side01 忘却の先に
「なに言ってるの……?」
翌日、朝になって俺は美晴と会話をしていた。
その中で、美晴は少々声を荒げる。
「言ってるだろ?『DeadHell』は頭目の行方不明によって壊滅した。まあ、最初からトルーパー案件で全滅寸前だったしな。当たり前の結果ともいえる」
「だからって、それはないでしょ!」
「いいや、妥当だ。お前には親がいるだろうし、心配してくれる奴だっているはずだ。いつまでも俺の部屋に入り浸るな」
「だけど、私がハジメのご飯を―――」
「だとしても、四六時中いる理由にはならないはずだ。危険はない。とにかく帰れ」
「でも……」
こいつは俺と違って、家族がいる。
そいつらが帰りを待っていることも、しばらく家での滞在時間が短かったことが、家族の不安も煽っている。だから、帰れと言っている。
あわよくば関わるのもやめてほしいが、それをやめるとも思えない。
だから、そこは妥協している。
何に問題があるというのだ。
「もうわかってるでしょ?私、ハジメのことが好きなんだよ?ずっと守ってくれて―――でも、そんな拒絶の仕方されたら……」
「……俺がいつ拒絶した?俺は帰れと言っているんだ」
「だからそれが―――え?本当に帰るだけ?」
「だからそう言ってるだろうが。お前は俺と違って、帰りを待っている人がいる。そいつらのもとに帰れ。ただでさえ、素行の悪いやつとつるんでたせいで、特に父親が心配していたぞ」
「なんで、私の家族のこと―――」
「お前、俺にしたこと忘れたのか?身辺のことについてはいくらでも調べてある」
俺にしたこと、と言われて美晴は顔を逸らす。
最低限の罪の意識はあるようだった。それ自体を責めるつもりはもとよりない。
まあ元々の性格だろうな。
こういう勝手に憶測を巡らせて勝手に反省するのは。
ようやく納得した美晴は、俺の過ごしていた部屋を出て帰宅していった。あとに残されたのは、彼女が滞在時に浸かっていた服や化粧品類だった。
というより、俺の私物より彼女の私物のほうが多いというかなり異様な光景だ。
「こんなにこの部屋ってものがあったか?」
しかし、捨てることもできない。
また彼女が入り浸る気満々というのが透けて見えるのだが、気にした方が負けなのだろう。彼女の私物である時点で、容易に捨てられるようなものでもない。
捨てれば、必ず面倒なことになる。
この部屋の中でそれを使っているときに、すごく高いだのなんだの言っていたから。
そんな高いものを人の家に置くなよとは思うが、俺も我慢することくらいはできる。
色々と考えていたのだが、俺はそこで気付いた。
そういえば、この部屋の中でゆっくり考えることなんて少なかったな。なんせ、いっつもあいつがいたから―――
まあ、俺も変わったのか……
いい変化ではないな。
そうこうしていると、部屋のインターホンが鳴らされた。
誰かと思い、玄関の方へと向かって扉を開けると―――
「や、やあ……その、昨日のお礼をしたいのだが」
「……ここで済むか?」
「……できれば中に入れてほしい。色々と話したいこともある」
「―――勝手にしろ」
俺はそう言って、やってきた会長を部屋の中に招き入れる。
彼女は中にあった化粧品など女ものの類を見て、一瞬目を見開いたが、すぐに口を結びなおし、ベッドに座った。
しばらく緊張したいたのか、言葉を発することはなかったものの、意を決したように彼女は言葉を紡いだ。
「その、昨日はありがとう。本当に、文字通り、命を救われた。感謝してもしきれない」
「気にするな、と言っているはずだ。俺の気まぐれ―――たまたまだ」
「それでも、だな。そのお前の気まぐれで救われた命だ。父を一人にしたくはなかったし、私もまだやり残したことがあったからな」
「まあ、だったら死ぬまでに頑張れるようにな。人ってのは、ある日突然死神の鎌につかまるものだからな」
「それは怖い……まあ、その、なんだ。一応、月野のことも生徒会として謝罪する」
そう言って、彼女は俺に菓子折りを差し出す。
しかし、俺では食えないのだが……
まあいいか。
「美晴が食えば問題ないか……」
「ち、ちょっと待て!なんでここで、里中の名前が?」
「あいつ、この部屋を出入りしてるんだよ。そこら辺の化粧品は全部あいつの」
「そこらへんって、女物ばっかり―――これが全部、里中の物なら……零陵の私物ってほぼないじゃないか」
「そこはいいだろ」
「そ、そうだ!一応、これは零陵のために買ってきたんだ。お前に食べてもらわないと―――」
「だけど、俺は食えないからなあ」
「き、嫌いだったか?じゃあ、違う物を」
「はぁ……そもそも固形物が食えないんだ。前言ってなかったか?」
「い、いや……確かに前回の食事で、吐かせてしまったのは申し訳ない。だが、そう言ったことは一言も―――」
そう言って彼女は顔を俯かせる。
菓子折りは持ってこなくていいんだけどな。
だが、彼女はそこで引き下がらない。
すっと、なにかの紙を一枚出してくる。
「私の家がやっている喫茶店だ。この紙は普段常連にしか渡さないコーヒー無料券だ。だけど、最近は味が落ちていて、すまないが私が淹れるので我慢してほしい。固形物が無理でも、コーヒーくらいは飲めるだろう?」
「喫茶店―――なあ、そこの看板メニューってのは、オムライスか?」
「そう、だが……うちに来たことがあるのか?」
「いや、聞いてみただけだ。―――今日はもう帰ってくれ」
「あ、ああ……?また学校で会おう。いや、店でも待っている。学校の最終下校時刻後なら、私も店に出ているはずだから」
そう言うと、彼女は俺の部屋を出ていく。
一人残された部屋の中に、彼女の菓子折りは残される。
そんな中、美晴が帰ってきた。いや、やってきた。というべきか。
入ってくると同時に、彼女は菓子折りを見つけてしまう。
「あれ、なにこれ?もらっていい?」
「ダメだ……」
「ん……どうしたの?」
「それは俺のものだ」
「ふーん……わかった。じゃあ、置いとくね。私、このまま買い物行ってくるから、なにか欲しいものある?」
「特にない。それに俺をあまり気にかけなくても構わない」
「そう言わないの。じゃあ、行ってくるね」
そう言って、嵐のように去っていく。
机の上に置かれた菓子の封を開け、一つを手に取る。
口に含んで咀嚼し、飲み込む。
ああ、やっぱり気持ち悪いな……
もう久しく評価ついてないですね……(泣)
まあ、いいけど
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ちなみに、現在114話ほどまでの下書きが完了しています。しかも、この辺りは結構いい回だな、と思いながら書いておりました。いい感じの展開にもなっているので、ぜひお付き合いください




