表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/51

34話 とっておきのプラン

「とっておきのプランとは……?」


 一同が固唾を飲んで見守る中、大輔は淡々と概要を語り出す。


「まず、三人の指示は頌路(ショウジ)、お前に全て任せる。

指揮権が分散しているのはよくない」

「お、オレ?」


「次にモントさんたちには、それぞれの得意な近接武器を構えて、頌路(ショウジ)を守ってもらいます」

「「「ロジャー」」」


「救世主さまは、なにをなさるのですか?」


「天使を一体、連れてきます」 


 な、なんだと?


「俺一人で天使の気を引けば、敵は油断して直接攻撃でしとめにかかろうとするはず。

幸いにも、こちらもあちらも遠距離攻撃は決め手にはならない。

十分に勝算があります」


 それってつまり……。


「囮作戦ってことじゃねーか! ダメだろ、危険すぎる」

「問題ない。天使の動きは大体見切った」

「いや、なんだよその自信。どこから湧いてくるんだ、悪いこと言わないから、やめろって!」


「心配するな頌路(ショウジ)

俺は()()()()()だぞ」


 ドヤ顔で言い切る大輔に、開いた口が塞がらなかった。

 ホント、どこからその自信が湧いてくるんだよ……。


 * * *


 というわけで、鉄骨の残骸に隠れているオレたち四人。

 手筈通りなら、大輔が天使を一体連れてきてくれるはずだ。


 あいつがこんなところで死ぬなんて考えられない。

 不思議と確信にも似た信頼感があった。


 だが、オレはオレ自身を信じ切れていない。


 指揮権を任されたが、もし突撃のタイミングを失敗したら?

 少しでも反応が遅れたら?

 大輔を見殺しにする事態が起きるかもしれない。


 任された責任の重さに、背筋がまた震えた。


「はぁ……はぁ……」


 くそ、相変わらず空気が薄い。自然と呼吸が荒くなる。


 こんな狭くて暗い場所に、美人のおねーさん三人に囲まれてハァハァ言ってるオレなんて、無関係の人間から見たら完全に笑える状況のはずなのに……。

 笑顔のひとつもこぼれてきやしねー。


 動悸がヤバイ。心臓の鼓動がでかい。

 愛のつり橋効果すら期待できるというのに、オレの心は全く浮ついてくれない。


「っ……はぁ、はぁ……」


 感じた事のないストレスがかかり、剣の柄を握る手がじとりと汗ばむ。

 滑ってはいけないと、ズボンで汗を拭き、柄を握り直す。


 本当にこの作戦は成功するのか?

 そもそも大輔が無事という信頼感は、ただの思い込みじゃないのか?

 あいつがいなくなったら、オレ、どうやって帰ればいいんだよ……。


 ただただ大輔の作戦成功を信じて待つ時間は、異常なまでのストレスがかかることが判明した。

 考えなくていいことが否が応でも脳裏をよぎり、悪い予感とネガティブな発想が脳内を支配する。


 脳が心を守ろうとしている。

 最悪の事態に備えて、心が壊れないように、最悪の状況をシミュレートしてやがるんだ。


 やめろよ、あいつは無事だ。

 だから、オレはチャンスを掴むことに集中するんだ。


「みんな、準備はできてるな」


 ここは指揮官らしく、皆を奮い立たせるのだ。

 いや、オレ自身を奮い立たせる。


「はい」

「もちろんです」

「きっと成功します、させます」


 三者三様の返答が返ってきた。


「ありがとう」


 彼女らも、オレを気遣ってくれているのだ。

 信頼に、応えなくては。


 ──ガァン!


 廃墟に響く銃声。

 大輔の合図だ。


 鉄骨の残骸から、少し顔を出して周囲の様子を探れば、大輔が槍で天使と戦っている姿が見えた。


 いつだ、いつ突撃の指示を出せばいい。


 まだ遠い、もっと引き付けてくれ。


 死なないでくれ。まだ遠い。もう突撃したい。まだ逃げられる。急がないと大輔が死ぬ。まだ早い。死にたくない。


 色々な考えと思いが走馬灯のように流れては消えていく。


 改めて目の前の光景に意識を集中すると、苦しい戦いを強いられているであろう大輔が槍を振るい、少しずつオレたちが隠れている鉄骨の残骸付近まで天使を引き寄せている。


「すげー……」


 こうして近くで見てみると、あいつホントにすげー。


 天使の振るう腕に対して、時に力技で押し返し、時に脱力して受け流し、時に果敢に攻めながらも退いている。


 完璧な陽動。

 なんだよ、あいつ、余裕じゃねーか。


 と思ったのも束の間、あのいつもぼーっとした大輔が激しく息を切らし、玉のような汗を流しているのが目に入る。


 そういや、ここ、空気が薄いんだ。

 そんな中であんなに激しく戦っていたら、いくら大輔でも……。


 やってやる、オレだって、やってやるぞ!


「……行くぞ!」


 今しかない! もう待てない!


 鉄骨の残骸から勢いよく飛び出したオレたち四人は、優勢で油断していた天使に背後から襲いかかった。


「はぁっ!」


 暗黒のモントさんの鋭い突き。

 天使は敏感に反応し、回避するが、回避先には烈風のシャアトさんの槍が!


 さしもの天使もこれは回避できず、シャアトさんの槍が天使の肉をえぐる。

その生々しい音が耳に届き、オレの身体を固まらせる。


 そんなオレの様子を見た劫火のギラファトさんが、肩をポンと叩いて天使へと向かう。

「後は任せて」そんな声が聞こえた気がした。


 肩で息をしている大輔も、三人をアシストするように十文字槍を振るっている。


 なのに、オレは身体が固まって上手く動けない。棒立ち……。

 オレは、なんて無力なんだ。

 何しにここに来てるんだ。


「うわあああ!」


 気合の掛け声とは程遠い、悲鳴にも似た叫び声を出しながら、剣で突く。

 今度は目は開いている、大丈夫だ。


 見事、天使の左足にずぶりと突き刺さる俺の剣。

 柄を握る腕に響く、肉の抵抗。


 驚いた天使がこちらを見る。

 天使と目線の合うオレ。


 天使は少し驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかな笑みに戻った。


 なんだよ、痛くないのかよ、天使には痛覚がないのか?


「シャアト、ギラファト、今です!」

「「ロジャー!!」」


 天使の表情に気を取られていると、それを好機と見たのか、暗黒のモントさんが二人に声をかける。


 ギラファトさんが天使の心臓部に短剣を一突き。

 続いてモントさんが同じ場所に正確に突きを決め、シャアトさんがえぐるように槍を突き出す。


 見事な連携……だが。


 うわっ……。


 烈風のシャアトさんの突きで、天使の背中から内臓のようなものが飛び出す。

 あまりにグロテスクな映像に、思わず口を抑え、膝をつく。


「とどめだ!」


 まだやんのかよ。

 しかもその声を放ったのは……。


 十文字槍で天使の首を()ねたその男は、あの、大輔だった。


 何食わぬ顔で、平然と天使の首を刎ねる。

 そんな事が可能なのか。


 はは……異世界常連ともなれば、こんなの当たり前なのか。

 あいつ、日本でも誰か殺しちゃいないだろうな。


「きゃー! やったー!」

「す、すごいです!」


 ギラファトさんとシャアトさんが手を組んで大喜びしている。

紫のスケイルメイルと浅黒い肌に、真っ赤な鮮血を浴びて。


 先ほどまで柔らかな笑みを湛えていた恐怖の象徴は、首から上を失い、地に伏せている。


「これで勝ちですかね」


 大輔が平然と言う。


「はい、天使の明確な弱点はわかりませんが、首を刎ねれば、まず生きてはいないでしょう」

「わかりました。今後も念のため首を刎ねていきましょう」


 淡々と繰り広げられる猟奇的な会話。

 あまりの非現実さに、どこか唖然としてしまう。


頌路(ショウジ)、よくやってくれた。

完璧なタイミングだったぜ」


 大輔が声をかけてくれた事で、オレはようやく実感した。

 勝ったのだと。


「お、おお……!」


 絶対に無理だと思っていた。

 あんな強敵を倒すだなんて、絶対に無理だと、心のどこかでは諦めていた。


 だが、成し遂げた。


 達成感がじわじわとこみ上げ、口角が上がる。


「へ、へへ」


 自然とこぼれる笑い。

 周りを見渡せば、大輔もどこか誇らしげに口角を上げ、シャアトさんとギラファトさんは飛び跳ねて喜び、さきほどまで淡々としていたモントさんですら浅黒い肌が紅潮している。


 勝ったのかよ、あの天使に!


「やったぜ!!」

「やりましたーー!!」


 まずは一勝!

 この調子で倒していけば、いつか送還条件ってやつを満たせるよな!


 よーし、次はオレが囮役をやってやる!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ