side01 負の干渉
コアと化した月野は俺の能力の干渉を受けて、その場に倒れこみそうになる。
しかし、すんでのところで踏みとどまり、どうにか立ち上がる。
だが、フラフラとなにか庇っていないと立っていられなさそうなその出で立ちは無様そのものだ。
力の見えないコアの心臓から、俺は手を放す。
「な、にをした……」
「単純だ。お前の神経系の一部を破壊した。言ってなかったか?コアになった時点で、お前は俺の能力からは逃げられない」
「クッソ……死にたくない―――死ぬのは嫌だ!」
そう言って、月野は腕を振り回す。
無用な抵抗、無意味な反撃―――今の状況を表す言葉なんかいくらでも思いつく。
だが、戦闘を早期に終わらせるに越したことはないということだ。
俺たちコアの特筆すべきところは単純。リアクトよりも優れた能力。
つまり、奴の能力の発動条件等が更新される。
おそらく、先ほどよりも条件が緩いものになっているはず。奴がそれに気づく前に対処しなければ。
まあ、もうそんな思考すらも回らない状況だろうがな。
コツン……
そんな力の入ってない拳が俺に当たる。
なんのダメージもない。だが、触れられているだけで、能力の発動をされる可能性がある。
「っ―――!?お、俺の手、がぁ……!」
なので、俺は赤子の手をひねるかの如くに、奴の手首から先を切り落とした。
ボトッと音を立て、落ちるさまを見ながら、奴の胸を蹴って後ろに倒れこませる。
「暴れられても困るからなぁ……まあ、四肢でも斬っておけば暴れないよな」
俺は考えの通りに奴の四肢を落とす。
剣を使用し、簡単に落とされた腕や脚は、血を吹き出しながら腐っていく。
しかし、月野は特に痛そうにしない。
まあ、確かに神経系を破壊したので、痛覚等が死滅してしまったのだろう。まあ、それも悪いことではないな。
泣き叫ばれて、攻撃がそれてしまったらそれこそ面倒だ。
ただ一撃で殺すことができるのなら、それに越したことはない。
「さて、落ち着いて話が聞けるな。コアとして覚醒したのなら、研究所の記憶がよみがえったのだろう?お前の番号とどんなことをされていたのか教えろ」
「い、嫌だ!それを言ったら殺すだろ!」
「……素直に、かつ正直に答えれば助けてやる」
「こ、殺さないのか?」
「はぁ……早くしろ」
「わ、わかった―――お、俺の番号は、04番。能力はインパクト、衝撃波を放ったり、物体に込めたり。とにかくそういう能力だ。実験として、いくつかの物を対象に力を使っていた」
「ほかには?」
「そ、それだけだ!頼む、命だけは―――」
その瞬間、俺はコアの頭を斬り落とした。
助けるとは言っていない。無論そのつもりもない。
リアクトが増えることは俺にとって百害しかないが、コアが増えることは望ましくない。
大いなる感情の増幅によってコアが思い出す記憶は、俺がすべてを破壊した世界調律の前の光景だ。そんな奴らが協力的だとは思えない。
まあ、そうでなくともなんらの一切容赦なく、実験体の失敗作と称した生命体を殺す輩を信用しない。
―――俺は俺自身を信用しない。
さて、こいつの死体は消しておく。
校庭の外側からいくつか写真を撮られたみたいだが、週明けにすべてがもとに戻った状態を見れば、特撮か何かの撮影だと思うだろう。
所詮、人の記憶の補完などその程度だ。
そのまま俺は剣を地面に刺して、能力を行使する。
さすがに校舎や大地が倒壊して、そんな状態で週明けを迎えれば、先ほどの思惑―――人の記憶の補完はうまくいかないだろう。
学校の敷地全体に力が行きわたり、少しずつ修復が始まる。
俺の力は破壊だ。
すべてを壊し、すべてを無に帰すことができる。まあ、それは俺の力が完全となってからだ。
完全となれば、創るも壊すも自由自在。この世界は俺の世界だ。俺の手の中にあるのも、当たり前というものだ。
そうこうしていると、上から降りて来た会長や美晴たちがやって来る。
「校舎が、直っていく……」
「これが、ハジメの力―――すごい……」
うるさいな。たかだか力を使ったくらいで。
事象の破壊―――すべての『壊れた』という事実を破壊する。
まあ、負の結果に負の力をかける。数学的な考え方だ。
この力を持ち、それを何度も行使してきた俺から言わせてみれば、この程度造作もない。
まあ、せいぜい無生物くらいにしか使えないが。
治癒までできれば、もっと早くこの件を終わらせられた。例えば、会長たちが見てしまったあいつ―――治癒できれば、いくつか話を聞けた。そういう場面もよくあった。
悔やむということはないが、面倒だった。
しばらく能力を使っていると、倒壊したすべてが元に戻る。
その光景を見て、会長たちは呆けていた。
「すごい、壊れていたものがすべて直っていく」
「ぺらぺらとうるさいな。黙ってられないのか」
「そ、そうは言うが―――私たちだって感謝してるんだぞ」
「感謝を求めた憶えはない」
「零陵……」
俺の言葉に会長が肩を落とす。
そこに美晴が声を出した。
「ハジメ、そういう感謝は求められてするものじゃないよ。実際みんなはハジメに助けてもらったことになるし」
「……そういうものか。わからないな。俺は俺のためにしか戦ってない」
「それでもだよ。私も、ハジメに助けてもらったし、会長だってそういうのは伝えたいと思うよ?」
美晴はそう言うと、会長のほうを見る。
振り向いたことによって、俺から顔の表情が見えなくなる。よって、どういう意図の表情をしていたのかはわからないが、先ほどとは打って変わって、会長の瞳が力強いものとなった。
「零陵一、さっきは私を受け止めてくれてありがとう。お前がいなければ、私は死んでいたよ」
「気にするな。俺が助けたのはついでだ」
俺はそれだけ言って、踵を返す。
これ以上の会話は意味を持たない。
変える様子を見せると、美晴もそれについてくる。
ほかの三人は特に動かなかったが、様子を見るに今日はもう解散だろう。
その後は特に美晴との会話もなかったが、一つだけとばかりに俺に質問してくる。
「やっぱりハジメ―――会長を特別視してるでしょ……」
「なんのことだ……」
「やっぱり……なにがあったのかは知らないけど、私だって諦めたりしないからね」
「諦めないって―――そういう意味ならやめておけ」
時刻は昼下がり―――
今日はまだまだ長いようだ。




