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何度も異世界に強制召喚されるせいで毎回失踪扱いになる俺の真実譚  作者: モノリノヒト
三章 悪役令嬢というクエスト
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26話 信じた理論

「うおおおおおっ!」


 こういう時、どうして俺はいつも身体が熱くなってしまうのだろう。

 心は冷めて、魂は冷えきっているのに、期待されるとそれに応えたくなる。


 お嬢様は言った。やっておしまいなさい、と。

 お嬢様は期待しているんだ、俺なら出来ると。


 それならば、俺は!


「ちっ、こいつ!」


 鋭い突きを繰り出しては槍を退き、さらに突く。

 五段突きなんて大技はまだ無理だが、そのマネぐらいなら俺にも出来る。


「おい、魔法使えぇ!」

「お、おう!」


 細身の男が小太りの男に指示を出す。

 どうやら、細身の男が剣士。小太りの男が魔法使いのようで、事前情報と一致する。


 それなら、増援はないと見ていいだろう。


「熱の申し子、て、敵を穿つ矢となれ──炎の矢(ファイヤーアロー)


 背後から小太りの男が放った炎の矢が飛んでくる。


 大丈夫だ、射線は見えている。


 目線を細身の男から外すことなく身体のみ移動させ、炎の矢(ファイヤーアロー)を回避。


「く、くそっ!」


 やけになった細身の男が姿勢を低くして近づいてくる。


 また同じ手でくるつもりか!


 仕掛けさえわかってしまえば、どうということもない。


 だが。


「熱の申し子、て、敵を穿つ矢となれ──炎の矢(ファイヤーアロー)


 連携──!


 敵が狙っていたのは、同じ戦法ではなかった。

 このままでは被弾は確実、思いつきではあるが賭けに出るしかなかった。


「魔法は……イメージだ!」


 左手の指を炎の矢に向けてぐるりと一周。

 俺に向かっていた炎の矢(ファイヤーアロー)は、たちまちのうちに立ち消え、霧散した。


 成功だ!


「あ、あれ、おれ」

「ばっか、何やってん、だぁっ!」


 前方から攻めてくる男に強烈な突き上げを食らわせ、そのまま槍を半回転。


「あっ」


 穂先で喉元を搔っ切る。狙いは頸動脈だ。


 飛び散る鮮血。


 どうやら、日本人と身体の造りは変わらないらしいな。


 倒れ込む細身の男。


「あっ、あっ」


 うろたえる小太りの男。


「ね、熱の申し子、て、敵を穿つ矢と──」


 詠唱が終わる前に、左手の指を小太りの男に向けてぐるりと一周。

 炎の矢(ファイヤーアロー)はその形を成すことなく、魔力は霧散した。


「な、なんで」

「わからないか? 魔法はイメージだ。

イメージさえあれば、どんな事だって出来る」

「ひ、ひええっ」


 魔法が出ないという深刻な状況に脅える小太りの男。


 こいつ、魔法が使えるってことは、貴族の血を引いてるんだろうな……。


 なんて詮索は栓無き事か。

 今の俺は敵に対しては容赦しない。


炎の矢(ファイヤーアロー)

炎の矢(ファイヤーアロー)

炎の矢(ファイヤーアロー)!」


 いくら連発しようとも、一発たりとも炎の矢は生成されない。


「無駄だ」

「ひいい、な、なんでぇっ!!」  


 理論は簡単だ。

魔法は「一貫したイメージの維持」で成立する。

そのイメージがわずかでも“別方向に揺らぐ”と、魔力の収束が崩れて魔法は消える。

そのため、そのイメージに雑念をぶつけて生成を阻害しているのだ。


 不純物という名のイメージを送りつけて、相手の魔法を阻害する小手先のテクニック……。

 それでも、この世界にはそういった概念はないのだろう。


 名をつけるなら阻害魔法(アンチマジック)と言ったところだ。


「じゃあな」

「ファ、ファイッッ!!」


 喉元から十文字に切り裂き、小太りの男を倒す。


 人を殺すのも、もうとっくに慣れたはずだが、常に人殺しをしているわけではないので、さすがに胸にくるものがある。


 だが、それよりも。


「お嬢様、もう大丈夫ですよっ」


 ゆっくりと小屋へ近づく。


「……そういうのは、クライヴ様にやってほしかったですわ」

「はは、面目ないです」


 間一髪とはいえ、お嬢様を守れたのだから、良しとしよう。


 と、油断した瞬間。


「ダイスケ、危ない!」


 俺の背後に何かが迫っていた。

 お嬢様が慌てて詠唱を始める。


「熱の申し子、敵を穿つ矢となれ──炎の矢(ファイヤーアロー)!」


 だが、炎の矢は生成されない。

 そして俺の背が熱を帯びた。


「出ない! どうして!

ダイスケ、ごめんなさい!」


 背中が……熱い! 斬られた、のか!?


「これは困ったなぁ。二人ともやられちゃってるなんて」



 * * *



「あ、あなたは……!」

「ダイスケが強すぎたんだね~」


 痛む背中をかばいながらも危険を感じ、すぐさま向きを変える。

 小屋を背にしたこの形なら、最悪お嬢様は守れる。


 そして目の前にいる悪漢の正体は……。


「何やってるんですか……ライネスさん!!」

「ん~? 漁夫の利を得ようとしたんだけどね」


「ライネス、どういうことですの!?」

「ご自分の胸に聞いてみません?」


 ライネスさんが、左手の親指で自分の胸をトントンと叩く。

 お嬢様の顔は怒りと焦燥で真っ赤だ。


「ま、安月給で、わがままお嬢様のお守りは飽き飽きってことですよ」


「……あんたって人は!」

「おお、怖い。どうやってお嬢様を見つけたのかとか、どうやって僕より早く着いたのかとか、本気のダイスケは興味深いねぇ」


 あくまで飄々とした態度を崩さないライネス。


「ダイスケ、逃げましょう。ライネスが相手じゃ無理よ!」


 そう言われて逃げるわけにはいかない。

 お嬢様だけが逃げるというなら話は別だが、恐らくそう容易く逃がしてくれそうにない。


「大丈夫です、結構強いんですよ、俺」

「知ってるわよ!いっつもいっつも手加減して!わたくしに失礼だと思わないの!?」

「えっ」


 矢のようにまくしたてるお嬢様。

 八百長までバレてたとは予想外、墓穴を掘ったか。


 それを聞いてライネスが笑う。


「ダイスケ、君はホントにへたくそだな~」

「何がですか」


 知らず知らずのうちに距離を詰められている……。


「ん~、演技も、わがままお嬢様の扱いも、槍も。

全部だよ」


 言い終わるが早いか否か、ライネスが瞬時に飛び込んできた。


 (はや)い! マイナと同じか、それ以上!?

 これがライネスの本気というわけか。


「握りが甘いよ~疲れてるのかな」


 槍から感じる微弱な振動、真っ二つに割られた銅金、太刀打ちから穂先までが宙を舞う。


 ──!?


「どう? 僕の腕も捨てたもんじゃないでしょ」

「冗談きついですよ、銅金に細工してあったんですね」


 予め、銅金を脆くしてあったのだろう。

一瞬「なぜ」が頭を埋め尽くしたが、ふと思い出した。


 この槍は出発前、ライネスに渡された出所不明の槍だと。


「ありゃ、よく見てるね~。でも僕の太刀筋は見えない、と」

「居合いでしょう」

「知ってても見えないから居合いは強いのさ~」


 ──!!


 気配を感じて後ろにのけぞったが、左の肩口がざっくりと裂けてしまっている。


「……立ち合いでは居合いなんて見せてくれませんでしたが」

「手の内を見せるわけないでしょ」


 くそ、参ったな、本当に見えない。

 いつ抜刀したんだ。

 いや、そもそもどこに刀を……?



「──お嬢様ーー!」


 捜索隊の声だ。


「ライネスさん、そろそろ時間切れですよ」

「うんうん、急がないと捜索隊が来ちゃうからね。次で終わらせるよ」


 いや、もう諦めて欲しいんですけど。


 一体、今晩は何回の賭けをすればいいのだろう。

 次のライネスの一太刀にも、また賭けだ。


 賭けに勝てば無傷で勝利、負ければさすがに死ぬかなぁ。


 異世界で死んだらどうなるんだろう。

 きちんと五体満足で送還されるのか、それとも魂が抜け出た身体だけの状態で送還されるのか、はたまた、送還されないのか……。


 間近に迫る死の予感と、ある種の確信を持った賭けが、始まった。


「さよなら、ダイスケ」


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