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30話 頌路、転移!

 うわぁ~お、ファンタスティック……。


 大輔の言う召喚の光に包まれたオレは、瞬きの刹那に異世界へと()われた。


 暗雲が立ち込め、雷鳴とどろく空、荒れ狂う海が遠くに見える。

 周囲にそびえ立つ崩れた柱は雰囲気満点で、ここが異世界であることを、少なくとも非日常であることを知らしめている。


 目線を足元に落としてみれば、アニメでよく見た複雑精緻な魔法陣。

 自然と身体が震える。


 これが、異世界……。


頌路(ショウジ)、やりやがったな」


 オレにがっちりと腕を掴まれたままだった大輔が、不機嫌を露にして溜息をつく。

 悪いな大輔。こっちは、本物の異世界へ来た感動で武者震いが止まらねえぜ。


 オレはついに、ついに、異世界に来たんだ!!


 この五感に感じる、空気、雰囲気、風、匂い、全てがここを異世界であることを知らしめてくれている。

 興奮したせいか、少々息苦しい。


 異世界の風景に感動していると、目の前に黒い翼の生えた女の子がいることに気が付いた。

 身長120センチぐらい、着ている灰色のワンピースは少しぼろっちい。


 おかっぱ頭の両端から覗くのは……、つ、角だぁ~!

山羊のようなホーンが、自身の存在をアピールしている。


 なんだ、獣人か? 天使か? 悪魔か?


「救世主さま、とつぜんのご無礼、お許しください」


 ぺこり、という擬音が聞こえてきそうなほどコクンと頭を下げる少女。


 礼儀正しい!


「まさかお二人もの救世主さまに来ていただけるとは、願ってもいませんでしたが、すごく助かります。

今、わたしたちの世界は、ほろびの危機をむかえているのです」


 おおっ、重い話だ。

 きっと、この世界を助けるのが、クエストなんだなっ!?


「どうか、救世主さまがたに、おチカラをお貸しいただきますよう、なにとぞお願いいたします」


 そら、きた!


「断る」


 どええええ!?


 いたいけな少女の頼みを、間髪入れず断った大輔。


「おいおい大輔、それはさすがに冷たいんじゃないの?」

頌路(ショウジ)、お前は異世界を知らなさすぎる。黙ってろ」


 なんだその言い方は。

 さすがのオレもムッときたね。


「とつぜんのお呼び出し、まことに申し訳ございません。ですが、救世主さまがたに頼るしか、もう方法がないのです」


 ほら、いたいけな角少女も涙目で訴えてきてる。

 ここで断ったら、男がすたるってもんだぜ。な、大輔?


 という意味を込めて、肘で大輔を小突く。

 さしもの大輔も。


「断る」


 すたったよ! こいつ、秒で男をすたらせたよ!


「どうかお願いいたします、救世主さまがた。この世界をおすくいください」


 再びぺこりと頭を下げる少女。

 だがオレの隣にいる冷血漢は、相変わらずぼーっとした顔のまま……。


「断る」


 断り続けている。


「あのなぁ、大輔。確かにオレは異世界について知らないと思う。だけどな、ここまで頼んでくる女の子に対して、あまりに冷たすぎるんじゃないか?」

頌路(ショウジ)、何度も言わせるな。ここは俺に任せろ」

「大輔、オレは"人の道”を説いているのだよ」

「そんなものは異世界に来た時点で捨てろ。

何度も言ったが、異世界はお前が思ってるような甘い世界ばかりじゃない」


 ぼーっとした顔の癖に、いつもより遥かに冷たい目線。

まるで、オレの知ってる大輔とは違うみたいだ。

ちょっとだけビビっちまったが……。


 吐き捨てるように言いやがって、この野郎……。


「どうかお願いいたします、救世主さまがた。この世界を……」

「ことわ」

「らないからな!オレたちに任せろ!」


 読み通り!

 大輔の返答に割って入ったオレの言葉に、少女の顔がぱあっと明るくなる。


 これこれ~、見たかったのはこの笑顔よ!


 ただクエストを受けると言っただけで、この笑顔。

 どれだけ救世主(オレたち)が待ち望まれていたか、わかるってもんだぜ。


 隣から冷たい表情の友人がオレに熱い視線を送ってきている気がするが、まぁ問題ないだろ。


「安請け合いしやがって……」


 おお、怖。

 そう睨むなって。


「で、具体的にオレたちは何をすればいいんだ?」

「はい……」


 少女は語った。この世界の実情を。


 この世界は、オレたちの世界で言うところの魔界という位置づけらしい。

 魔界なんて嘘だろ?と思ったが、大輔は「翻訳は正常だ」と肯定。

 道理で、若干息が苦しいはずだ。

 空気が薄いというか、酸素が足りない気がして、自然と呼吸が荒くなる。


 んで、この魔界は、唯一神とかいうやつの命令で、地上に降り立った天使たちによって滅ぼされようとしているガチでマジな大ピンチ状態。


 普通なら天使側の方がそれっぽくてかっこよかったのに。

 まあ、劣勢を覆すのは、熱い展開のお約束だし、些細な事か!


 角少女は、この魔界の王の忘れ形見である小公主リトちゃん。

 親も友達もみんな天使に殺されてしまって、形単影隻(けいたんえいせき)の彼女は、今では天使に抗う魔界の王代理なのだとか。

 こんな小さな子に、なんて無茶を押し付けてやがるんだ。


 そんな重責を担っている彼女だが、とても良い子だ。

 魔界の王代理という強大な権力を持っているにも関わらず、低姿勢で礼儀正しい。

 その愛くるしい見た目も相まって、庇護欲をかきたてられる。


「──という状況なのです。

天使たちをたおす、ご助力をどうか、お願いいたします」


 なんとかしてやりてー。


「おう! 任せとけ!」


 オレはふたつ返事で快諾する。


 隣からじとりとした重圧のある視線が突き刺さるが、まあ待て。

いくらオレでも情に流されて適当に受けたわけじゃない。

 このクエストも何とかできるって確信があったから受けたんだ。


 それはな。


 隣で眉間にしわを寄せている男……大輔の存在だ。


 こいつはオレが知っているだけでも3回は異世界に旅立っている。

 実際はもっと多いらしいが、その全てで依頼(クエスト)をこなして帰ってきている。

 いわば、異世界転移のプロ!


 オレ一人ならどうすればいいかわからなかったかもしれないが、こいつが一緒ならまず間違いなく無事にクエストクリアして帰れるっていう確信があった。


"禁呪"とされている召喚魔法まで使って、オレたちを呼んでくれたんだ。

 何とかするのが、男の役目であり、救世主の役目だと言っても過言ではない!


「……その天使を倒せば、俺たちは帰れるんですね?」


 いつになく真剣な顔をした大輔が問う。

 ってかこいつ、小さな子にも敬語なんだな。


「はい。唯一神は手出しのできない存在ですから、そこまでは高望みはいたしません」


 大輔が言外にいわんとすることを察し、きりっとした表情で返答するリトちゃん。

 小さいのにかっこいいぜ。


「わかりました。連れが勝手に受けた話ですが、俺が請け負います。

だから、彼だけは送還してやっていただけませんか」

「え?」


 そう……かん?

 何を言ってるんだ大輔は。


「おいおい、オレだけ帰すってのかよ!」

「当たり前だ。

何度も言わせるな。異世界は甘くないんだ」


 冗談じゃない、ようやく待望の異世界に来れたんだぞ!


「あの……もうしわけございません」


 口論になりかけたオレたちに、リトちゃんがおずおずと申し出る。


「召喚対象がお二人になっていたということは、たぶん……」

「……二人同時じゃないと帰せない、というわけですか」

「もうしわけ、ございません」

「いやいや、いいよ! それなら仕方ない!」


 ラッキー! なーんだ、そういうことなら、問題ない。

 クエストを受けるって言った以上、こいつもウソをついたりしないだろうし。

 それにしても異世界だと、大輔の奴、キレッキレだな。


 まあ、勉強教えてて思ったけど、元々頭の悪い奴じゃないし、異世界転移がなければ、偏差値もあと10は余裕で上がっただろうに。


「それでは、武器庫にご案内いたします。ついてきてください」


 リトちゃんの案内で魔法陣のあった場所から、歩く事、約5分。

 赤茶けた土が広がる荒廃した大地に、砕けた鉄の塊が散らばっている。


 もっと魔界らしい何かを期待してたんだけど、今のところただの荒廃した土地でしかないな。


「ここが、レジスタンスの本拠地です」


 錆びた鉄くずが無作為に散らばっている場所。

 その中の鉄くずをひとつリトちゃんが動かすと、地面に蓋が現れた。


 おお、隠し通路っぽい。

 レジスタンスのアジトって感じだな。


「天使とかいう奴らはここまでは来ていないのですか」

「はい、まだここは見つかっていませんから、安全です」


 さすが大輔、警戒してるな~。

 オレももっと、気を引き締めないと。


 地面の蓋を開き、梯子を使って地下に降りると、開けた空間に出た。

 居住空間であっただろうその場所は、不気味なほど閑散としており、人々の生活痕だけが残されていた。


「……なあ、ここって人がいたのか?」

「昔はいました。色々あって、この拠点はほうきされてしまったので、もうほとんど人は寄り付きません」


 ほう、人がいないからこそ王が隠れるにはもってこいってわけだな。


 居住区らしき場所を進むと、小さな部屋に出た。

 小さいと言っても、居住区に比べればというだけで、うちのサークルが間借りしている茶道部の部室よりは広い。


 部屋の中央には複数のモニターらしき画面が浮いており、とてとてとリトちゃんが近づいていく。


「今、武器庫を開けますね」


 リトちゃんが何かしたかと思えば、モニターに様々な映像が映し出され、リトちゃんの手元にキーボードのような操作パネルが浮かび上がる。


 えぇ~っ、魔界なのにメカメカしいぞ。近代SFみたいじゃないか。

もっと生物っぽいものを期待してたんだが。

魔界666ツ道具~みたいな。


「どうぞ、中の武器はご自由にお使いください」


 リトちゃんの言葉で、周りを見渡せば、部屋の角の何もないと思っていた壁が、急に開き、中にさらなる小部屋が姿を現した。


 早速中に入ってみると……!


「うおおおっ……!」


 ファンタジーだ。一部SFだけど、日本では縁遠いファンタジーがそこに広がっていた。

 剣、槍、斧、弓、銃まである。


「あっ、でも弓や銃には頼らない方がいいと思います。天使は遠距離攻撃がききませんから」

「遠距離攻撃が効かない……?」


 異世界の達人、大輔氏が食いついているぞ。


 それにしても、そうか、銃も弓もダメなのか。

 ……正直、以前こいつのクラス転移の話を聞いてから、手に感触が残るような事はしたくないと考えていたんだが。


 そうだ、魔法! 魔法はどうだ!?


「なあ、大輔。オレたち、魔法とか使えないのかな?」

「こっちについてから色々試してはいるが、何も発現しないな。魔法はないか、俺たちには使えないと思った方がいい」


 なんだそうか、まあ、ある程度は覚悟していたからいいとして……。


 それならやっぱり、これだよな!

 レイピアのように先端が細身くなっている直剣を手に取る。

 手元にナックルガードがあり、まるで中世の騎士のようだ!


「くうっ、かっこいいぜ……!」


 ワルーンソード。

 オレが選んだこの剣で、オレは魔界を救う!


 大輔は無言で槍の選別をしていた。

 オレはスパっと決めたけど、こいつ割と買い物に時間かけるタイプなのかな。


「よし、これでいいだろう」


 暫く待っていると、ようやく決めたのか、十文字槍を手に持って武器庫から出て来た大輔。

 おいおい、あんなでかいの使えるのかよ。


頌路(ショウジ)は剣にしたのか」

「おう、なんたってカッコいいしな」

「かっこよさはともかく、悪くない状態の武器を選んだな」


「救世主さまがた、武器はおきまりですか?」


 リトちゃんが、とてとてと小走りで寄って来る。


「ああ!」

「俺も決まりました。随分と痛んでる武器が多かった気がしますが」

「もうしわけございません。たたかいが長引いていて、戦士たちの武器を回収するのもひと苦労なのです」


 途端に悲しそうな顔をするリトちゃん。

 こら大輔、そうやって可哀想な話をするんじゃない。


 まあ、救世主として選ばれたオレの力、見せてやるぜ!!




 ──ウィィィィィ! ウィィィィィ!




 うおっ、びっくりした!


 なんだ、なんだ?

 突然鳴り響いた背筋をピンと張らせる嫌な音程が耳をつんざく。

モニターのひとつが赤く点滅し、音を発している。

警報か何かの音だろうか。


「天使を補足しました。救世主さまがた、どうか、お願いいたします」


 やはり敵が来たってわけか!


「わかった、任せとけ!」

頌路(ショウジ)、頼むから無茶だけはするなよ、命は大事にだ!」


 なんだこいつ、すげえ水を差してくるじゃねーか。

 まあ、無茶はしねーよ、大丈夫だ!


 

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