side01 報いを以て
「おっはよー!」
「あ、お、おはよう―――その、もう大丈夫なの?」
「え、なんのこと?お母さんにもそんなこと言われたけど、なんかあったの?」
「あんなに落ち込んでたのに……どういうこと?」
そんなやり取りが校門前で行われているのを確認すると、俺は、すぐに校舎の中へと入ってった。
先ほどの生徒は、先刻の例の女生徒とその友人であろう人物の会話。本来の流れなら、あの徐瀬戸は登校すらしていないだろう。それをなんとかしたんだ。住居侵入は多めに見てほしいものだ。
「記憶を消したってことだよね?」
「まあ、そうだな」
「そうしないとまずかったんだよね?」
「まずい云々の前に、覚えてても仕方ない。それで生きるのが―――とか言われても夢見が悪い」
きわめて普通の意見であったはずだが、美晴は満足そうに笑顔を向ける。
なにが気に入ったのかわからないが、とりあえずこの組まれている腕をどうにかしてほしい。
夏が近づいていて、暑いのなんのって
そんな問いに、美晴が異変に気付いた。
「あれ?会長がいなくない?いつも、校門前で鬱陶しいくらい挨拶運動してるのに」
「あれが仕事なんだろ。言ってやるな。ただ、確かに彼女の姿を見ないな」
「休みなのかな?噂だと、今まで皆勤賞だったらしいけど」
「体調崩すことくらい誰にでもある。それに、お前と会長に関してはあれにも巻き込まれている。立ち直れない状況にいてもおかしくはない」
「でも、あの人は一の手を―――」
「怪物の手をどう取ればいい。そんなことは普通の感覚だ」
「でも―――」
「美晴のように手を取ってくれるのはうれしい。だが、全員にそれを期待しているわけではない。それを理由に、差別的に接することもない」
「一がそれでいいなら、私からはもう言わないけど……」
釈然としないながらも彼女は言葉を飲み込む。
ここで何を反論しようが変わりのないことに、理解が及んでいないのかもしれない。
俺はあくまで他に干渉はしない。付け入れば、それだけ情が生じる。
いつかそいつを殺すことになるかもしれないのに、そんなことはできない。
誰しもが、リアクトに触れる可能性は誰にでもあるのだ。
教室に入った後は、特に何もない。それどころか、放課後まで何も起こらずに時間だけが過ぎていった。
そんな折、いろいろと考えたのであろう美晴が俺に提案をしてきた。
「ねえ、会長の記憶を消さないの?」
「……秒でやったから説得力が薄いかもしれないが、あれは力の受け手側の受容性に依存する。あの女性とは、記憶の破壊との相性が良かったんだ」
「じゃあ、会長は?」
「行間を読め。暗に相性が悪いと言っているのがわからないか?」
「それはそうだけど、そんな言い方はないでしょ」
「お前はどう思おうが知ったことじゃない。むしろ、かえっていなくなってくれたほうが助かるんだけどな。とにかく、会長はなにが原因かわからないが、俺との力の相性が悪い。少なくともあの徐は、リアクトの攻撃の影響はあっても、俺自身が彼女の体に干渉するのは難しい。まあ、やろうと思えばできるくらいだな。疲れるけど」
まあ、少し思い当たるところが―――いや、そんなはずはない。
そうでなければ、俺はなんのために……
彼女の周辺情報から、世界調律の被害を受けているのは確実だから。
それで、彼女が―――だというのなら、あそこまで苦しんだ理由がない。いや、薄れるだけか。だが、俺の頑張りがほぼなかったことになる。
「一?」
「気にするな」
放課後、俺はすぐに自宅に戻る。
最近は、美晴がついてくるのが非常に面倒だが、おおむねいつも通りに過ごしている。
先刻の不良集団の調べは進めているが、尻尾はなかなかあらわさない。
やはり頭が回るのか、あの一軒以降は鳴りを潜めている。それでも下っ端は事情を知らないのか、俺に喧嘩を吹っ掛けてくる。
まあ、どうであれ返り討ちにすればいいだけ。話が通じなければ、死ぬ一歩手前まで痛めつければいいんだ。どうせ、社会のゴミだ。間違って死んでも、誰も困らん。
「しかし、どうすればいいかな……」
「どうしたら―――ああ、グループの頭目のこよ?悪いけど、私も顔は見たこと無くて―――というより、私、あのグループの人たちの名前、ほとんど知らない」
「肉体関係はあったのに、最高に面白いことを言うんだな。まあ、興味はないけどな」
「む……間違ってたのは認めるけど。私だって、ああしないといけなかったんだよ」
「事情がどうあろうと知ったことじゃない。お前の元カレは力に手を伸ばして、お前は俺をだまそうとした。守ってもらえるだけ感謝しろ」
「守って―――こう言っちゃなんだけど、もう私を守る意味なくない?」
「馬鹿か?相手は周到だ。官営者が皆殺しにあっているのなら、どこかからか情報が漏れるのを恐れていてもおかしくない。そうなれば、頭目が生きている以上、お前は安心して日常を迎えられると思うなよ」
「うぅ……やっぱり、あんな誘いに乗るんじゃなかったなあ……」
彼女は後悔したような姿を見せるが、それもそうだろう。
彼女は典型的な高校デビューという奴なのだが、そこでそういった世界にあこがれるあまりに不良グループに入る形で処女を脱してしまった。
言うに堪えないあほな行動だが、道がふさがれている人はそういったこともでするのだろう。
俺が批判していい理由はどこにもないのだろう。
「だからこそ、頭目の排除は迅速に行わなければならない」
「どうするの?」
「少し試したいことがある。少し、物語に倣ってみるのも悪くない気がする」
「物語?滅茶苦茶言い始めたんだけど……」
こいつは馬鹿にしているが、もしかしたらということもある。
そういった話は案外人間心理に基づいていたりする。本当にあまり期待していい話でもないが、あり得るという根拠もある。
正体はあんまりはっきりしていない以上は、そういった方法に頼るしかない。正直、一刻を争う状況ではある。楽観的に話しているものの、美晴に危険が迫っている。
奴らは必ず彼女を殺す。
いや、俺ならそうする。少しでも組織を知る人間なら必ず対処する。それが、脅しでも取引でもない。ただ、単純な殺しという名の暴力によって。
「一?」
俺は守ることに決めている。約束だからだ。




