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49話 正しいインゴットを求めよ

 あれから捜索隊が結成され、数時間だけだが探してもらった。

 もちろん大輔は見つからず、報告をしてきた兵士がやる気がなさそうに「どこにもいません」とだけ報告してきた。


 ──腹立たしい。


 いかにもやる気のない態度はもちろんとして、大輔の重要性を誰も理解していない。


「ささ、エトランゼ殿は(はよ)うアード山へ向かわれるとよろしい」


 一見、話のわかりそうな好好爺を演じていた大臣は、捜索をすぐに打ち切ってしまった。


「ショウジ、行こう」


 エリカに制服の裾を引っ張られ、火の国を後にする。


 * * *


「……くそうっ! なんで誰も大輔を本気で探してくれないんだ!

その癖、俺には動くなとか、山へ行けとか、勝手な事ばっかり言いやがって!」


 既に歩き始めて1時間。

疲れと怒りで、口からは愚痴がとめどなくこぼれる。


「ごめんね、本当はあたしももっと強く言いたいんだけど……」


 エリカが悔しそうに歯がみしながら言う。


「あ……悪い、エリカを責めてるとか、そういう意味じゃないんだ」

「……」


 慌てて取り繕った俺は、いつもの調子でエリカを呼び捨てにしてしまった。

 きつい視線がお付きの二人から寄せられる。


 しまった、そういえば王女様だったんだよな、全然そうは見えないけど。

 無言の圧力がこええ~。


「そ、それより、傾斜が急になってきたけど、ここもう例の山なのかな?」


 慌てて話題を逸らす。


「うん、ここはもうアード山……。

 大臣の話では、レーラ盗賊団っていう盗賊が支配する土地だよ」


 盗賊か、いかにもありがちな悪って感じだ。


『主よ、足元だ』

「えっ」


 突然のエトランゼの声に反応した時には、手は自然と動いていた。

流れるようにエトランゼを腰から引き抜き、エリカの足元を狙った矢を切り落とす。


「きゃっ」

「エリカ様!」


 慌てて駆け寄るお付きの一人、セリ。

俺が神器を手に入れるまでよく守ってくれていた人だ。

今は、エリカの守備に注力しているが……。


 そんなセリの守備を搔い潜って、足元に矢を放つなんて、そうそう出来る事じゃない。


()()()奴がいる……。

エトランゼ、敵はどこにいる?)


『近づいてきている。だが敵意はないようだ』


「誰かが、近づいてきてる。敵意はないってエトランゼは言ってるけど、気を付けてくれ」


 オレの言葉に、目だけで肯定の意を示すセリとラクチャ。


 やがて、一人の男の姿が崖の上に現れた。


「火の国から来た神器使いか──!」


 ここはオレが出るべきだろう。


「そうだ──!

話がしたい、誰か偉い奴と話をさせてくれ──!」


 いきなり神器を返せと言っても聞いてくれるわけがない。

敵意がないというなら、せめて話ができるよう持っていこう。


「──上がってこい! 中腹にある洞窟の前で待っている──!」


 よし、とにかく話はできそうだ。


「エリカ様、罠という可能性もあります」

「そうよね……ショウジはどう思う?」


「敵意がないと言ったエトランゼの言葉を信じるよ。

この矢だって、よくよく考えてみれば、エリカに当たりそうで当たらない位置だ。

多分、いつでも狙えるぞって力を誇示して、優位に立とうとしてるんだと思うぜ」


 少し驚いた表情のセリとラクチャ。

それに対してエリカは「ふふ」と少し笑って。


「……うん、あたしもショウジを信じる」


 と再び歩き出した。


 ──しばし歩き、山の中腹へ差し掛かると、確かに大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。


 まるでドラゴンでも住んでいそうな雰囲気に、久々に胸が高鳴るのを感じる。


 これでドラゴンを飼ってたりしたら、益々テンション爆上げなんだけどなぁ~。


 なんて事を考えていたら、洞窟の中から数人の男たちと共に薄汚れた姿の美女が姿を現した。


 むっ、こいつら、女性に乱暴したのか? 許せん!


 まあ、それは大きな勘違いであったのだが。


「よく来たね、火の国の神器使い。

あたいはレーラ。このレーラ盗賊団の団長さぁ……」


 なんと、この薄汚れた姿の美女が、盗賊団の団長だというではないか。


 俺の後ろでは、セリとラクチャがハルバードを構えている。


「おっと待ちな。そっちに神器もあるだろうが、こっちにも神器はある。

しかも神弓アルメティアがね。知らないわけじゃないだろう?」


 いや、オレは知らねー。


「何もこのままやりあおうってんじゃないんだ。

腕前はともかく、おつむの方はどうかってね」


「何をさせようっていうの」


 エリカがセリの後ろから顔を半分だけ出して強気に発言する。

 くっ、絶妙に迫力がない。むしろ可愛い。


「あたいら、とある貴族から金塊を奪ってきたんだけどね……。

見てみな」


 と、男達が運んできたのは、見事なインゴットの束。

 縦11センチ、横5センチ、高さ1センチといったところか。


「どうもこのインゴット、偽物が混じってるみたいでねぇ。

偽物を本物と偽ってルートに流した日にゃ、あたいらの評判は丸崩れってわけだ」

「意外と信用を大切にしてるんだなー」


「そりゃそうさ。ただでさえ盗賊団なんていかがわしいところから、盗品を買い取る奴なんて、闇の商人でも案外いないものなんだよ」


 知らなくても生きていけそうな情報を饒舌に語るレーラ。

いつの間にかオレとレーラはお互いインゴットの束を囲むように座っているほど、距離を詰めていた。


 不思議と危険な感じはしない。この人は、案外義賊みたいな人なのかもな。


「そこでだ。この中から本物のインゴットだけを選別して欲しい」

「……よく偽物が混じってるってわかったな?」


 ふと思った疑問を口にしてみる。


「まあね。金管理をしてる奴が、なんか重さが違う気がするっていうんだ。あたいらもそいつには信頼を置いてるから、このまま流すのは危険だって話になったわけさ」


 なるほど、と思う。

 見た感じ、純金のインゴットのようではあるが、不純物が混じれば重さが変わるのは必然。

 なら、やる事は簡単だ。


「ちょっと、用意してもらいたいものがあるんだ」


 * * *


「ショウジ、言われた通り用意したが、こんなもので何をする気だ?」


 レーラがいぶかしげに、オレの前に並べられたものを見て首をかしげる。

エリカも興味津々にオレの動きを見つめている。


 オレが用意してもらったものは、複数の水筒、桶、そして本物のインゴットだ。


「まず、本物のインゴットを片方の水筒に入れる」

「おいおい、そんな事したら……」


 レーラの言わんとする事が目の前で事象として起こる。

目いっぱい水の張った水筒にインゴットを入れると、水筒からは水がこぼれた。


 この水は桶でこぼさず拾っておく。


 同じようにもう一方にもインゴットを投入。

当然、水が溢れ……。


「ああ、やっぱり溢れた」

「えっ、ちょっと待って!」


 何かに気付くエリカ。さすがだな。


「こぼれた水の量が、こっちの方が多い!」

「な、なんでだ!? 同じインゴットなのに!」


 ふっふっふ、日本の大学生をなめるんじゃない。


「これはアルキメデスの原理といってだな。

物体には体積というものがあって、水に入れるとその浮力が……」

「すごいすごーい!」

「すげえな、これは!」


 どぷんどぷんと用意された水筒に次々に入れられていくインゴット。


 おい、オレの説明を聞けよ。


「ショウジ、ありがとう、助かったよ!」


 突然、手を握られ、ぶんぶんと振られる。


「むふふ」


 レーラの瞳が怪しく光る。


「おつむの方は文句なしに合格だ。

次は、戦いのウデだな。……カゲハ!」


 レーラが声をあげると、崖から滑るように降りてくる一人の男。


 おいおい、あんな急斜面を滑ってくるなんてマジか。


「……」


 一見、華奢だが無駄のない筋肉のついた屈強な男がレーラの隣に立つ。

遠くを見ているような、全てを見透かすような、目が整った顔についている。


 そして浅黒い肌、手に持った豪華な弓。


『アルメティアだ』

「アルメティア?」


 オレがふと声に出すと、その男はこくりと頷き、レーラが説明する。


「神弓アルメティア。今はこいつが使い手さ。

うちで一番の腕っこきの、カゲハってんだ。

炎狼のカゲハといえば、それなりに有名なんだよ」


「炎狼のカゲハ……」


 その言葉に反応したのは、バーサーカーのラクチャだ。

今にも自分が飛び掛かりそうな雰囲気を出している。


「やめておけ。おれの相手は神器使いにしかつとまらん」


 カゲハがラクチャを制する。


「そういうわけだよ、ショウジ。

カゲハと戦って、カゲハが勝てばお前達の話を聞いてやろう。

カゲハが負けたらあたいをやる」


「「え?」」


 一瞬意味のわからない提案をされ、混乱するオレとエリカ。

すぐさまその場から離れたレーラに気付き、エリカを連れて離れるセリとラクチャ。


 外野から野次を飛ばす盗賊団の男達。


 なんでこうなった……?


『主、くるぞ!』


 よくわからないうちに、カゲハとの対決が始まった。


 

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