side02 つながり
「どうして僕が選抜に選ばれなかった?」
「いやあ……多分颯二君がほかのみんなと仲良くないからじゃないかなあ」
僕のつぶやきに花音があけすけに言う。
確かに僕は他人と仲良くするという風な生活は送っていない。不必要なことだと判断した上の行動ではあるが、まさかこんなところで問題に衝突するとは思わなかった。
「だけど仁藤浩紀は選抜に入っているよ?」
「うーん……やっぱり一番速かったからじゃないかな?」
「だとしても僕が選ばれない理由は―――」
「じゃあ聞いてみる?私の予想だけど、『俺たち仲いいから零陵が出るより連携がとりやすいと思う』って言われると思う」
「うむ……解像度が高いというべきか―――ありえない話ではないかもしれないね」
彼女に言われて考え直す。
やはり圧倒的なタイムを叩きだすべきだったか。
悩みどころではあるが、切り替えて出場種目のことについて考えよう。
個人種目は色々とあるが、候補を上げるとするなら、やはり二人三脚あたりだろうか。
この種目は男女で二人一組となって行う種目だが、これなら花音と無難に終わらせることができるはずだ。
他の種目だと、障害物競走―――すべての障害を無視して走れるから協議にならないだろう。
騎馬戦―――上でも下でも、組んだ人たちが僕についてこれない。
借り物競争―――もってのほかだ。友人関係というものが死滅している僕がものを借りれるわけがない。
「なあ、花音―――」
「ん……?」
「二人三脚を組まないかい?」
「……いいよ」
「嫌じゃないのかい?」
「そんなことないよ。颯二君と一緒に体育祭に臨む―――創造すると、楽しみだって思えるよ」
「僕が言うのもあれだが、身体能力に差がある。君だからそこら辺の理解はあってくれると思うから、この種目が一番都合がいいのだが。それでも、君が怪我してしまう可能性もある」
僕はその危惧を口にした。
正直、僕としては二人三脚も選ぶことは避けたい。
やはり身体能力のスペック差が如実に表れるだろう。
だが、僕なら花音に極限まで気を使って走ることもできるかもしれない。彼女のためならば、どんなことでもやってしまえるように。
だが、リスクがないわけではない。
「颯二君なら大丈夫―――私を守ってくれる颯二君なら」
その言葉が僕の中にストンと落ちた。
納得できたわけではない。
だが、呑み込めた。
安い葛藤のようなものだし、ぺらっぺらの考えだったが、不要なものでしかなかった。
花音にそういった心配をするのはやはり違うのかもしれない。
弱さも、また強さ―――か。
「そうだね。僕が完璧に調整し、1位に導いてあげよう」
「ふふっ、難しいことをしようとするね」
「誰に言っていると思っている。僕は、不可能を可能にするんだよ」
そうだ。
僕は創造の神―――零蘭颯二だ。できないことなんてありはしないさ。
その後、個人種目決めの時間に手、僕と花音がペアとなって二人三脚への出場が決まった。そして、授業後に体育委員から声がかかった。
「あのー、零蘭だっけか?ちょっと頼みたいことがあってさ」
「なんだい?仲良しこよしのために、なにか辞退してほしいのかい?」
「……なんだこいつ―――」
聞こえないように言ったようだが、聞こえているよ。
まあ、これに関しては僕にも非がある。皮肉くらいは言わせてほしいものだけどね
「零蘭、50m走に出てくれないか?」
「個人種目にはすでに出ているはずだが?」
「選抜選手じゃなければ個人種目は2回出ても問題ないんだ」
「その理論なら選抜のメンバーも1回は出れるんじゃないのかい?」
「いや、もう出ているんだ。そして、計測の時のタイムで速かった人で短距離に出ていないのは零蘭だけなんだ」
「ほかの人でもいいのでは?」
「いや、他は騎馬戦とか派手なのに出ちゃってるし、もう零蘭しか出せる人がいないんだ。頼む!他クラスからは陸上部とかが出てくるだろうから!」
そう言って強く頼み込まれる。
正直出たくはない。
彼らは好きな女子にでもいいところを見せたいだけだ。それに僕が巻き込まれている形。
体育委員の彼が求めるのは、女子に良い格好して、クラスを優勝に導く実績だ。それだけで異性から高い評価を取れる。そう思っている浅ましさが見える。
後で花音に聞いてみよう。そう言うのはどう思っているのかを。
まあ、頼まれているのは事実だし―――
「で、50m走にも出ることになったの?」
「そうなるね。まあ、君良い所見せられるかな?」
「あー、私だけかもしれないけど―――そう言うのってあんまり響かないよ。もちろん、颯二君は特別だけど」
「特別?」
「す、好きじゃない人のそういうの見ても、ときめかないってこと!……あんまり言わせないでよ」
そう言って彼女は頬を赤らめる。
そんな姿がどうしても愛おしく見えてしまう。こういうことをしていいのか悩むところではあるが、僕の思ったことをそのまま行動に起こす。
「ひゃっ!?な、なに……?」
「いや、愛おしいなと思っただけだ」
「る、颯二君―――一応、外だよ?」
僕の行動に抗議する花音は、現在僕に頬を両手で挟まれている。
まだ肌寒いこの時期に感じる彼女の頬の温かみは、心地が良いものだ。
「今は周りに人はいない。いいだろう?」
「むぅ……恥ずかしいから私の家でやろ?颯二君のでもいいけど」
彼女がそう言うと、僕は手を放して彼女の家に向かう。
空いた手は、僕でもびっくりするほど自然に花音の手元へと運ばれた。
少しだけ触れただけでも僕の意図を理解できたのか、彼女は運ばれてきた手をつないだ。
その時、彼女の耳は真っ赤になっていた。
「なんだかな―――まだ、手をつなぐの恥ずかしいかも……」
「慣れてもらわないと困るよ。お互いに体温を感じたいと思う場面はいっぱい増えていくだろうからね」
「―――っ」
僕の言葉に花音の顔が真っ赤になっていく。
耳から広がった赤みはより一層、新草を突き抜けていった。
紅潮し、いっぱいいっぱいの状況であることは容易に想像できるが、彼女は一切手を放すことはしようとしない。まあ、放そうとしても僕がさせないけど。
鼻差にというよりも、手放せないという表現のほうが正しいか。
こういった日常も悪くない。
家族―――その愛を彼女に恵んでもらえるのだから。




