side01 逆罰
特定条件下において、リアクトは進化する。
エネルギーを生み出し供給するだけの存在から、エネルギーそのものになるコアへと。
それがレベル5への進化。
俺たちは便宜上レベル5への昇華などと呼んでいるだけで、正確な数値にはあまり意味はない。
所詮できることが増える程度。一番重要なのは、リアクトとコアの境界線くらいのものだ。
逆に言えば、それだけ重要。
「勝てるのか……?」
「誰にものを言っている。自分の心配だけをしておけ」
「い、一応私の方が先輩だぞ。その、皆の前でくらい言葉遣いを―――」
「前にも言ったはずだ。一年早く生まれたからなんだ。そもそも、そんなことを気にしている場合ではないだろう。せいぜい、あいつのために手を合わせてやるくらいはするんだな」
「どうにか助ける手段はないのか?」
「あってもやらん。あんな性根の人間を社会に解き放つなどありえん」
「そうか……そう言うってことは、ないんだな―――月野を助ける手段」
俺はそれに回答しない。
察しているのなら言葉は不要。俺は窓から降りて、もう一度コアとなった月野の前に立つ。
「よう、コアとして目覚めた気分はどうだ?」
「お前が我々の日常を―――」
「ああ、やっぱりそうだよな。世界調律の発動時点で、あの研究所は消滅した。職員ではない実験台のお前たちは、世界に放逐された。思い出せば思い出すほど、俺たちのことが憎いか」
「お前を、殺す……」
コアになっても適性が低ければ大した意思疎通もできないか。
それとも、寝起きは弱いたちか?
どうでもいいか。相手がコアになったのなら、俺は戦い方を変えるだけだ。
そう考えて、外殻を回復させる。
別に直せないわけじゃない。ただ、戦闘中の押し合い引き合いの中でやるのはリスクが高すぎただけだ。
今に関しては、奴が動くことはない。
力の高揚によって、意識が俺からそれている。というのが言い方が違うかな。
少なくとも憎悪やら何やらで見えるものが見えなくなっているが正しいだろうか。
そんな中でなら、俺もギアを上げられるというもの。
もう一度引き剥がした外殻を、小刀程度の大きさの刃物に変えて、自分の足に刺す。
なんどもなんども、自分の再生力に合わせて、破壊と再生を繰り返す。
血がにじみ出し、激痛が走る。激痛が走り、そして痛みが引き―――よく痛みを経験するだけ強くなるというが、あれはあながち間違っていないな。
「気でも狂ったのか?」
「お……?ようやく戦う気になったか?」
「最初からある……お前を殺して、安寧を取り戻すんだ」
「ただ爆発を起こすだけの能力の実験などあまりいいものだとは思えないなあ。むしろ、この世界に生まれ直すことができて幸運ではなかったのか?」
「黙れ!お前が俺たちを苦しめたんだ」
「安定を望み、変化を嫌った。その末路だ。あの地獄にいることそのものが、安寧が一番離れていると思うけどな」
相手がようやく戦闘態勢に入ったことによって、俺も自傷をやめる。
まあ、先ほども言ったが、戦闘中に別のことをするのはリスクがある。そんな無駄なことはできない。
そうして、臨戦態勢になったところで、俺は剣を作り出し、引き抜くような動作をして校庭を抉る。
すると、その衝撃が大きいからか、奴の視線が抉れた校庭のほうに移動した。
それを見て、俺は一気に踏み込んで―――
バァン!
俺の体が破裂した。
「ふんっ……」
そうか……
触れるという条件はすでに達していたか―――
確かにそれは盲点だった。
そうだったそうだった。レベル5、コアになってからは、俺にも能力の行使が可能だったな。
まあ……
「だからなんだってところ、だ」
「っ!?なん―――」
俺は奴の正面に現れて、下から剣を振り上げた。
薙ぐように放たれた剣撃が、奴を切り裂き、たたらを踏ませる。
ぼたぼたと血が落ちる音がするのだが、すぐに収まって目に見えて傷がふさがっていく。
さすがに再生能力はピカイチだな。
「まあ、コアに進化してすべての記憶を戻したお前なら、わかっていると思うが、その状態はリアクトの時よりも救いようがないってこと」
「わかってる。だから、お前と同じところに立てるんだ」
「バカか?俺とお前が同じ力の立場?やはり、記憶を取り戻しても所詮型落ちか……」
「型落ち……?」
「お前たちは俺に選ばれなかった。所詮、俺の力の屑―――出来損ないだ」
「黙れえええ!」
奴は俺を爆破する。
今度は、撃ち漏らしがないように、四肢を順番に破壊して、最後に胴と頭部を吹き飛ばす。
普通なら死んだと思うところだろう。だが、俺が普通だと思うのならお門違い。
「だから通じないって」
「なっ!?」
俺の言葉と同時に、奴の側方から斬撃が空間を切り裂いた中から現れる。
ありていに言えば、不意打ちだ。それを避けるほどの技量もなく、月野は肩口を抉られてしまう。
「どうやって―――」
「どうやって、避けているのかって?残念、避けてないさ。単純に攻撃は当たっている。着撃の瞬間に、お前は俺を見ていない。だから、俺には当たっていない事実がついてくる」
「は……?」
「先ほどの自傷により、破壊を再生を繰り返した。それによって、俺の脚力は先ほどまでとはわけが違う。まあ、簡単に言うのなら、お前が最後に爆撃できているのは、俺の残像だ」
「そんなことできるわけ―――」
「できるさ。言っただろう。俺はお前たちの始祖―――お前たちが格が違いすぎる。お前の非常識は、俺の常識だ」
そう言うと、俺は走り出し、音速を大幅に追い越す速度で動き始める。
奴の目には、俺がいた場所に影を見ているが、俺は縦横無尽に斬りつけた。
しかし、先ほどの説明でやっていることの理解が追い付いたのだろう。
奴の周囲一帯を爆発され、少しだけ俺の動きが鈍くなる。
その隙をつかれて、奴の手が俺を捉えた。
「捕まえた!」
「だからさあ……
お前、一個のことしか考えられないのか?」
そう言うと、俺は奴の手の中にではなく、背後に立つ。
月野はどうにか声に反応して振り向こうとするが、もう遅い。
背中から心臓に向けて、手を突っ込み、それをしっかりと握る。
ドクンドクンと脈打つ鼓動が俺に伝わるものの、さしたる感情もわいてこない。
「言っただろう。お前が見てないから、そこに俺がいなくなるってな。視線に影が入れば、もう俺はそこにいない。お前が見ているのは、その場に残された残像だけだってな」
「だが、俺はお前に確実に―――」
「コアに昇格すれば、俺への能力も行使も可能になるが、その逆も然りだ。俺もお前への能力の直接行使が可能になる。ただ、俺はまだ不完全だから、命を破壊する行為は難しい。だけどな―――」
お前の感覚を狂わせるくらいならできる。
その瞬間、奴の目がガクンと揺れる。
「もう、お前は立っているのかすらもわからないんじゃないのか?」




