41話 腕試しは基本
"古の魔王、復活せり!"
2年前、各国の占い師が一斉に「魔王の復活」を予見。
魔王とは、かつて世界を手中に収めんと各地へ侵攻したモンスターであり、当時7つの神器を手にした聖戦士たちにより封印されたモンスターである。
モンスターとは、明確な定義はないが、人ならざる者であり、人に害を成すモノ、動物とは根本的に異なるものだ。
とはいえ、日本や地球でも害を成すものは、悪魔だ神の怒りだと押し付けてきたのだから、そう大して変わらないものかもしれない。
だが、この世界の神器は実在する。
それはつまるところ、魔王という不可思議な存在は実在することを表していた。
そんな魔王の討伐、または封印。
討伐はともかく、一度封印できているモンスターである以上、封印が不可能とは考えにくい。
極めて困難ではあるが、邪神と呼ばれた敵すらも倒せるのだ。
魔王が倒せない理由はないと断言できるだろう。
ただ唯一の懸念……いや、問題点は。
「頌路……すまない」
「な、なんだよ。また、無理、なのか?」
「いや、無理ではないと思う。
だが、時間がかかりすぎる」
数日でパッと倒してサッと帰る、そんな日帰り冒険には決してならない。
短くとも数カ月単位で見なければならないだろう。
「……」
それが何を意味するか、わからない頌路ではない。
ガクリと膝を折り、涙目で訴えかけてくる。
「どうしてこうなっちまったんだ……」
内定の取り消し。
明るい未来の待っていたはずの頌路は、召喚に巻き込まれてしまったが故に、その未来が閉ざされてしまった。
仮に数カ月かけて戻ったとしても、新卒という肩書を失った上、急な失踪を行った彼が、希望の会社へ再度就職を希望することは難しいだろう。
こればかりは、俺にもどうにもならない。
目に見えて落ち込んだ頌路に対し、これまで一定の距離を置いていたエリカ王女がずかずかと近づいてきた。
エリカ王女は頌路の前に立ち、その肩をがっちりと掴む。
……この距離。
今ならこの召喚主を手にかけることも容易いだろう。
相手の見た目は人間と同じ。
首は横には動かないが、斜めに折れば容易く動く。
頌路の為に、そういった手段を取る事も頭によぎった。
しかし。
「安心しなさい! ショウジは、あたし達がしっかり守ってあげるからね。その代わり、離れちゃダメよ!」
王女とはいえ、明らかに年下であろう女性からの庇護発言。
男としてそれでいいのか、とも思うが、それよりもこの豪胆さだ。
ユリネ王女もやたら行動的な部分はあったと思うが、エリカ王女は我が身の危険を顧みず、俺たちの信頼を勝ち取りに来た。
俺がユリネ王女と知り合いであったことや、その態度などによってある程度は信用を置いたのかもしれない。
だが、付かず離れずの距離をお互い意図的に維持していた。
この超えない方がいい一線を自ら超えてきた勇気はさすがとしか言えない。
何度も脳裏をかすめるが、今なら召喚主と思われる王女を縊り殺し、日本へ帰ることもできるのだ。
だが、それは今ひとつ、気乗りがしなかった。
ここは俺にとってもやり残した世界であるが……。
「頌路……今なら」
「言うな。……もう、あんな思いはしたくない」
エリカ王女の頭には「?」が浮かんでいるが、あなたを殺すかどうかの確認ですよ、などと言えるわけもない。
「オレを……守ってくれるんですよね」
「うん、約束するからね、ショウジ」
「大輔、この世界は、イケるんだな?」
「ああ」
「なら、決まりだ」
両頬をパァンとはたき、気合を入れ直す頌路。
その姿に満足そうに胸を張るエリカ王女。
「すみませんが、俺から約束事としていくつか決めさせてください」
万事うまくまとまりそうであるところではあったが、このまままとめられたのでは困るのだ。
「まずひとつ、必ず頌路を守ってください。
彼が無事であることが、俺が協力する条件です」
「……遵守する。セリ、お願い」
「エリカ様のお言葉とあれば」
「次に、彼が無事かどうかを常に確認できるようにしてください。
会わせないなどは論外です」
「状況によっては難しい場合もあるかもしれないけど……」
「もちろん、臨機応変にご対応いただいて大丈夫です」
「最後に……」
「いい加減にしろ」
我慢ならなくなったのか、ラクチャというお供が文句を言い始めた。
「召喚者とはいえ、エリカ様に対して、なんだその態度は。
お前にどれだけの価値があるというんだ」
「少なくとも、俺にあなたの攻撃は全く当たりません。その程度の戦闘力があることは保証します」
「保証だと? いいだろう、ならばこの場で見せてみろ!」
「ラクチャ!」
エリカ王女が諫め……
「面白いわ、召喚者の力、見せてもらいましょう!」
ない。
「言っておくけど、ラクチャは光砂の国で最強のヴァルキュリア隊の一員なんだからね。バーサーカーの異名を持つ達人なんだから、謝るなら今のうちよ?」
どんな異名を持っていようと関係ない。
イグザガルードの使い手であるということを交渉条件に持ち出すこともできたが、奥の手はできるだけとっておきたい。
「バーサーカーですか。何分も戦いが続くと面倒なので、1分間にしましょう。ラクチャさんが、俺に攻撃を当てられなければ条件を全て呑んでいただくということで」
「それなら、先に最後の条件を聞いておいてもいい?」
「はい。最後の条件は、俺たちの行動にできるだけの便宜を図ってもらうこと、です。
例えば情報の出し惜しみなどはしないことをお願いしたいと思っています」
「確かに情報が滞っていたら、動きづらいもんね、よかった、普通の条件で。でも」
「ラクチャとは一戦よろしくね!」
「頌路、エリカ王女を連れて、離れてろ」
二人が離れた瞬間、首を通り抜けるような殺気が走った。
──超集中!!
瞬時に間合いは詰められ、ハルバードの斧が俺の首を狙っていた。
決してかわされない自信があったのか、全力の振りが紙一重でかわされたことに驚きを隠せない。
ハルバードと共にサイドテールが空を舞う。
遠心力で回転する身体から捻りを持って突き出される激しい突き。
十分に強い人物だ。
だが目いっぱい突き出されたハルバードは足で蹴り落とせる。
瞬時に武器を捨てる判断をしたラクチャは、こちらがすぐに動けないことを狙っての、胴回し回転蹴り。
──とんでもない曲芸だ。
見た目以上に範囲の広い攻撃。
本来なら十字受けしたいところだが、食らった時点で俺の負けが確定してしまうこのルールでは、バックステップでかわすしかない。
となると、当然、胴回しの余勢を駆ってハルバードを拾われる。
──さすが、ヴァルキュリア隊。
五段突きを見舞ってきた黒髪の人物を思い出し、口角が歪む。
それを嘲笑と受け取ったのか、ラクチャは鬼の形相でハルバードを振り下ろしてくる。
ただの振り下ろしではない、さほど広くはないこの遺跡では、これ以上バックステップで避けることはできない。
武器の射程と、状況を的確に判断した見事な攻撃である。
恐らく横に飛べば、そのまま追撃されてしまう、が。
死中に活はあるものだ。
一歩前に前進。柄の部分を受け止め、手甲を足蹴にする。
そして。
「すみません、負けました」
「ぐがあああああ!」
「セリ、ラクチャを止めて」
「はい」
そう、あの時、俺に残された手段は比較的ダメージの少ない柄を受け止めるしかなかったのだ。
仮に斜め前に前進したとしても、槍を退きながら払われれば逃げる術はなし。
久しぶりの戦いらしい戦いに、少し勘が鈍っていたのかもしれない。
あるいは、久しぶりの超集中に頼り過ぎたか。
「ラクチャの攻撃をあんな風によけるなんて……さすが召喚者!すごい!」
目を輝かせて賛辞を贈るエリカ王女。
唖然とする頌路。
今だに目を血走らせてフーフーと息荒いラクチャ。
それをどうどうと抑えるセリ。
三者三様とでもいうべきか。
しかし、俺の目論見は見事失敗してしまったのであるが……。
「ダイスケの強さ、見せてもらったよ!
3つの条件、全て呑もう! ぜひ力を貸してほしい!」
事態はいい方向に転びそうだ。
「それにしても、ラクチャの攻撃をここまでかわせるなんて」
セリさんが驚愕している。
「まあ、マイナさんに鍛えられましたから」
「マ……マイナですって!?」
既知の名前が出たことでわいわいと騒ぎ出す一行。
その中で、一人だけ沈んでいる男がいた。
「……やべぇわ、ここ……。
マジで人が殺し合ってる世界じゃないか……」




