side02 ただ走って真似して
体育祭が近い。
そんな話を聞いたのはほんの数分前だった。
誰から聞いたのかと言われれば、まあ当然花音からだ。
その時を少し振り返る―――
「颯二君は種目何に出るの?」
「なんの話だ?」
「話聞いてなかったの?体育祭の準備が近いって―――」
「ああ、なるようになるから、特に立候補するつもりはない」
「うーん、全体競技とか選抜じゃない限りは基本立候補だよ?それに、選抜リレーに出ないのなら、どれかいい子には出ないといけないし……」
「じゃあ、選抜でいいんじゃないかな?」
「ええ……いや、颯二君なら全然いけそうだけど、そんな適当な決め方でいいの?」
「問題ない。僕は渡された順位のまま走る。そうすればちょっと速いくらいで話は収まるだろう」
体育祭の出場種目―――確かに先ほどの1限目で話していた気がするが、あまり興味もなくてスルーしていた。
今は、とある書籍にのめりこんでいるからね。
そちらの展開を考えているのだが、体育祭のことを考えるよりこちらの方が有意義だ。
「そんなことより『狼の涙』―――これがすごく面白いんだ。そんなつまらないことにリソースを割くより圧倒的に有意義な時間となるだろう」
「あ、これ最近颯二君が読んでる本だよね?面白いんだ……どこで借りてきたの?」
「いや、購入した。君が家に私物がないのはおかしいと言ったからね。試しに買ってみた」
「気にしてたの……?ごめんね。でも、最初に買うのが本?」
「別にそこはいいだろう?食事も君のもとでしかしないし、大きな家具も大して必要ないんだよ」
そう僕に必要ないものを列挙するが、彼女はあまり理解していないようだった。
彼女にとっては当たり前のものだから、ないことそのものが不思議なのだろう。まあいい。今の話題はそこじゃない。
「とにかく、1巻と2巻は読んだから君に貸すよ」
「いいの?」
「もう僕は18回ほど読んだからね。中の内容は完璧に覚えた」
「えぇ……」
なぜか花音はドン引きしていたが、関係ない。僕のやり方に真っ向するような彼女ではないからだ。
そして時間が経過して、体育の時間を迎える。
この体育の授業では、体力測定が行われる。
普段の授業とは違って、全国区で指定されている種目の記録を出し、しかるべき機関に提出するもの。まあ、平均の中に僕の記録が混ぜ込まれるのは不本意だが、仕方ないだろう。学校に在籍する者として避けられないものだ。
とは言っても、加減ができるかわからない。
そりゃ日常生活でやっている走る程度の行為なら、問題なく制御できるが、投げる等の行為は普段から制限をかけているわけではない。まあ、そう言った不安要素だけで言ったら、ハンドボール投げくらいか。
投球に関しては、全力で石を投げたくらいしか経験がない。
少し不安だ。
今日の体育は特別に2時限分使って行う。
クラスごとに回っていくのだが、一発目はシャトルランだった。
平均はネットで調べて、一番上に出てきた77回。
それくらい走れれば十分だろう。
体力測定の実施に当たって、二人一組を組むのだがさすがに女子である花音と組むことはできなかった。
なので、僕はクラスであぶれていた一人とペアを組んだ。
「よろしく……」
「ああ、あまり者同士うまくやろうか」
「はっきり言わなくても……」
ペア相手は仁藤浩紀というらしい。
そして、前半組で彼はシャトルランにて24回を記録した。少し貧弱すぎる。
まあ、おかげで花音をながめることができる。
彼女は顔を真っ赤にしながら走って、息を切らしていたが40回ほどでリタイアしていた。
すぐに介抱したいところだったが、彼女も友達に囲まれて楽しそうにしていたので、次の後半の番になるまで待っていた。
「零蘭、君は、どのくらい目指すの?」
「80くらいでいい」
「そんなに、行けるの?」
「多分もっといけるけど、時間の無駄だ。だったら、『狼の涙』の展開の予想をしていたほうが面白い」
「―――狼の涙……見てるの?」
「君も知ってるのかい?」
「う、うん―――よいうか、これ……」
「おーい!後半のほうの記録はじめるぞー!」
彼がなにかを言おうとしたが、僕たちの番が回ってきて話は途切れる。
特に何も言わずにスタート位置に立つと、彼は記録をしっかりしようと僕を注視してくる。
見られているというのは少々慣れない感覚だが、まあ全員の注目が向いていないだけマシだろう。まずそんなときは一生来ないとは思う。
僕の本当の姿がバレれば、もしかしたらというものではあるものの、だな。
そうこうして始まったシャトルランにて、僕は84回ほどを記録した。
平均より少し上くらいの記録にすればいいと思っていたので、ちょうど半分くらいの生徒がリタイアしたところぐらいで僕もやめた。
平均値と中央値が違うことがよくわかる結果だったな。
まあ、少し運動できるくらいであれば、選抜に出て、出場競技も減らせるだろう。多少多くなるのは、そこまで問題ないはず。
その後反復横跳びや長座体前屈、立ち幅跳びはすべて隣、または前の人間をまねして終わらせた。
運よく、平均レベルくらいの人ばかりが固まってくれて助かった。
―――握力は少し調整を間違えて50ほど出してしまったが、柔道部の男が75を出したことで薄れてくれた。非常に危なかった。
体育館で終わる協議がすべて終わり、1限分の体育が終わった。
休み時間に入り、僕は花音に話しかけられた。
「颯二君、経過はどんな感じ?」
「無難だよ。それに収まるように抑えている」
「どれどれ―――握力50!?」
「それは見ないでくれ。くしゃみが出て、力が入ってしまったんだ」
「なんだかおっちょこちょいみたいな話にしそうだけど、うっかりで50出すのってしっかり怖いね」
「怖いか?」
「冗談だよ、冗談。私が颯二君を怖がってると思うの?」
そう言って彼女はペロッと舌を出す。
かわいらしい仕草だが彼女らしくない。どうしたのだろうか?
「そうだ、仁藤浩紀という男子生徒を知っているかい?」
「あー、いつも一人でいる人?」
「なにか僕に伝えようとしていたみたいだが、姿が見当たらなくてね」
「うーん……伝えるのが苦手なんじゃないかな?さっき一回言おうとしたけど、タイミング逃しちゃって―――ていう感じで」
そういうものか?
まあ、彼が話すのを待てばいいか




