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46話 頌路と神器

「力が、欲しいッッ!!」


 生き残りたい、生きていたい、死にたくない!

 こんなところで、終わりたくない!


「っ……しまった! ()()()()()だったかっ!」


 人殺しの女が何か喚いている。

 いつの間にかオレの手には、反り返った刀身の剣が握られていた。


 三日月刀……?


 しかしその剣は、まるでオレの手にあることが自然であるような、しっくりとした触感で、手に吸い付いている。


 ──我が名を呼べ、さすればより強きチカラが与えられん。


「!?」


 なんだ!? どこから聞こえてきた?

 脳内に直接響くような、いや、よくよく神経を尖らせてみれば、この剣からその言葉は聞こえてくる。


 この剣の名は……、魔剣!


「力を貸せ、エトランゼーーーー!!」


『御意に!!』


 カッと身体中が熱くなる感覚が走り、目の前の女に向かって走り出していた。

 女も手に持った細剣で必死に抵抗しようとするが、遅い。

 これが、大輔の言っていた超集中か。


 それにしても、自分を俯瞰して見るような感覚だ。

 まるでTPSのようで、ゲームの世界って感じがする。


 無様にも細剣を振るう女に対し、的確な動きでかわし、弾き、詰め寄る。


「お前は人を殺した」


 そしてオレの一撃は女の細剣を強く弾く

 隙だらけになる敵の身体。


「人を殺す人間は、人に殺される覚悟もあるはず」


 ──覚悟はいいな、オレはできてる──!


 女を斜めに袈裟斬る。

 魔剣の高揚感からか、人を斬るという覚悟はとうに出来ていた。


 そして、こんなものかと意外とあっさりしたものであることに、あっけにとられていた。


『キムラ……いや、主よ。

この敵は分身に過ぎない。本体はどこかにいる。探すのだ』


 魔剣の声が、オレをクールダウンさせる。

 そうか、原因である女を倒せば、この騒動は収まる。


『案内しよう、こっちだ!』


 魔剣の案内で少し走り出した十字路で、見覚えのある一団に遭遇した。


「エリカ!」

「ショウジ!? 大丈夫!?」

「ああ! そいつらは、オレに任せてくれ!」

「任せてって、ええっ!?」


 相手は同じ女が6人。本当に分身してやがる。いけるか?エトランゼ。


『無論』


「よっし、いくぜ!」


 身体が、動く。

 遥か昔から、戦い方を知っているように、自在に身体が動く。


 息をするように、ただ歩くように、オレは戦えている。

 背後からの攻撃も、全て見えている。

 かわせる、当たらない、怖くない。


『斬れ!』

「おお!!」


 瞬時の隙をついて分身の一人を斬る。


 こいつら、確かに大したことはないが、やけに組織だった動きをする。


『それは奴の持つ神器、ミラージュロードの効果だ』


 身体は舞うように自然体で敵の相手をしつつ、エトランゼが教えてくれる。

 鏡剣ミラージュロードは、自律思考型の分身を大量に生み出すことができる神器であると。

 そしてその思考・強さは、本体に準ずる、と。


「なんだ、本体もこれと同じ強さなら……」


 隙を見つけたとばかりに突いてくる分身の女。

 違うんだよな、隙を()()()()んだよな。


「大したことなさそうだな!」


 一刀両断。

 鏡剣ミラージュロード、魔剣エトランゼの敵ではない!


 分身が動揺した一瞬の隙を突いて、セリとラクチャの二人が、分身を刺し、返す刀で首をはねた。


 うわ、すげえ。


 まるで双子のように完璧なタイミングで左右対称に動く二人を見て、分身女よりこの二人の方がよほど怖いと思った。


「残りは任せろ! いくぞ、エトランゼ!」

『御意!』


 一気に決めるには、これだ!


 ──超集中!


 世界のすべてがスローモーションに見える。

 当然自分の動きもスローモーではあるが、相手の細剣の使い方、筋肉の動きが、ゆっくりとした世界で容易に想像ができる。


 仮に急激に変えられても、対応できる。

 オレは見てから動けば間に合うのだから。


 さらに。


『左の女はフェイントだ』


 エトランゼも力を貸してくれている。

 真ん中の敵を狙うと見せての横薙ぎで、右の敵を一撃で決める。

 左の女は今度はフェイントではないらしいが、遅い遅い。


 横薙ぎの回転を勢いとして、左の女を斬り上げる。

 十分に致命傷だ。


 最後に真ん中の敵は真正面からの突きか。

 細剣は突かないと真価を発揮できなくて困るよな。


 こ~んな感じで、少し射線をずらしてやれば……。


「ば、か、な……」


 敵の攻撃は当たらない。

 だがオレの一撃は致命傷だ。


「さっさと消えろ分身女!」


 超集中を使っていたオレはともかく、エリカたちには一瞬で三人を斬り伏せたように見えただろう。

 フッ、惚れるなよ?


「ショウジ、それ……」

「ああ、魔剣エトランゼだ。なんか知らんが力を貸してくれるらしい」


 エリカたちもびっくりしているようだ。


「す、すごい! 神器に選ばれるなんて!!

ほとんどの人は神器に選ばれたりなんてしないんだよ!」

「えっ、そうなの?」


 そんな話を聞いたら、益々やる気が湧いてくるぜ。

 オレが異世界で欲しかったのはコレだ。こういうチート能力なんだよ!

 魔界なんて……あんなのお呼びじゃねえ!


「大輔を探してくる!

セリ、ラクチャ、エリカを頼んだぜ!」


 気分は英雄だ。


 待ってろ大輔、今度はオレが、助けてやる!!


 * * *


 神殿の入口には、数人の分身女がいた。


「何っ、エトランゼだと……!」

「どけよっ!」


 分身女がこちらを視認すると同時に斬りかかり、一度に二人を斬り伏せる。


『主』

「なんだよ!」


 戦いの最中に話しかけられると気が散る!


「ぜやあああああッッ!」


 最後の一人を斬り伏せ、すべての分身は消えた。


「はぁ、はぁ……」


 いくらなんでも、こんなに激しい運動をしたことはない。

 全力疾走しつつ、全力で膂力を振るったのだ、疲労しないわけがない。


『主よ、まずは息を整えよ』

「はぁ、はぁ……」


 分身とはいえ、人を斬った。

 分身の肉とはいえ、さくりと剣は入り、血しぶきが飛んだ。

 分身であるが故、死体は消えてしまったが、それが余計にゲームのような感覚を助長していた。


「はぁ……くそっ、最新のVRでもこんなに疲れないぜ……」


 これじゃ女を追うどころじゃない。

 オレは身体を鍛えるところから、やり直さなければならないのかもしれない。


『残念だが、ミラージュロードの気配が遠ざかっていく』

「なんだ、逃げたのか」

『目的を達したのかもしれぬ』

「ああね……ちょっと休んだら、大輔を探しにいこう……」


 敵方の目的などどうでもいい。

 オレの心に熱く残っている火照りは、初めてまともに戦い勝利した高揚感と、望んでいた力が手に入ったことによる感動で、埋め尽くされていた。


 極端な話、大輔すらどうでもよかった。

 どうせあいつは生き残る。

 あいつは異世界転移の上級者だから。


『……』


 だが、この時のオレは何も知らない赤子だった。

 ここは異世界であり、日本の常識が通用しないこと。

 あの魔界を経験しておきながら、何も学んでいなかったこと。


 その事を後に深く後悔することになる。


「……行こう、大輔を探さないと」

『待て、城が騒がしいようだ』

「城……?」


 そういえば、エリカたちが城にいたままだ。

 敵が残っているとは考えにくいが、騒ぎになっているのであれば、放っておくわけにもいかないだろう。


『……どうやら、敵方の撤退は目的を達成したが故だったようだ』

「どういうことだ?」


「ショウジ……!大変、大変なの!」

「エリカ、どうしたんだ」


「クマソ王が……!!」


 

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