side02 言葉なき証拠
向日ヶ原という名前に覚えがある。
いつ見たかと言われれば、すぐに答えられるくらいには直近の記憶。
紀里谷花音―――彼女の所持する卒業アルバムに名前が存在していた。
どこに名前があったのか。それは彼女のクラスの担任の場所に写真と名前があった。
そこから判断するに、報道にあった向日ヶ原という男は、彼女にとって何の思い入れのない人物ということはないだろう。
だが、僕の出番ではない。報道されたということは、ただの殺人だ。
リアクトの仕業ではない以上、僕が関与する理由はない。
まあ、一般の殺人とはいえ、上半身が見つかっていないのは、中々に惨い事件と言わざるを得ない。
そんな僕の考えとは逆に、彼女の表情はどんどん暗くなっていく。
まあ、知り合いが死んでしまったのだから仕方ないだろう。
「大丈夫かい?」
「う、うん……やっぱり、まだ雨宮さんの件は終わてないのかな?」
「そう、とは言い切れないな。もしかしたら通り魔かもしれないし―――ただ、リアクトの関与している可能性はない」
「……やっぱり、警察が動いてるから?」
「ああ、報道までされているということはそういうこととだろう」
リアクトの事件は、この世界において立件できない。それは仕方のないこと。
ゆえに僕がそれを裁くだけ。目的はそこじゃないが、気にしないでほしい。
「でも……」
僕の言葉に対して、彼女は少しだけ反論しようとしてくるのがわかる。
「もしもだけど―――あまりに人目のつくところで起きて、それで、どうしようもないほど騒ぎが大きくなったとしたら?」
「ふむ……警察は不介入であろうとしても、民衆がそれを周知してしまう可能性か」
「そう、なんだけど―――あはは、そんなわけないよね。だって、颯二君のほうがリアクトのことに詳しいもんね」
彼女はあきらめたように言う。
もしかしたら、彼女はこの教職の人物に世話になったのかもしれない。しかし、彼女の性格上、そういうことがなくても、知り合いの関係性以下でも心を痛めてしまう。
彼女が危惧しているのは、リアクトの存在を知っているが故だ。
なら、僕が出るべきだろう。
「僕は前例がないからと可能性がないと、という結論は愚だと考えている。新たな法則性もあるかもしれない。ましてや、君の予想はあっているのかもしれない」
「じ、じゃあ……」
「できる限りのことはやろう。だが、期待はしないでほしい」
「ううん―――私、待ってるよ」
その言葉を聞いて、僕は店を出て、まずは現場へと向かっていった。
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報道にあった現場に到着すると、当然ではあるが、中が見えないようにブルーシートなどで覆われていた。
しかし、おかしなことに規制線のそばに警察がいれど、中の方に人の気配がない。
これは体裁上人が配置されているだけと考えるべきだろう。
あくまで確認のために規制線のそばにいた計sタウに質問をしてみる。
「捜査はしないのかい?」
「なんだ?話せることは何もない」
「そうかい。人の気配がないんでね」
「……休憩中だ」
警察はそう言うが、僕の目で嘘なのはわかった。
だが、そこは重要ではない。問題は、上空にある報道ヘリだが―――
視界さえ塞げればなんでもいいか。
考えた僕は一帯に霧を発生させる。壁や天井を作ってもいいが、さすがにそこまでの重量のものを広範囲によって展開するのは、力の消費が大きい。
というわけで、濃霧なのだ。
突然のそれに周囲は混乱するが、そのおかげで僕は規制線の中に侵入できた。
中には簡易的に上空からの視線を遮るためにいろいろなものにシートがかぶせられており、なにがあるのかは一見わからなかった。
だが、明らかに血飛沫が舞い、地面が赤くなっている場所というのはすぐに分かった。
おそらくそこが殺人の起きた現場だろう。
場にかけられていたシートをどけると、なかなかえぐいものがあった。
報道には上半身がなくなったという報道ではあったが、確かにそうだった。ただ、切断によるもの―――バラバラ殺人の類かと思えば、違うもの。
切断面は千切れたかのように乱雑な切り口になっていて、人の手によるものだとは思えない。
もうすでに死後硬直が始まっており、動かすことは難しいが、とにかく上半身の行方を探るべきだろう。
と、言いたいが、現場に飛び散る血飛沫で大体の予想はつく。
上半身が内部から破裂した。
それが、この現場の死体の答えだろう。
ことさらに、警察も実質捜査放棄状態となっている状況から、それらの情報を統合して得られる答えは一つ。
紀里谷花音―――彼女の出した予想は、的中してしまっている。
試しに、スマホでSNSを見てみると、モザイク有の現場の動画から、なしのものまで。
中学教師バラバラ殺人事件の名で、トレンドにまで入っている。
リアクトはこうなるのが目的だったのか、それとも突発的な衝動でことが大きくなってしまったのか。
僕には測りかねる。
だが、そうなっては放置もできない。
とは言っても、敵の能力はなんだ、というところから始めるしかない。
死体の損壊状況は、分断された下半身のみ。上半身は喪失。
その時点で考察は難しいが、爆破系の能力は多岐にわたる。例えば、『impact』や『bomb』などが考えられる。
他にも体の中に爆弾などを転移させるという能力も考えられるが、爆発物の残骸が見られないあたり、そういった能力の可能性は低い。
殺害現場はここで問題ないはず。血のとび具合や、移動させた跡がないのを見た感じは、だが。
少し情報をまとめたほうがいいだろう。
まず被害者の名前は向日ヶ原勇。高天市の公立中学校の教師。一応、花音の担当教師となった人物。
死亡理由は上半身の爆発―――仮に脳損失としておこう。
それ以外には特にわからない。
リアクトの犯行であるという以外には。
「どうしたものか―――ん?」
少し思案をしていると、僕のスマホが鳴った。
画面に表示されていたのは、紀里谷花音の名前。
「もしもし?」
『その、颯二君―――その、ニュースで……』
「次の被害者かい?」
『うん……今度は、伊吹修三―――私たちの代の学年主任だった人……』
「担任に続き、学年主任―――これは君の母校を狙った犯行の可能性が高いね。一応報道されてる限りの情報をくれるかい?」
『えっと、今度は頭部がなくなってたらしいの―――る、颯二君……』
「わかった。現場に向かう。後、念のため家からは出ないように。まだ犯人の狙いが絞れない」
『わ、わかった。る、颯二君も気を付けてね……』




