side02 世界調律
「げほっ、げほっ……」
「大丈夫か?」
「問題、ない……少し、攻撃を受けてしまっただけだ」
「無理はするな。奴のせいで俺たちは力を喪失した。昨日までのようには戦えないだろうな」
昨日―――そう、昨日までは世界が味方だった。
コアとして人類より進化した、より強い力を手にした者たちが僕たちに襲い来る中、どうにか僕たちも応戦しきっていたのだが、昨日の今日で状況が変わってしまった。
僕たちが神として君臨していた世界に拒絶された。
これの意味することは一つだけ
世界の神が変わったということ。つまり、神の器として成っていた『コア』の誰かが神になり、その座を奪ったのだ。
非常に厄介なことだ。
僕たちの能力は、世界そのものに干渉する。ゆえにこそ、世界そのものが僕たちの手の中にある必要があった。しかし、その力の類は完全に封じられた。
そんな中での先の戦闘―――僕は致命傷ほどではないが、かなりの深い傷を負ってしまった。
腹部を抉られるような傷だ。
「空気で切り裂く能力―――『Air』ってところか?定義の曖昧な力を使いやがって」
「まあ、単純に能力が想定しやすいものほど、手数が増えるのは定石だね。くっ……にしても、さっきは助かったよ。なんだろうね、生きものとしての差を感じるよ」
「ならさっさと追いつけ。ここで立ち止まるつもりはないぞ。とにかく、この研究機関の敷地内から出なければ―――」
今僕たちがいるのは地図にない場所。
日の昇る国といえど、政府が―――人が隠した場所も存在する。しかも、それは神の力により、普通の人間が近づけないように細工もされていた。
僕たち由来の力でないため、それの解除もできない。
だから、簡単に脱出もできない。
どうすれば―――
「手段ならある」
「どうすれば……」
「だが、できるだけやりたくはない。この手段は、被害を生み過ぎる。一般人を巻き込んで目的を達するのは、奴らとなんら変わらない」
「だけど、今の状況で手段を選ぶのは―――」
「ああ、わかっている。だが、お前にはその程度の感情の機微すらないか。やっぱバケモンだな」
最後の言葉はうまく聞き取れなかった。
しかし、僕にそこまでの機微を求められても困る。溶液の中に詰められて、能力の創造を繰り返し続けた僕にそんなものはないからだ。
無茶というものだ。
「まあいい。期待するのも酷か―――とにかくその手段はまだとらない。やれるところまでやる。それだけの力は残っているはずだ」
「と言っても、僕たちに残された力は、元より高い身体能力とコア由来の変身能力だけだけどね」
「口答えする余裕があるなら動けるな?行くぞ」
彼がそう言って走り始めると、先ほどまでいたところが爆発した。
察知が早いな。僕は今の今まで気づかなかったというのに―――
やはり01の名を冠するだけはある。
僕よりも、能力的なスペックがすべて僕の上をいっている。
これに追いつかないと奴の能力に対抗するレベルの力『■■■』に達することができない。
なかなか難しいこと言う。
にしても、奴の能力は―――
「いや、奴の能力はもうわかった」
「え……?さすがに都合がよすぎると思うのだけど」
「単純だ。俺たちを神の座から引きずり落とし、世界そのものへとなる。その能力の名は『THE World』」
「そんな力が?僕の記憶の中にそんな力はないが……」
「それがあるんだよ。そんな力―――奴……あいつじゃなきゃ使えないってことだ」
彼が言うことでも、さすがに信用しきれない。
能力は僕が生み出している。僕の知らない能力なんて―――
そんなことを考えるが、彼は答えをくれない。
だけど、こんな無駄なことで頭のリソースがとられていたからだろう。
僕の右腕が吹き飛んだ。
「っ―――!?感知が遅れた?まさかっ、そんなことがっ!」
「ぐっ、がはっ―――!?」
僕はそのまま倒れこんだが、彼は違った。
踵を返し、即座にブレーキをかけて変身する。僕の目から見ると、木に隠れた瞬間に変身したものだから、かなり摩訶不思議な演出に見える。まあ、そんな物語らしいことなんか、気にしてる場合じゃないんだけどね。
だが、能力の行使が不可能なブランク体では、僕たちも長時間では戦えない。
ましてや、僕はかなりの致命打を受けている。
ここはもう、先ほどの手段を行うしかない。
僕は目を閉じて、あらゆる思考を開始する。
僕たちの能力でできることを考え、それを現状を打破しうる可能性で派生させていく。するとただ一つの答えにたどり着く。
これなら、まだ可能性はある。
僕は少しずつ中に眠る力を覚醒させて、微量ながらも展開させていく。
だけど、第一段階は彼の役目だ。彼がこの事象の起動スイッチを押さなければ、僕のこの準備も意味はない。
近くで戦闘音が響いてくる。
だが、明らかに彼が押されている。どうにか今起動している能力でテレパシーを作り出して、彼へのコミュニケーションを図る。
「もうこれ以上の戦闘は不可能だ。サバトを行うべきだ」
『どこでそれを……?いや、そんなことはどうでもいいか。さっきも言ったが、それはなしだ。被害を出し、目的を完結すること。それは奴らと変わらない』
「だが、人を殺すわけではない。元に戻りさえすれば、その罪は消える。誰も覚えていることのない。ただの世界の分断だ!」
『それでもだ!』
「じゃあ、どうしろと言うんだ!今のこの状況、打開するにはそれしかない!」
『黙れ!作り物の―――まがい物が何を叫ぶ!』
「まがい物でも、正論に暴論で返すのは議論ではない!スイッチを握る君には、責任が伴う。個々で失敗すれば、それこそ奴らの望む結果になる!」
『……ちっ』
最後には舌打ちだけが聞こえた。
しかし、戦闘音は止み、足音がこちらに近づいてくる。
やってきたのは彼だ。
全速力で走ってきて、そのまま僕を抱えて駆け抜ける。
後ろから研究所のコアが迫って来るものの、追いついてくる様子はない。だが、スタミナを鑑みれば、これにも限界がある。
「いいか?『世界調律』の発動によって、時間を稼ぐ。再度の世界の融合―――世界がもう一度姿を現すときに、俺たちが力を取り戻す必要がある。これはわかるな?」
「ああ―――」
「なら、これ以上の話は不要だな」
「そうだね。もう時間もない」
そうして僕たちはまともな別れの言葉もかけずに、二つの世界へと別れていった。
だが問題ない。
別れはしても、必ずまた会えるのだから。
リアクションボタンだけでも押していってくれ、頼む!
今、ここまで来た人たちが満足できてるか知りたいんだ!




