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45話 大輔そして頌路

 衛兵の亡骸から槍を回収し、大賢者について軍議の間へと急ぐ。


「この十字路を西じゃ!」

「方角だとわかりませんよ!」

「右に曲がるぞい!」


 この時間、淡い月の光が照らす十字路は、昼間とは違った神秘さを醸し出していて、その月の光に僅かな人影があることに気付くのが一瞬遅れた。


「道案内、ご苦労」


「お、お前は!!」


「とはいえ、既に我が分身を送ってあるがな。

クマソ王のお命、祖国のため、もらい受ける」


「させませんよ」

「だが、その槍一本で、私を止められるかな?」


 こいつは……覚えがある。

 強敵だ、神器を使うやつだ。

 思い出せ、名前は、特徴は。


「私は月の国、大隊長、マリエル=サンダー。

人呼んで一騎当千。これから刃を合わせる者同士、名を名乗れ」


 ──マリエル!

 そうだ、この女は月の国の神器使い、マリエル=サンダー!


「久しぶりの再会というわけだ」

「何……?」


 大賢者に目線で、先に行けと伝え、俺はゆっくりと光の中へ歩みを進める。


「お前は……」


「俺は……元隠の国の客将、スメラギ・ダイスケだ。

人呼んで、異世界転移常連」


 ──フッ。


 あの時と同じく、二人の失笑が静かに響く。


「そうか、神槍に囚われてしまったかと思えば、生きていたのか」

「おかげさまでね」


「約2年ぶりか、懐かしい好敵手と一戦を交える。

これは楽しみではあるが、実に残念だ、スメラギ!」


 マリエルが二人に分身する。


 くっ、こいつの神器はそのままか。


 神器、鏡剣ミラージュロード。

 自分の分身を作り出す神器だ。

 確か、分身自体にも自律した思考が存在するとかいうチート神器。


 あの時と違い、たったの二人。

 たったの二人だ。


「うおおおっ!」


 槍を回転させ、距離を取りながら、攻める。

 鋭い剣筋は昔よりも研ぎ澄まされているように感じるが、やはり数が多くなければ、二人の細剣使いを相手にしているのと変わらない。


 これぐらいなら超集中を使わなくてもなんとかなる!


「くっ、腕をあげたな。

神器に扱われるだけの人間ではなくなったわけだ」

「色々あったんでなっ!」


 マリエルを袈裟斬りにするが、そちらは分身。

 すぐに新たな分身が生成される。


「……」


 おかしい。

 押している、押しているのだが、どうもマリエルは消極的だ。

 やはりクマソ王の暗殺を第一に考えているからか。


「二人じゃ勝てないと思わないか?」


 槍を巧みに扱い、細剣を捌き、大きく一突き。

 分身が消え去る。


 すぐに槍を退き、構える。

 このマイナさん直伝の構えもすっかり板についた。


「二人で十分なのさ!」


 分身を出している以上、ここにいるマリエルが本体であるはずだ。

 それなのに二人しか出してこない。


 本来もっと異常な、人海戦術が可能であるにも関わらずだ。


 形勢は少しずつ俺が押している。

 既に十字路から、城の入口にまでマリエルを押した。


 その間、一人たりとも分身を通したつもりはない。


 だが、遮二無二、分身を一人しか出さないのは気にかかる。


 なぜだ。


「フッ、相変わらず戦闘中に考える事が好きなようだな。

お前との闘いが楽しくて、分身を一人だけにしている、と言ったら信じるか?」

「冗談がきついぞ」


 つまり、分身が出せない状況であるといえる。

 マリエル自身も本調子ではないようだ。

 単純に体調不良? いや、ありえない。


「お前はさっきから分身を出しているが、本当に本体なのか?

俺はそっちが気になるね」


 たいまつに照らされたマリエルの整った顔に、冷や汗が流れる。


 この顔は知っている。

 これは、あの時の、無茶をしている時の顔だ。


 つまり。


「冗談だろ、お前」


 既に制御限界まで分身を出している。


 どこに。


「無粋な勘ぐりはよせ。私とてお前との戦いは楽しんでいるんだ、これでもな」


「そう言われて楽しめる奴がいるかよ!」


 攻勢を強めていく。

 逆に言えば、本体を倒すチャンスなのだ。


「馬鹿だな、神器を持たぬ神器使いなど、相手にならぬ!」


 そうして増える分身。

 2人、3人、4人、5人……。


 計6人のマリエルが、一糸違わぬ姿で、俺に細剣を向けている。


「どうする、これからどんどん増えるぞ」


 ミラージュロード、マジでチートだ。 



 * * *



 謁見の間に取り残されたオレたちは、とにかくここから離れるべきだというエリカの意見に賛成した。


 一撃で心臓を刺殺されている衛兵の亡骸を横に謁見の間を飛び出すと、横から針のような剣が飛んできた。


「危ないっ!」

「ひいい!」


 セリさんが一瞬早くその攻撃を逸らしてくれたから良かったものの、オレは恐怖が蘇ってきていた。


 こ、ころされ、殺される!!


「うわああああっ!!」


「ショウジ!!」


「エリカ様!」


「セリ、ショウジを助けに行って!」

「この数が相手では、ラクチャだけでは無理です!」

「うがああああっ!!」


 暗闇からの刺突は数を増し、ラクチャのハルバードが暗闇を駆け抜ける。

 しかし、いくら倒しても人影は減らない。


「おかしいです!いくらなんでも、入り込み過ぎている!」

「ぐぅぅ! 増えてる! 鏡剣だわ!!」

「神器ね!?」


「エリカ様を守るわよ!!!」


「ショウジ……ダイスケ、ごめん……!」


 * * *


「うわあああああっ!!」


 死にたくない、死にたくない。


 そう思っているのに、辺りに漂う、濃厚な死の臭い。


「神よ……火の国を救いたまえ……」

「祈りは自由だ。叶うとは思うな」


 美しい顔をした女が、神官らしき格好の人を、刺殺した。


「次はお前か」

「ひ、ひいええええあああああ!!」


 こ、殺される、死にたくない!!


 その時、女の手が止まった。


「お前の格好、どこかで……」

「助けて……何でもするから……殺さないでくれぇ……」


 ぼんやりと明るい神殿で、情けない事にオレの嗚咽だけが響いた。

 人殺しの女はカツカツと音を立てて近づいてくる。


 こないでくれ、ころさないでくれ、やめてくれ!


「まあ、いい。この場に居合わせた不運を呪え。

祈りの時間ぐらいはくれてやる」


 こ、ここで死ぬ?

 セリさんは? 大輔は?

 助けてくれるって言ったのに!

 どうして、どうしてオレだけがこんな目に!


「うわああああああ!!」



 ──チカラが、欲しいか。



「うるさい男だ。見苦しいまま、死ね」


「欲しい!! チカラをくれ! 死にたくない!!」



 ──よかろう。

ならば、我を振るうが良い、キムラよ!


 

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