの仁藤浩紀だった。
計測が可能な距離を飛び越して、先生にメジャーを引かせるような状況になるほどの投球―――野球部でもない、あまり筋肉質でもなさそうな人物がそんな記録を出したことで、驚きの声が多い。
「仁藤君、結構運動できるんだね」
「おかしいな……」
「ん……?」
「彼の見た目から計測できる筋肉量から考えて、あそこまでの瞬発力が出せるのは、正直不審だね」
「でも、見た目だけじゃなわからないでしょ?ほら、細マッチョていう言葉もあるみたいだし。颯二君もその類だよ?」
「……そう言われて、気分は悪くないが―――それとこれでは話が違うようにも……」
「そんなこと言ってると、私たちの時間なくなっちゃうよ!」
そう言うと、彼女は僕の手を引く。
その時点で僕の思考は止まり、仁藤のことは頭から離れていた。だからというわけでもないが、僕たちは彼の正体に驚かされる。まあ、その話はもう少し後なのだが。
ハンドボール投げのほうは―――
「零蘭颯二、いきます」
大きく振りかぶっての投球―――それは盛大に失敗した。
見事な角度でボールは投げられ、その見事すぎる角度がアダになった。
完璧な軌道でボールが進み、まずいと思った頃には、すでに30m付近を突破していた。
なので、僕は慌てて創造の力を使って、ハンドボールを砲丸に変えてしまう。
ドスン!という、まるでありえない音を立てながら落ちた球にクラスから困惑の声が上がる。
「な、なんだ?」
「なんか砲丸みたいな音しなかったか?」
「お、おい、グラウンドがへこんでるぞ」
ちょっとした騒ぎになりかけたが、急転直下の軌道で修正を図った僕の記録は33m―――少し失敗だ。
ちなみに、僕は選抜リレーの選出から外れた。
前言撤回―――調整は大失敗だ。




