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何度も異世界に強制召喚されるせいで毎回失踪扱いになる俺の真実譚  作者: モノリノヒト
終章 世界の法則の彼方で
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47話 王なき火の国

 ──クマソ王、暗殺さる。


 火の国に突如として訪れたそのニュースは国民に悲しみと共に伝わった。


 夜半に乗じて行われた月の国の侵攻。

生存者の証言には奇妙な食い違いがあり、同一時間帯に“同一人物が複数の地点で目撃された”という報告すら存在した。


 ただし、混乱した戦場の中で情報は錯綜しており、正確な侵入経路は未だ確定していない。


 それでもなお、複数の証言を統合した結果、恐らく犯人は月の国の神器持ち、"一騎当千"マリエル=サンダー。


 彼女と神器の能力によって、侵略に見せかけた暗殺は行われたのだ。


 情報が整ってくるにつれ、明らかになっていく事実。


 アード山を越えようとした一団は全滅したとの報告であったが、ほとんどはマリエルの分身と吸収された自国民であった可能性が高いとのこと。


 マリエルはアード山を大軍で越える事が不可能であることを知った上で、本隊とされていた大軍を陽動に使い、分身が可能な自身一人でアード山を通過。


 アード山を越えられないと高をくくっていたクマソ王の暗殺に成功し、今は火の国のどこかに身を隠している可能性が高いとされていた。


 オレはといえば、"持つ者に力を与える魔剣"エトランゼに選ばれ、その神器の力に酔いしれていたが、マリエルとかいうあの女の神器とその行動に度肝を抜かれていた。


「チートじゃん……」

『一騎当千の二つ名は伊達ではないということだ』

「一騎当千って、一人が1000人に増えるって意味じゃねーんだけど」


『かの神器にはそれだけの能力があるということだ。

何、奴らが何体で来ようと我らには敵わぬ。

それは神器を造りし神によって定められた絶対の相関関係。

キムラよ、主がより強く、より深く我の力を引き出せば、恐れるものはない』

「ふーん」


 一騎当千は確かに凄い力だが、オレをここまで戦えるようにしてくれたエトランゼも負けてはいない。

 オレにしか聞こえていないようだが、喋る剣なんて如何にも異世界チートらしいし、現にあれだけの敵を倒したのにオレは無傷だ。


 いつの間にか朝日が差し込み、城内を慌ただしく人が行き来する。

 王が殺害され、後継者もいないらしいので、当然といえば当然か。


 そんな光景をどこか他人事として捉えていた。

 こういうところはオレの出番じゃない、というか。


「いやじゃ、いやじゃー! エリカにでも任せればよかろー!」


 ビキニ姿のロリババアが生き残った神官に連れ去られている。


「エリカ王女に王位を譲るなどとんでもない!」


 そりゃそうだ。

 王女であるが故に資格は高いとはいえ、エリカが継いでしまったら、火の国は光砂の国の傘下に入るようなもの。


 どうやらこの自称大賢者は王の後釜に据えられようとしているようだ。

 考えてみればこれほど最適で頼れる人物もいないと思えた。


「臨時ですから! 後生です! どうか!」

「いやじゃ、いやじゃぁ! そこで見ておるショウジ、何とかせい!」

「や、専門外なんで」


 悪いな、内政チートは持ってないんだ。


 その後も「いやじゃ、いやじゃ」と駄々っ子のように繰り返しつつも身体は少女である大賢者は、神官に連れられてどこかへと連れ去られていった。


「……もしあの神官が敵だったら、火の国、詰んでるよな」

『そうだな』


 ふと思い立ったとんでもない思考。


『だが案ずるな、それは考えすぎというもの。

奴からは神器の気配を感じない』

「なるほど、分身ではない、と」


 どうも一癖も二癖もある異世界小説を読んでいたせいか"オレならこうするのに”といった思考が身についてしまっているようだ。

 そんなゆとりが持てたのも、この魔剣による圧倒的な戦闘力のおかげだが。


 魔界じゃそんな余裕はなかったからな……。


「……で、オレたちこれからどうしたらいいんだ?」

『我に聞くでない』


 * * *


 軍議の間では、引っ張って来られた大賢者を含めた生き残りの重鎮たちと、エリカたちが議論をかわしていた。


「ですからっ!今は火の国を建て直す事が最優先だと申し上げているのですっ!」


 エリカの怒声。


「そうじゃそうじゃ!政情を安定させ、新興国および月の国からの再侵略に対抗する手段を講じるべきじゃ!」


 大賢者がそれに続く。


 だが。


「そんなことよりクマソ王の跡を誰が継ぐか、ですよ」

「そうですとも。名君の跡を継ぐのは大賢者さまを差し置いて他にはおられますまい」


「……しかし」

「その大賢者さまが辞退なさるならば、その間、臨時統治権は我々で分割すべきかと」


 クマソが名君であったことは余りにも有名だ。

 しかし、優秀過ぎる指導者は、後進の育成を阻むことにもつながる。


 残ったクマソの神官・政務官たちは、誰も政情を憂いていない。

 クマソの残した遺産、火の国の後釜だけを狙っていたのだ。


 そこで絶対に断られることを承知の上で大賢者を担ぎ上げ、その上で自分たちを後継者に選ばせようと、奇しくも全員が画策していたのである。


「火の国はもはや安定を欠いた砂の城じゃ!

大事なのは"誰が"ではなく"何をするか"じゃろうが!

……と言いたいところじゃがな」


「ふむぅ、大賢者様は理想をご存知のようですが──現実は少々違いますな」

「国には顔が必要です。それには"何か"より"誰が言うか"が重要なのです」

「左様。命令は"正しいから従う"のではなく、"従わせる者がいるから従う"もの」


「ぐっ、この、こやつらめ……!」


「故に諸国でも噂に名高い大賢者殿であれば、誰も文句は言いますまい」


 仮に大賢者がYesと答えようものなら、大賢者の排斥を考えるだろう。

もちろん、Noであればエリカたちを除いたこの中から次代の者を選ばせる。


 それがわかっているが故に、大賢者としても安易な返答ができないのだ。

 しかし、情けなくもこれが名君クマソ王の育てた臣下たちなのである。


 優先すべきものが違う。

 見ているものが違う。

 エリカでさえ、そう感じているこの雰囲気の中、大賢者の出した結論とは。


「よ……かろう!」


 バシッ!


 軍議用の机を強く叩き、大賢者が大きく息を吸う。

 全員が固唾を飲んで見守る中、大賢者の返答は……。


「火の国には現在ふたつの神器がある。

ひとつは魔剣エトランゼ、これは異世界からの召喚者ショウジが選ばれておる。

わしとエリカを敵に回さねばエトランゼは戦力に数えられるじゃろう」


 言外に自身とエリカに手を出せば神器が敵に回ることを告げる。

 それを察せないほど彼らは愚臣でもない。


「もうひとつの神器、神弓アルメティアは奪われたままじゃ。

これを取り戻してきた者が、新たなる王じゃ!」


「な、なんですと!?」

「我々に死ねと申されるか!」


「だまらっしゃい! 元々火の国の神器である神弓が、現在国にないことがそもそもの問題なんじゃ!

奪われた事にお主らの責任がないと言えるのか!」

「し、しかし、神器は使い手を選びますが故」


「ほほう、つまり使い手が外国の者であっても構わぬ、という言い分じゃな?」

「そ、そんなことは言っておりませぬ!」


 確かに現在、神弓アルメティアはぎりぎり火の国にあると言っていい。

 諸外国にも火の国はふたつの神器を持っていることで知られている。


 ただし、神弓が動くかどうかは、()()の気まぐれに過ぎず、山を経た月の国からの侵攻にしか対応しないだろう。


 クマソ王が崩御されたことが知られれば、新興国から攻め込まれることは十分に考えられる。


 仮にも新興国は3()()の神器を擁しており、神器一本でバランスの狂うこの世界では、新興国こそが最も世界の覇者に近いと言えた。


「とにかく一刻も早く地盤を固めねば。そのために神弓は必要じゃ!

使える神器がふたつあるならば、それだけで戦局を大きく覆す事ができる。神器を所持し、神器使いを操れるのであれば王としてふさわしい器じゃろう!」


 王として相応しい器……そう言われれば、神官・政務官もぐうの音も出ない。


 この世界では神器を持つ者こそが正義であり、勝者なのだから。


 使用可能なふたつの神器を擁する国は現在新興国のみ。

 最も国土が広い国は光砂の国ではあるが、神器がふたつあれば月の国を奪い、光砂の国を併合する事も容易いだろう。


 だが、大賢者の狙いはその先にあった。

 神弓を取り戻す……今いる神官・政務官の誰もが、決して成しえないであろうことを、成しえる人物。

 その者を王位につかせるために。


「エリカ。お前も参加せよ。

見事神弓を取り戻した暁には、お主が火の国の女王となるがよい」


「「「「「ええええええええ!?」」」」」


 神官・政務官はもちろん、エリカ本人も驚愕していた。


「なぁに、()()()()()、お主が女王となった際には、わしも腹をくくって後見人、相談役に収まり知見を与えてやろうぞ、ファファファ!」


 もちろん反対の声が起きることは想像に難くなく……。


「万が一とはおっしゃいますが!

もしもの時は光砂の国に頭を垂れろというのですか!」

「なぁに、エリカは第二王女じゃ。クマソと内縁の妻でもあったことにしておけばよかろう」


「そんなむちゃくちゃな!」

「ゴート王の怒りも買いますぞ!」


「エリカよ、お主、光砂の国に戻りたいのか?」

「それは……」


 それはある意味必然である質問であった。

 そして答えもとうに出ている。

 国を出る、と決めたあの時から。


「いいえ、今の光砂の国は何かがおかしいのです。

あたしがいてもいなくても、あの国は変わらない。

放っておけば、火の国も侵略されるかもしれません」


「……」


 光砂の国という大国の第二王女エリカ。

 その口から語られる内容は、決して子供のいたずらですまされるものではない。


 それだけの重みをもった言葉を、その場の誰もが感じ取っていた。


「……ま、そういうことじゃ。

エリカは光砂の国とはなぁ~~んも関係がない。

何よりクマソの育てたお主ら優秀な臣下より先に神弓を取り戻すなど、とてもとても」


 大賢者の煽りに反応してしまう者が現れる。


「そこまでおっしゃるならば」

「神器を束ねる者こそ王に相応しい」

「ただし、大賢者殿も誰か一方に肩入れなされるなよ」


 それは彼らなりの精一杯の譲歩だったのであろう。


「おっと、すまんの。大事なことを聞き忘れておったが……。

エリカよ、お前の気持ちはどうなんじゃ?」


「……はい。あたし、流浪の民も同然のあたしたちを受け入れてくれたクマソ王に感謝しています。

そんなクマソ王が守ってきた大切な火の国を、あたしも守りたい……!」

「立派な子じゃ。お主らも見習うとよいぞ」


 軍議室という小さな部屋で、まばらな拍手が鳴った。

 この時、エリカの運命は大きく変わったのだ。


 そして、それは同時に頌路の運命も大きく変えることとなる。


 * * *


「……というわけでな、ショウジ。お主はエリカについて行っておくれ」


「えっ?」


「お姫様を守るナイトの役じゃ。そうそう得られん役得じゃぞい、ファファファ!」


 暇を持て余していたオレは、軍議の間から出てきた、湿気たツラをした面々を眺めながら、知り合いの顔が出てくるのを待っていた。


 そこで最後に現れたのが、エリカとロリババアである。


「お願い、ショウジしか頼れないの!」


 ドキリと胸が高鳴る。


 頼まれる事がこんなに怖いだなんて、今までの人生ではありえなかった。

 思い出す天使との闘い。リトちゃんの笑顔。最期の、顔。


 だが……、今のオレには力がある。

 魔剣エトランゼ。

 この世界の神器の一本。


「わかった、オレでよければ」


 熟考の末の結論である。


 この神器が手にある限り、そうそうオレは負けることはないだろう。

 だが、油断してはならない、神器を持ってしても負けることはあるのだから。


 そう考えた時、オレらに良くしてくれているエリカを裏切る気にはどうしてもなれなかった。


「ところで……」


 ()()()に良くしてくれてる……あれ?


「なぁ、大輔、どこに行ったか知らねえ?」


 


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