side01 あの時の憧れ
翌日、放課後の生徒会室に早く来たのは、一年である俺と三条だった。
三条は先に来ていて、仕事を少しずつ進めていたが、俺の質問にその手を止められてしまった。
「会長たちは?」
「よく知らないけど、誰かが髪を染めてて学年集会だって―――いつもの感じなら1時間くらい遅れる」
「そうか……特に仕事を言われてないから困るんだよなあ」
「掃除でもやっておけば?」
「それは俺に当てられている管轄ではない。自分でやったらどうだ?」
「はあ……!?」
俺の言葉に彼女は感情をあらわにする。今の今までスカしたような態度でいたが、少し煽ればそんなメッキはすぐにはがれる。
というか、本当に俺が掃除をやる理由がない。
俺に当てられたのは文字通り『生徒会の仕事』だ。
この教室の掃除は俺の仕事ではない。
「ここは生徒会室!この教室の清掃は私たち生徒会の仕事なの!」
「じゃあ、本当にお前でいいじゃないか。お前、俺より計算能力も何もかも劣ってるじゃないか」
「ムッカー!なにこいつ!すっごい腹立つんだけど!いい?この仕事は、今私が抱えてる案件―――これが成り立たないと、最終的な部費の振り分けがうまくいかないの!」
「昨日、俺がやったじゃないか」
「だーかーらーっ!あなたがやったのは、あくまで野球部とサッカー部の処理!ほかにいくつの部活があると思ってるの?しかも、この時期は、サークルの部昇格の申請もあって、書類に目を通さなきゃいけないの!」
言いながら彼女は書類をぺらぺらと見せびらかす。
この時間が無駄だろと言いたかったが、俺は我慢して―――
「あっ、なにすんのよ!」
―――その書類を奪って俺が目を通し始める。
書類を奪われたことで三条はピーピーと騒ぐが、俺はお構いなしにさっさと目を通していく。
まず部昇格の申請
これに関しては、条件を満たしているもの以外はすべて弾いた。一切の例外を認めない。それがものを円滑に動かすための鉄則だ。
次に予算の件―――これは過去の資料も手元にあったので、その割合をもとに、野球部やサッカー部の削減で浮いた部費を割合事に当てはめていく。
そうすると、どんな部活も何万かは部費が上がっている。
ものの20分ですべてを終わらせて、書類を机にたたきつけた。
「な、お前より圧倒的に早く終わっただろ?」
「きーっ!なんなのっ!なんなのこいつっ!」
「ヒスか?モテないって聞くぞ」
「うるさいうるさいうるさい!なんなの!本当になんなの?」
「質問がさっきから変わらないな。まあ、強いてなんなのかという質問に答えるならば、ただの怪物だ」
そう、怪物だ。
それ以上の言葉なんてない。
三条が騒ぎ散らかしているまま、いくらかの時間が経過して、今度は会長たちが室内に入ってくる。
「わっ、なんだこの状況は!?」
「―――三条さん、落ち着いて……」
学年集会とやらが終わったのか、会長と書記の荻原が部屋に入ってくる。
彼女たちの目に一番最初に入ったのは、癇癪を起こしている三条の姿。状況を理解するのに、時間がかかってしまっているようだった。
ほんの数秒ではあるが、理解に時間を要したところで会長としての言葉がようやく出てきた。
「三条、とりあえず落ち着くんだ。いったん深呼吸してからなにがあったのか話してくれ」
「すぅ……か、会長!こいつ、ほんとうになんなんですかっ!」
「落ち着いてって言ったじゃないか……」
全然落ち着かない三条をどうにかなだめて、会長はようやく話を聞くことができた。
どういう経緯で、こういった状況になったのかをだいたい理解した彼女は、すぐに口を開く。
「零陵、少し来てくれないか……」
「いや、仕事は……?」
「いいから―――三条と荻原は体育祭の話をまとめておいてくれ。私は少しこいつと話をしてくる」
そう言って、俺と彼女は前の空き教室へと立ち入る。
この前と特に状況は変わらず、埃だらけの無人の部屋にて話が始まった。
「零陵、私が言うのもあれだが三条は感情的になりやすいみたいだ。少し、気遣ってやれないか?」
「自分の感情をコントロールできないのは個人の問題だ。俺がわざわざ気遣う理由にはならん」
「そうは言ってもだな……みんなお前みたいに大人びていないんだ」
「大人……?違う。大人ってのは、誰が死のうと気にしない冷徹な奴らの集まりだ」
「どんな世界だ……まあいい。私から見ればお前はかなり達観してるし、基本的に冷静だ。お前の言い分もわかる。だけど、それをできない人もいるんだ」
「知ったこっちゃないな。俺以下の能力なのはいいとして、それでムキになって当たるのは俺の問題じゃない」
これではイタチごっこだな。
結論もなにも出ないまま終わる。俺が折れるという手段もあるわけだが、一時期以下の関係にしかならないのに、こちらが譲歩するのは本当に意味が分からない。
だが、俺の言葉に会長はムッとした様子を見せる。
「……今の言い方は、私でも思うところがあるぞ。お前がそういう奴だと思っていなければ、起こってしまいそうだった」
「あんたの中で俺はなんなんだ」
「口は悪いし、愛想も悪い。人間味もなければ、倫理観も欠如している」
いいところないな。まあ、目指してもないが
俺はそう考えるが、彼女は「だが―――」と言葉を紡ぐ。
「なんだかんだ助けに来てくれる。いつもいつも突き放して来るが、危なくなったら必ず来てくれる。お前とは、そんなに長くいたわけじゃないし、ちゃんとした接点を持ってるわけでもない。だから、これだけが全部とは思わない。だけどな―――
―――少なくとも私は、お前をいい奴だとは思っている」
彼女は少しばかり頬を染めながら言った。
まあ、助けに入ったが、いつもついでだ。彼女が現場の近くにいただけだ。
俺個人としては、あまり死んでほしくない存在ではあるが、それでも目的の二の次だ。
感謝されるいわれもない。
「あんたが思ってるほどの人間じゃない……」
「お前がそう思っていてもいい。月野に突き飛ばされたときに助けに来てくれた時、私にとって零陵はまぎれもないヒーローってやつだったよ」
曇りない眼―――彼女を表現するには、その一言だけで十分。
それだけ俺を信じ切った目をしている。
だからなのだろうか。ずーっと昔の記憶が呼び起こされる。
小さい頃、何度もヒーローに憧れていたあの時を




