side02 己の報い
警備がない。
僕が一番最初に思ったのはそれだった。
行方不明になっていて、有力な情報源はここにしかないだろうというのに、物が漁られた形跡も押収された形跡もない。
殺人事件が起きたわけではないので、当たり前のように近所の人たちが過ごしているわけだが、その人たちの話を聞いても、警察がここに入りに来たということもない。
つまり、ろくな調査をされていない。
やはりリアクトがらみなのだろう。
先刻のように、穴の形状を確認し、鍵を通す。すると、当然のように開き、中の様子がうかがえるようになった。
学校職員相応というべきなのかはわからないが、中学レベルの教科書や、かなりの量の参考書が丁寧に棚に収められている。
テレビはついていない。風呂等もしばらく使った痕跡がない。
不自然なところを上げるとするならば、これだけ片付いて小奇麗な部屋だというのに、流し台に洗い物が無造作に置かれていることだろう。
これではまるで、あとでやろうとしていたところだ。
となると、状況的にここが現場だろう。
部屋の様子はいたって普通。
リビングと思われる場所には、高さの低い机に合わせて置かれた座椅子とその対面にテレビが置かれている。
その隣の部屋は、PCなどの仕事机―――ないし、作業机と言えるものがある。
カメラやマイク等もそろっているので、おそらく在宅仕事などはここで行っているだろう。
そして、その隣の部屋には寝室がある。ちなみに、違う扉をあければリビングにつながる。
いくつかの部屋を何度も探索するが、結果は芳しくなかった。
トイレも風呂も、洗面所もくまなく探した。
だというのに、なにも結果が得られない。
今までの犯行から、爆発系の能力によって体が破裂させられた事例が多いため、その線を探り、血痕を探した。
探す手段として、わざわざドラマのようにブラックライトを当てる必要はない。僕の資格情報以上に得られるものなんてないからだ。
さすがに透過は厳しいが、残留している見えない血痕程度なら遮蔽物さえなければ、僕の肉眼でとらえられる。
その僕が言おう。
血痕はない。
ならば、現場はここではない?
「ふむ……リアクトが一体ではない可能性か。しかし、そこまでの協調性は高レベル―――もしくは奴らの扱う力の『コア』でなければ、それに到達する知性を失ってしまう」
言葉にして確認してみるが、やはりわからないままだ。
と、そんなときに僕の目にあるものが映り込む。
「これは、石か……?」
その物体は座椅子の上に転がっていた。
一辺3㎝ばかりの石ころらしきもの。それが僕の目に入り、思わずそれを手に取ってしまう。
リアクトが捜索を恐れて小型の爆発物を置いていったか?しかし、この石ころからはなんの力も感じない。
起動前状態などではなく、なにもされていないか発動後の残骸とみるのが正しいだろう。
だが、本当に浜屋優実はどこに消えたのか。
「いや、待てよ……?」
今回の事件は花音の卒業した中学校の教師が対象になっている。
当たり前ではあるが、花音ともかかわりがある。それは偶然だと思っていた。
だが、それが原因だと考えれば―――まだ雨宮柚葉の件は終わっていない?
ならば当人に直接聞いてみるだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次に僕がやってきたのは、雨宮柚葉の自宅。
目の前に立ってみたのだが、人の気配は極限まで感じない。おそらく両親はともに働きに出ているのだろう。
―――そんな真面目な親がいるのに、子があれでは不憫だろうね。
僕が持っている情報ではあれ以来、彼女は引きこもっているらしい。
近所では頻繁ではないものの、突然叫び声が聞こえたり、錯乱状態にあると噂されている。
まあ、後遺症だろうね。
彼女以外に誰もいないなら、僕は正面から突破するのみだ。
正面口の鍵を開けて、そのまま中に入って彼女の部屋を目指す。
コンコンコン
「……誰」
「零蘭颯二―――これでわかるかい?」
返事はない。
しかし、僕は答えを聞かずに中に入る。
「うるさい……」
「僕は何もしゃべっていないよ」
「うるさいのよ!って、あれ?」
「だから言っているだろう。僕はしゃべっていない。ところで質問に答えてくれるかい?」
「質問……?それよりあんた……」
「―――今の君なら答えられるはずだ。神代雄真―――この名前に覚えはあるかい?」
「神代―――誰?」
やはりか。
記憶の錯乱ではないだろうな。やはり僕の見立て通りだ。
ならおのずと答えも出る。
しかし、他のこともできるだけ聞いておくか。
「念のための確認だ。君たちの中学で、いじめが起きた場合話し合いには誰が立ち会っていた?」
「話し合い?私の時は、担任と学年主任と副校長だったけど……」
「そうか。ほかにその場でいじめの被害者と誰がいたんだい?」
「私、だけだ」
当人たちのみでの会話。
しかも、立会人には件の被害者たち。
もう確定でいいだろう。
これ以上のヒントはただくどいだけだ。
さあ、犯人のすべての動機を暴く時だ。
そう考え、僕は部屋を去ろうとすると、雨宮柚葉が僕に縋るように背中に抱き着いてくる。
「た、助けて!」
「君がこれから殺されることについてかい?」
「へ……?い、いや、違う!でも、ずっと頭の中に音が響いてるんだ!あんたからは何も感じない!だから、助けて!助けて、ください」
彼女は土下座する。その姿を見るだけで、僕は彼女を殺して排するべきだったと思う。しかし、これが花音の望んだ結末だ。
しかし、知らなかったな。覚醒状態からデバイスのみを破壊するとこうなるのか。
惨いことをするな。
「君の犯してきたことへの罰だ。甘んじて受け入れたまえ」
「い、嫌……お願い。もう有象無象の音が―――声が聞こえる。耳障りで、寝ようとしてもずっと聞こえてきて―――おかしくなる!」
「僕は君に興味がない。どこで苦しみ、どこでのさばろうと知ったことではない。どうしても救いを求めるのであれば、過去に力を求めてしまった自分を止めることだ」
「そんな……」
僕の言葉に絶望した彼女が崩れ落ちる。
だが、見向きもせずに家の階段を下りていくと、後ろの方から絶叫が聞こえてくる。
「うわああああああああ!」
その叫びは、僕たちが何度も聞いてきた叫び声だった。




