33話 反撃の狼煙
意気揚々と拠点を飛び出したオレたち。
天使は未だ前回の場所にいるんだろうか。
「行ってみるか」
大輔が俺の思考を読んだかのように言う。
「ああ」
もちろん二つ返事だ。
今回は5人、数の有利がある。
5対1で負けたら、本当に目も当てられない。
「作戦を確認します。
敵を発見次第、俺か頌路のどちらかに知らせてください」
「わかりました」
三人の一糸乱れぬ敬礼。
よく訓練されているのがわかる。
「で、オレに知らされた後はどうしたらいいんだ?」
「各々の判断で戦う。数的有利に持ち込めば、何とかなるはずだ」
結構雑だな、大輔の作戦!
* * *
行軍中。
「そういえば、なんでこの世界ってこんなに荒廃してるんだ?」
率直な疑問が口をついて出た。
「話を聞いていなかったのか?」
「いやいや、唯一神とかいう奴の命令で、天使が攻めてきて、滅びの危機を迎えてるってんだろ。それぐらいは聞いてるよ」
周囲を警戒しながら、一歩ずつ歩を進めていく。
「なんで唯一神はこの世界を滅ぼそうとしてるんだ?」
「唯一神は……」
暗黒のモントさんが答えてくれるらしい。
「元は、全知全能の神として、我々も崇める神だったのです。
しかし、ある日を境に、急に大勢の天使たちが降臨しました。
そして、我々を滅ぼすことにした、と唐突に告げられました」
なんだそれ、全然意味がわからねー。
「……」
大輔も閉口している。いや、こいつの場合はあまり興味がなさそうというか。
「そこからは地獄でした」
烈風のシャアトさんが昔を思い出すかのように目を細めて言う。
「私たちも精一杯、抗ってはみたのですが、天使たちは一人一人が強く、とても手が出せる存在ではなかったんです。
……あ、ここも昔は、立派な街並みだったんですよ。あの鉄骨が見えている辺りには、お花屋さんがありまして……」
言葉に詰まり、目を手で押さえるシャアトさん。
そうか、この鉄くず置き場みたいになってしまってるこの場所も、かつては人が住み、平和に生活していた場所だったんだ。
そう考えると、オレはふと日本の街並みと、この廃墟が重なり、背筋がぶるっと震えた。
隣の友人を見れば、いつものぼーっとした表情で歩いている。
(日本が一番だよ)
まるで口癖のように言っていたこいつの言葉が、今ならよくわかる気がした。
「天使だよ!」
劫火のギラファトさんの言葉と、大輔が槍を構えるのは同時だった。
思ったより接近されていたらしい。
そういや、こいつら空を飛べるんだったな、上空への警戒が甘かった。
「攻撃しますか? 今なら退却もできますが」
暗黒のモントさんが指示を求めてくる。
「……」
大輔が悩んでいる?
なら、オレが決める!
「攻めるぜ! あいつを叩き落とす方法はないか?」
「残念ながら、遠距離攻撃は無効化されますので……」
「ギラファトさん、火で攻撃できますか?」
ようやく喋ったか、大輔。
あてにしてるぜ!
「できるけど……、効かないと思うよ?」
「構いません、確認ですので」
わかりました、とギラファトさんが短剣を腰にしまい、両手を前に出した。
「ファイア・ワン!」
安直なネーミングから繰り出された炎の塊は、空中でふわふわと浮かぶ天使に一直線に飛んでいき、爆散した。
さすが劫火のギラファトさん!
だが、予想通り天使には焦げ目ひとつついていない。
今の火球に天使は首をかしげている。余裕かよ。
「もっと強力な火は出せますか?」
「はい!」
ギラファトさんが、さらに集中する。
「ファイア・スリー!」
先ほどとは比べ物にならないほどの火球が現れ、天使に向かって飛んでいく。
「……!」
あっつ!
肺が、喉が、焼ける!
この世界に来て深呼吸が癖になっていたオレは、今の火球で熱された空気をもろに吸い込んでしまった。
なんでオレがダメージ受けてんだ。
──ガァン!
続いて前にも聞いた音が響く。大輔の持っていた銃の音だ。
火球が爆散し、銃弾が天使に吸い込まれていく。
だが、天使は無傷。傷、汚れひとつない純白のワンピースはそのままだ。
「波状攻撃でもダメか。やはり届く前にバリアのようなものでかき消されている」
どうやら大輔の実験は失敗したようだ。
「うおっ、こっち来たぞ!」
「天使も遠距離攻撃では私たちを倒す決め手に欠ける事を知っているんです!」
「頌路、そっちに向かったぞ、指示を出せ!」
「し、指示って! た、戦ってください!」
「ええっ!?」
我ながら情けないほどに混乱している。
そこまでハイスピードで迫ってきているわけでもないのに、前回の敗北の恐怖で、身がすくみ、思考が止まる。
「シャアト、ギラファト! 救世主殿を守れ!」
「「ロジャー!」」
モントさんの指示でシャアトさんとギラファトさんが二手に別れる。
「俺は大丈夫ですから、頌路を!」
「ロジャー!」
が、大輔の言葉を聞いたモントさんとシャアトさんが、方向転換する。
くそ、俺だって守られてばかりじゃいられねー!
ワルーンソードを構え、天使の突撃に備える。
天使はゆらりと腕を大きくかかげ、爪を伸ばす。
武器の相性が、悪い!?
咄嗟に脳裏を駆け巡ったのは、言い訳だった。
既に及び腰、天使の攻撃を受けきる気など皆無。
ちくしょう、そんな事で生きぬけるわけがないのに!
天使の爪が振り下ろされる。
だが、モントさんが天使の爪を切り落とす。
続いてシャアトさんが天使に突っ込むが、回避される。
「た、助かった」
「いえ、ご無事で何よりです。それより、良い武器をお持ちですね」
そう言って若干誇らしげな暗黒のモントさん。
その武器は……オレと同じワルーンソードだった。
太刀打ちできない言い訳が浮かんだ自分が、恥ずかしい。
「ちっ」
大輔と烈風のシャアトさんの攻撃がふわりふわりと回避される。
「オレだってなぁっ!」
ワルーンソードをしっかりと構え、突きの体勢をとる。
狙いを定めて……打ち込む!
「……」
だが、ふわりとかわされてしまった。
そして空中に逃げる天使。
「ダメだ、数的有利を上手く扱えていない」
「一旦退きますか?」
「また逃げるのかよ! 冗談じゃ……」
オレがいくら激昂しようとしても、空中に逃げた天使は安全圏から気弾を投げつけてくる。
「ギラファトさん、火球いけますか?」
「こ、この気弾の雨の中じゃ無理~!」
「救世主殿、撤退時かと!」
「て、撤退~~っ!」
オレの情けない声に呼応した天気が、ぽつぽつと雨を降らせ始め、リベンジは失敗に終わった。
* * *
「飛ぶなんて卑怯だろ! 無理だよ、ちくしょう!」
這う這うの体で拠点に逃げ帰ったオレたちは、戦いの一部始終を見ていたというリトちゃんに心情を吐露していた。
「どうやら不利だと思ったら空ににげるみたいです」
「不利だと思わせる前に、一気に決めないといけないみたいですね」
リトちゃんと大輔が真面目に議論している。
こいつら、まだ戦う気なのかよ。
「やはり、鍵となるのは連携ですね。
……頌路、次はお前、ここで休んでるか?」
甘い誘惑だ。
オレは行かなくていいらしい。
いや、戦力外通告か。なめるなよ。
「いーや、オレも行く。このまま負けっぱなしでいられるかよ」
「フッ」
強がってみせると、大輔が口角を上げて笑った。
嘲笑ではない、自然で、オレへの信頼感を感じる笑い方だった。
まるで「そう言うと思ったぜ」と言わんばかりの。
ちくしょう、信頼されてんのか、こんなオレでも。
「でも、どうやって天使と戦うんですか?」
「質で劣っている以上、数的有利を利用するしかありません。
俺にとっておきのプランがあります」
とっておきのプランだって……?




