side01 貶めて裏切る最悪の言葉
戦闘を行った次の日―――
俺はなにごともなく学校に登校している。
相変わらず美晴が近くに座しているが、さすがに今日は彼女も友達付き合いを優先している。あんなのでも友人はいるんだな、と思ったところだ。
今は昼休みで、校内にある外のベンチに座って読書に更けている。
別に何かを求めて本を読んでいるということはない。ただ、時間を潰すために、暇つぶしをするために読んでいる。
さて、奴の尻尾はどうつかむか。どれだけの状況証拠であっても、万が一にでも人間だった場合ただの殺人だからな。
まあ、クズは死ぬべきとは思っているから、人間でも構わないのだが。
まあ、手出しがしづらい状況ではある。
この場で騒ぎを起こすのもはばかられるし、無用に俺の存在を知られるわけにはいかない。
たとえサバトを行っても、奴らが完全に消滅するとは思えない。
あくまで、静かにすべきだろう。
そう考えて、これからの動きを考えていると、俺のほうに近づく陰があった。
「おい、零陵一」
「……これはこれは、副会長様じゃないですか」
「なんだ、お前?馬鹿にしてるのか?」
「いいや、見下してるんだよ」
「っ!?い、いや、まあいい。ここで荒事にしてもいいことはないだろうからな」
もうその発言は、自分は高尚な生徒だと暗に言おうとしているようにしか聞こえない。
こんな奴に時間を割くのも嫌なのだが、こいつは粘着質だから言いたいこと言うまで、教室にまでついてくるだろう。
そう思い、奴の言い分を聞いてみると、あきれるものだった。
「お前、もう会長と関わるのはやめろ」
勝手な発言。俺の行動を縛ろうとするその言葉に、苛立ちは覚える。
俺が進んで関わっていると思われてるのなら、それこそ心外だ。
「なんでてめえに言われなきゃいけねえのかわかんねえけど―――そもそも俺から話しかけてもない。あっちが勝手に付きまとってるだけだろ」
「はぁ……?話を聞いてたか?関わるなって言ってるんだよ」
「……あ?なに言ってんだお前。沸いてんのか?」
さすがに俺も発言の意図を理解できない。
関わるなというのはまあわかる。だが、俺はそれに対して自らはしていないと言ったはず。
―――意味が分からない。
「会長は中学時代から―――いや、小学校時代から児童会に所属している。いわば高潔な人だ」
「だからなんだ?」
「そんな彼女にお前のような、不良生徒が関わっていいはずがない」
「つまりなんだ。会長の言葉を無視すればいいのか?」
「そうだ。お前のような素行の悪い生徒が近くにいれば、彼女の品位がさがる。彼女の将来に響く」
「ふっ」
「なにがおかしい?」
彼の言葉に俺はあざ笑った。
その態度が気に入らないのか、奴の額に青筋が浮かぶ。
「お前、紀里谷奈央のことが好きなんだな?」
「なっ!?」
「だけど残念。俺を遠ざけたところで、あいつの目にお前は映っていない」
「お前っ!」
「だが、まあお前のようなゴミ以下の人間に絡まれるくらいなら、関係は控えたいところだな。頑張れよ。振り向いてくれるようにな?」
俺はそれだけ言ってベンチを立った。
後に残された副会長がどんな表情をしているか知らないが、もう俺には興味ない。
奴が優しかったら、俺は会長とくっつけるように協力できたか?
残念。まず興味がないから、働きかけもしない。まあ、つまり、奴が会長と付き合える日は来ない。
イレギュラー?
あっても問題ない。人の心はそんなに簡単に揺らがない。そうであると認識している。
「やっほー。あれ、どうかした?」
「気にするな。凡骨に絡まれただけだ」
「なんかイライラしてる?本当に何があったの?」
「鬱陶しい。俺の近くにいるなら、静かにしてろ」
友達との食事は終わったのか、美晴が俺を見つけて話しかけてきたが、先ほどの話の余韻があった俺はあまり平時のようには話せなかった。
というか、なぜこんなに苛立っている?―――どうでもいいことか。
「とにかく教室に戻ろ?授業も始まっちゃうし」
「ああ、そうだな」
そうして俺たちは教室へと戻っていき、放課後まで時間を過ごす。
授業時間内では、特に何か問題が起こることはない。先刻のような特殊な事例でもない限り俺が出張ることはないはずだ。
まあ、そもそもあんまり頻繁にリアクトに出られても困るけどな。
「ハジメ、一緒に帰ろ」
美晴の言葉に応答して、俺も教室を後にする。
そこから校舎を出ていき、しばらくすると彼女は俺に話を振ってきた。
「昨日何があったの?」
「―――リアクトとの戦闘があった」
「大丈夫だったの?」
「問題ない。レベル5にすら到達していないゴミに負ける理由はない」
「レベル……?強くなる可能性はあるってこと?」
「なったところでだ。お前が心配する必要はない。それに、この件が片付けば―――」
「関わらないのはナシだよ」
彼女は強く否定してくる。しかし、俺がこの言葉を聞き入れるはずもない。
「お前を足切りからは守ってやる。不必要なことは教えてしまったが、知ったうえで自営できるように知識を与えただけ。継続的に関わろうという必要性は感じていない」
「……」
俺の言葉に彼女は強い憤りを覚えた表情で俺の腕をつかんだ。
その手に力が入っているが、俺に痛みを与えるほどじゃない。しかし、そこまでの力を入れているのにもかかわらず、彼女はなにも言ってこない。
ただ手を引いて、俺の家へと向かっていく。
自宅に着くと、彼女は俺を先に部屋の奥にやって、扉の鍵を閉める。意図が読めないまま唖然としていると、振り返って俺に叫んできた。
「馬鹿あああああ!」
耳をつんざくほどの大きな声。あまり近所迷惑となってしまうと困るのだが。
そんな俺の心配も知ったことではないとばかりに彼女は勢いよく俺に体当たりをしてくる。
彼女の力一つで倒れるわけもなく、ただ俺が彼女を受け止めてそれは終わる。しかし、猛攻は物理だけでなく言葉も追加された。
「馬鹿馬鹿馬鹿!―――馬鹿!」
「馬鹿、馬鹿というが、どちらかと言えば頭が悪いのはお前のほうだろう」
「そういうところが馬鹿だって言ってるのよ!」
「意味が分からないな」
発言の意図が理解できないままでいると、美晴は俺の胸倉をつかんで叫ぶ。
「どうして一人で!一人で居ようとするの!私がいるじゃん!少しでも事情を知ってる私が!頼ってよ……何かを解決することを期待してなくても、戦って、終わったら私が待ってくれてる。そんな風に思ってよ―――ハジメ、このままじゃ壊れちゃうよ……」
「わからないな」
「だから、他人から見たら辛すぎ―――」
「なんで俺が壊れてないと思っている?なんで、俺が今だけが辛いと、これから辛くなると思う?」
「それ、は……」
「お前の啖呵が、どれだけ響くと思った?笑わせるな」
俺の反論で彼女は一気に語気を失う。その程度でなぜ俺をどうにかできると思ったのかも謎だ。
「とっくに俺は壊れてる。お前の傲慢でものをしゃべるな」
「っ……でも、私だってハジメの力に―――」
「お前は俺のなんだ?」
「私は……あなたの何者でもない―――だけど、私はハジメが好き!だから一緒にいたい」
「……好きという感情に何の意味がある?そんなものはただ、貶めて裏切るための方便だ。その言葉を二度と俺の前で口にするな」




