48話 その時、大輔は
身体を抱えられ、運ばれている。
歩様に合わせた規則正しい振動が覚醒を促した。
「……!」
俺は同じ顔をした女たちに抱えられていた。
手足は縛られ、抵抗も空しい。
「気が付いたか」
俺を運んでいた一人がそう言うと、四人は足を止めた。
一糸乱れぬ歩様に、少々の不気味さを感じながらも、脳の一部は納得のいく回答を出していた。
──同一人物。
「マリエル=サンダー……」
「覚えておいてもらえて光栄だ、ダイスケ」
「我が好敵手よ」
「しかしお前をこのような形で連行しているのは私の趣味ではない」
「一方的にだが、頼みがある」
四人のマリエルが口裏を合わせたかのように次々と話し始める。
サラウンドで流れる同じ音声は、アーケードゲームで流れるボイスのようにある種不気味で、おかしなものであった。
「一方的な頼み、ね。とりあえずこの縄を外してもらえないか」
無理だろうとは思いつつも口に出してみれば、マリエルの一人は静かに縄を外しだした。
なんだ、どういうことだ?
逃げるとは考えないのか?
それとも逃げられても捕まえられる、という自信があるのか。
「頼みをしようというのに縄で縛るとは無礼であった」
「状況を把握する前に逃げ出されては困るので一時的に拘束していた」
「「すまない」」
どうやらこいつには、こいつなりの理由があるようだ。
「……わかった、話を聞こう」
「私は新興国バジャーへ急襲の予定だ」
「一騎当千などと呼ばれているが、お前も知っての通り、神器には限界がある」
「そこで神槍の使い手であるお前の力を借りたい」
「……借りたい」
最後の一人、しゃべることないなら何も言わなくていいだろう。
「だが今の俺は見ての通りイグザガルードは持っていないぞ」
「存じている」
「お前の消えた戦い以降、神槍は新興国のサクスが回収していったのだ」
「隠の国は滅んだ。賢王ゲッフェンが隠の国のすべてを焼き払い、月の国に何も残さなかったのだ」
「あれだけ暴れたにも関わらず、月の国はあの戦争で何も得られなかったというわけだ」
なるほど。イグザガルードは新興国にあり、月の国は疲弊していると。
「聞き取りにくいから、一人だけで喋ってくれないか」
「む、そうか」
マリエル=サンダー。
武人としては頭ひとつ抜けているが、性格は少し抜けたところのある奴のようだ。
「戦争により月の国は疲弊した。多くの鋼鉄兵を失い、その鋼鉄兵を支えていた新興国からの援助も打ち切られたのだ」
「急にか」
「神槍を持ち帰ったからだろう。もはや我が国など取るに足らぬということだろうな」
ギリリと歯噛みするマリエル。
「我が国には、もはや後がないのだ。
遠く光砂の国からは今も軍が送られてくるという情報が飛び交い、弱体化した今、ふたつの神器を擁する火の国からも攻められるとの噂が飛び交っている」
明らかに情報が錯綜している状況だ。
何らかの手が入っている証拠だと思うが、こいつにはそこまで考える力はないらしい。
「そこで私は女王に進言し、火の国を経由して新興国へ潜入する策を奏上したのだ」
「そして新興国へ向かっている途中というわけか。
火の国に攻め込んだのはなぜだ」
「……神器を奪うためだ。神弓アルメティアか、魔剣エトランゼのどちらかが入手できればと思ったが、少々予定は狂ったがな」
魔剣エトランゼ……?
どこかで聞いたことがあるような気もするが、俺には関係のない神器だ。
それより気になるのは、予定が狂ったという点。
「予定が狂った、とは?」
「どちらの神器も既に使い手がいた。入手には失敗したのだ」
なるほど。
「だが、新興国に神槍があることは確実。
神槍使いであるお前がいれば、入手が容易になると考えたのだ」
「イグザガルードを手にした俺が敵に回るとは考えないのか?」
「神器使い同士で暴れまわっている時ではない。
世界の統一などという馬鹿げた支配をしようとしている二国を止めることが最優先だ」
「世界の統一……?」
「知らんのか。光砂の国と新興国バジャーは、それぞれが世界の王たる者としてこのグランゼートをひとつに束ねようとしている」
「それ自体はいいことなんじゃないか?」
「冗談ではない!」
突然憤るマリエル。
「王たる聖者がいるとすれば、我が国の女王を置いて他にはいない。
慈愛に満ちたあのお方こそがこの世界を統べるに相応しい。
……が、あのお方は国の統一を否定なされた。
各国は特色があるからこそ良いのだと。
素晴らしいお方だ……!」
そういうもんかね。
日本でも天下統一前はそういう意見もあったかもしれないが、現代日本は平和そのもの。
地球にある196ヶ国のうち、ベストテンに入る程には平和だと思うが。
「話を戻すが、ダイスケ。お前は神槍を手に入れ、生き延びてさえくれればいい。目下の目的は新興国の勢いと戦力を削ぐことにある。
万が一、新たな主が神槍に現れれば、本当に世界を統一しかねない」
確かに神器の力は偉大だ。
イグザガルードだけでも身に染みるほど知っているのに、マリエルの持つミラージュロードに、もうひとつの神器まで加わったと想像すると、国が滅んでもおかしくない。
「ここまでの話を聞いて質問などはないか」
マリエルが形式上、問うてくる。
形式上とはいえ、このチャンスを利用しない俺ではないが。
「いくつか聞きたいことがある」
「……なんだ」
質問が予想外だと言わんばかりに露骨に機嫌を悪くするマリエル。
「まず火の国についてだ。お前は神器の奪取には失敗したといったが、新しい神器使いに負けて逃げてきたんだな?」
「一々腹の立つ言い方をするな、その通りだ」
「2年前の話になるが、そこには光の国のユリネ王女たちもいた。その人たちはどうなった?」
「知らんな。戦場報告によれば隠の国の民はほとんどが自決、もしくは亡命し、王族は賢王ゲッフェンの死体のみが確認されている」
そうか、生死不明か。
ん? ゲッフェン王のみの死体が確認されている?
それじゃ、ルドルフ王子は?
「ルドルフ王子はどうなったんだ?」
「行方不明だ。しかし、魔剣エトランゼだけが火の国にあった事から、火の国内あるいは、その近くにて生存している可能性はある」
魔剣エトランゼ……そうか、ルドルフ王子の使っていた神器だ。
「神器使いが複数選ばれる事はあるのか?」
「ある。だから神槍の新たな使い手が見つかる前に、お前の手に取り戻してもらいたいのだ」
「俺が新興国についたら?」
「ありえないな。万が一そうなったら私は愚かな自分の目を抉ろう」
こいつなら本気でやりそうだ。
新興国というところはよほど酷いところらしい。
「また、この作戦が上手く行ったら見返りも考えている」
「見返り?」
「お前が望む地位を月の国で与えよう。客将などという使い捨ての身分ではない、きちんとした爵位だ」
「……悪くはないが、それだけじゃな」
「欲の皮の突っ張った奴だな、身を滅ぼさねば御しやすいとも言えるが」
「ユリネ王女を探してくれ。正確にはユリネ王女を含む4人だ」
「……人探しか。
王女を手土産に光砂の国にでも戻るつもりなのか?」
「王女の無事を確認したいだけだ」
「2年も経っているのだぞ」
「……わかってる」
2年。2年間もの間、行方不明。
一国の王女であった若き女性が、どうやって生き延びるというのだろう。
だが、俺自身も不思議ではあるが、どうしても彼女を探したいと思っていた。
理由は……わからない。
「いいだろう、月の国の人手は少ないため、長期に渡る人探しはできない。だが、私が個人的に手を貸す。鏡剣の力はお前も身に染みているはずだ」
「ああ、わかってる」
「最後にひとつ」
「まだ何かあるのか」
「ユリネ王女以下4名の捜索には、命の保証と待遇の保証をしてくれ。
見つけたけど抵抗されたので死体にしましたじゃ許さん」
「そんな事か、いいだろう。最低限客人としてもてなすよう尽力しよう」
「……ありがとう」
お礼、か。
他人にお礼を言ったのはいつぶりだろうか。
俺が礼を感じるのはほとんど頌路に対してのみだ。
それ以外で異世界人に礼など感じたことがないのに。
「行こうか」
いつの間にか分身を消していたマリエルは、座り込んでいた俺にその左手を差し出していた。
この手を掴めば、同盟結成だ。
「マリエル」
「なんだ、女の手を借りるのは不服か」
「違う」
俺はマリエルの左手をしっかと掴み、立ち上がる。
「よろしく頼む」
改めて頭を下げると、マリエルは口角をあげて、にやりと笑い「フッ」と失笑していた。
「こちらこそ、だ」
神器使い同士の共闘が、ここに成った。
目指すは新興国バジャー。
目的は神槍イグザガルードの奪還!




