side02 神なき世界
簀巻きになった板倉芙美を見下ろして、ようやく勝敗が決したと自覚できる。
鉛の腕を介し、完全に動きが封じられた彼女は、今意識すらもない状態―――かなり睡眠状態に近いものだろう。
ゆえに次に目覚めるときも僕に対して大きな感情を向けることになる。
しかし、僕ではコアを殺せない。ゆえに、封殺。まあ、すべてが落ち着いてから彼女を助けるために動く。またそれも、考えようではあるが。
しかし、僕はこのままでいいとは思えない。
いや、協力できるならそれでいい。だけど、難しいのも事実。だから、これは―――
戦闘の終了を確認したことで、花音もこちらにやって来る。
「終わったん、だよね?」
「ああ、殺しはしない。まあ、というよりできない」
「でも、この状態じゃあ―――」
「安心したまえ、今はいわゆる休眠状態にあると言った方がいい。今はすべての能力をロックされていて、ツタを廃し、体の自由を手に入れても、コアとして暴れることはできない。ただ、コアとして戦うために体の能力は一度向上してしまった。それが下がることはない。君は余り彼女に近づいてほしくない」
僕の言葉に彼女は顔を俯かせる。
彼女が完全にコアとして覚醒したことで、花音も彼女との思い出を失ってしまったのだろう。しかし、忘れてしまっても、板倉芙美という女子への心が残っている。
それが人間―――奴らが捨てようとしたもの、か……
「花音、これを預ける」
「……なにこれ?」
「板倉芙美の封印を解くカギだ。君が心に整理をつけ、対峙する勇気を持った時に使うと良い」
「なんで私に?」
「君が僕と違って心を持っているから。理由なんてそれくらいかな」
「心……?だったら颯二君だって―――」
「僕のはまがい物だ。君のような本物とは違う。まあ、僕もその心を完璧にするために、君からそういったものを学びたい」
僕のこのの気持ちは本当だ。
持っていないものを学ぶのは難しい。しかし、懇切丁寧に教えてくれる人がいる。僕はそれに報いたい。
なら、そのカギを―――彼女の心に任せる。
いつか必ず、花音なら
自然と僕はそう思えた。
そうして僕たちは板倉芙美の簀巻きを運ぶために、彼女の家へと向かっていった。
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「やはり何もないね……」
「この部屋、颯二君の部屋と似てる……」
板倉芙美の家は、彼女が僕の部屋に向けて感じた感想と同じだった。
わかりやすく言語化するのなら、異様だろう。
家具はなく、生活痕がない。
これを見れば、僕とてすぐに理解できた。
そもそも、こんな部屋で花音と幼馴染をやっているというのは無理がある。
次は家宅捜索もできれば、早期解決につながるか。
「花音、君はこの部屋で遊んだことは?」
「ううん、結局芙美も私の知らない人になっちゃったし、もしかして私って味方いなかった?」
「そんなことはないだろう?昔は知らないが、今は僕がいる。それでは不満かい?」
「ぐふ……颯二君の言葉の破壊力が―――でも、そう言ってくれる人が私の恋人って、ちょっとくらい私は幸せ者なのかな?」
「ああ、もちろん幸せさ。君はおろかにも、この世界の神に恋をしているんだから」
その言葉で、彼女は思い出したように言った。
「そうだ、サバトってなに?」
「……まあ、教えないわけにもいかないか。だが、最初にこれだけは言わせてくれ。僕たちは特定個人を不幸にする目的はあって、多少の犠牲はないと考えている。それは今も変わらない。すべては結果が優先されるが故だ。そこは仕方がない」
「そうだね。言ってることは間違ってないと思う」
「だけど、僕自身に花音に不幸になってほしいとかそう言った意図はない。今は、サバトの被害を受けた人には、多少の謝意もある。しかし、これだけは知っていてほしい。これが一番、血の流れない手段だった」
そして、僕はサバトの背景を語る。
最初こそ、僕たちは戦闘を早期に終わらせて、研究所を破壊。
彼も元の生活に戻るつもりだった。まあ、僕は路頭に迷う可能性はあったけど、研究所にあった資金などを頼りにしていくつもりだったから、そこは問題ない。
計画があったわけではないが、新たな世界を生み出すための力を潤沢に成長していた。
だが、そこで不備が起きた。
正確には邪魔が入ったというべきだろう。
研究所という小さな世界は、彼という神を失った。
神なき世界は崩壊する。
その世界システムを逆に利用された。
新たな世界の神として、研究所の所長がそこに立ったのだ。
端的に結果だけを伝える。
予期せぬ新たな世界の登場によって、僕たちは力を失った。
本当に想定外の出来事だった。
たかだかの人間が、神になろうなどと驕り、本当にその力を手にするとは、予想もできない。
それは彼も同じこと。
ゆえに、すぐに対策案を出した。僕は、こういうところを本当にすごいと思う。
話はそれたが、出した対策というのは新世界の創造―――世界を二つに割るということだった。
まずは、彼が世界を破壊する。
奴が神となった世界を否定し、存在そのものから消し飛ばす。残骸となった世界の神となり、飛び散った世界をかき集めて、僕はハリボテの世界の神となった。
そして、そうなった世界での僕たちの目的は大まかに分けて二つ。
僕たちの力の復活。そして、世界の融合。
その目的の過程で、リアクトは減らして、神への力の奉納を避けたい。
僕たちはあくまで、世界システムから放逐された後から入り込んだ遺物の神。
リアクトの恩恵を一切受けられない。
なら、即座にリアクトは廃すべきだと決めただけ。
別に僕たちはリアクトに対処する理由は、元をたどってしまえば、ないと言える。まあ、今の僕だと対処しないとどうにもできないたちだ。
世界の破壊。そして、修復。
その間の過程で、家族が引き離されるのは、そう珍しいことじゃない。
そういった事象は、すべて行方不明などの未解決問題として片づけられる。
それは仕方ない。
だけど、別れてしまったからとはいえ死んだわけではない。
予想ではあるが、相手が悲観して自殺しない限りは、あちらの世界で元気に生きていると断言できる。
だからこそのあの時の僕の発言だ。
花音の姉は、必ず生きている。彼女の言うように、強き者ならば




