side02 結末の喪失
「同じだろ!お前はその力で何人も殺してきたんだろ!」
「ああ、殺してきた。だが、それは必要なことだ。君とは根本的なところが違う」
「ふざけたことを―――お前の言い草なら」
「言い草でもなんでも言えばいい。君が殺人鬼であることに変わりはない」
「あ、あたしは、雄真のために……」
「君はその男のために、と言うが―――それは君が殺しの免罪符、リアクトになった故の本能を否定するために言ってるのではないかな?」
「うるさいっ!」
「むっ……!?」
吹き飛ばされた。いや、能力を僕に使われたわけではない。
僕と彼女の間にあった空気を圧縮して、それを地震とは反対がの方向に向けて撃ち出したのだ。
素晴らしい能力の使い方だ。
彼女はコアであったとするのならば、僕は簡単に倒せなかっただろう。
「君は頭もキレる。ただの殺し合いで死ぬのは惜しいね。いつか、誰かを幸せにできる―――そんな道へと進むがいいさ」
そう言って僕はレバーを倒して、銃に搭載されている角を展開する。
顕現した角は側方から彼女を挟み込んで、行動を制限する。
そのまま引き金を引き、いくつかの弾丸で板倉芙美をリアクトから引きはがした。
「芙美!」
「安心したまえ。先刻の雨宮柚葉と同じだ。デバイスを体外で破壊する。彼女を助けるにはそれしかない」
「か、かはっ!」
「颯二君―――芙美をお願い」
「ああ、失敗はないさ」
花音に大丈夫だと伝え、僕はもう一度引き金を―――とどめの一撃を放った。
銃口から火を噴いた攻撃は、見事に板倉芙美の抜け殻―――サイコリアクトの腹部にあるデバイスを粉砕する。
これで終わりだ。
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スマホを破壊された瞬間、私の中に記憶が流れ込んできた。
2年前の記憶が―――
「おはよう、03号―――今日も実験だよ」
ああ、そうだ。
私はこいつに抱かれて、能力を使って―――そうやって日々を過ごしていくんだ。
あいつの食べているものを食べさせてもらっているけど、なんの味もしない。
そんな薄暗い生活―――神代雄真って誰だっけ?
私には6年より前の世界がわからない。
だとしても、目に映るのは緑色の液体と、薄汚い男の顔だけ。
なんどもなんども抱かれて、最初から心なんてない。
心なんて―――なんで私は持ってるんだろう。
なければ、今のように苦しむことなんてない。失えば、苦しまなくなる。
実験の内容は単純。
女としての生殖器の具合を確かめられ、その後に朝食。その後は、能力の使用を続ける。
私の使える能力はサイコキネシス。
ものの物理操作に干渉する力。例えば、物が落ちる。その運動を、止めることができる。
そんな単純な能力。
缶をつぶしたり、実験の廃材《失敗作》をつぶしたり、やることは単純ながらもたくさんあった。
後は食事をとり、抱かれて、生殖器に機械を入れられて何度も検査される。
そのときに言われたことは、だいたい憶えている。
「能力者の子供は能力者だったりするのか?」
「生殖器はあれど、子宮やらなにやらの機能は死んでいる」
「やはり元が男だから女としての機能はないか」
「所詮贋作だ。新たな命を生み出すことも、強力な力を有していることもない。つまらんな」
「ほかの職員の慰安にはなるのでは?妊娠しない個体というのは、そういった目的で、いかんなく力を発揮できる」
そんな言葉ばかり。
奴らは私を人だとは思っていない。私もそれが普通だと思っていた。
今の世界は、私からでは想像できないほど明るい。
いや、眩しすぎて直視ができないレベルだ。
私を慕ってくれる友達。口が悪く、見下されているものの私を助けようとしてくれるオリジナル。いや、彼はオリジナルではない?
いや、私の前に来た男は―――
「お前じゃない―――半身は、俺の求めるものはお前にはない」
そう言って、私のいたカプセルの前から離れた。
次の瞬間、私の研究室が爆発した。
なぜ?
そう考える間に、研究所の職員が慌ててやって来る。
しかし、私の安否は確認しない。彼らにとって大事なものは、私より結果データや記録のみ。
私たちみたいな実験体はいくらでもいるということだ。
「おい、実験体はどうする?」
「殺すのは惜しい―――あとで生きていれば回収する。だが、あの二人に看過されて暴れられては困る。四肢でも潰しておけ。あとでいくらでも直せるからな」
そう私をいつも抱いていた男が言って、私は四肢を撃たれた。
―――痛い。苦しい。辛い。
身動きも取れないまま、爆発によって割れたガラスが突き刺さる。
四肢の鋭利な痛みも、全身にゆっくり広がる鈍い痛みも。全部あいつらのせいだ。
私を苦しめる、悪い痛み―――あのまま、抱かれて実験体にされるだけの毎日のほうが、苦しくなかった。痛いのも、辛いのも―――私は嫌。
だから許せない。
私から日常を奪った。その男たちが。
神代雄真―――私の執着する男。それは神そのもの。
好きな人ではない。愛する人でもない。ただ唯に、私の憎むべき人。
神代雄真―――いや、逾たる男。逾槭?蜑」。遐エ螢翫?逾。逾櫁侭髮?悄
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「くっ……」
「やあ、おはよう。板倉芙美」
「お前……破壊神か?」
「ん……?僕は創造神だ」
「破壊神、二人―――お前が……そうか、お前が……」
なんだ?
先ほどまでとは全然違う雰囲気を出している。
言葉にしがたい異様さ。それを今、板倉芙美が放っている。
まずい。一旦、花音を離れさせないと!
「芙美……?どうしたの?」
「お前が、お前が、お前が、お前が―――」
「花音、一旦離れるんだ」
「え、でも……」
「いいから!」
少し声を荒げてしまうが、ここで聞き分けが悪いのがいけない。
今この一瞬で何かが起きる!
ドン!
その瞬間、何とも言い難い”圧”が周囲を襲う。
この感覚―――いや、まさか。デバイスはすでに破壊……
そう思って、先ほど砕け散ったスマホを見ると、残骸がなかった。
「お前が私の日常を―――なにもなければ苦しまずに終われたのに……」
「まさか記憶を」
「お前たちが壊したんだ。ただ緩やかに待つだけの死を!早急な世界の書き換えで!」
板倉芙美が叫ぶと同時に、とてつもない威圧感が放たれる。
そして、その彼女の胸は―――
―――赤黒く光輝いていた。




